第300話 第二次入替戦 慎太郎 side 1

蘇我の野郎が戦闘を終えて自席へと引き上げて行く。強え。圧倒的なまでに強え。アイツのスキルが時空系なのは間違い無いがそのスキルの効果さえもわからない。気に入らねぇが蘇我の強さは本物だ。冷静に考えてもアイツに勝つ為の勝ち筋が見えない。蘇我と戦う事になったらマッチアップ出来るのは牡丹しかいない。だが牡丹でも本当に勝てるのだろうか。俺には相性が悪いように感じる。一度みんなと話し合った方がいいかもしれないな。


ーー慎太郎が珍しくシリアスモードで物事を考えている。黙ってキリッとしていれば超絶イケメンなのだが基本的に馬鹿属性持ちなので非常に残念だ。


『でハ、入替戦第2戦を始めましょうカ。序列第2位アマノシュウトサマ、誰を指名致しますカ?それとも回避致しますカ?』


ーーツヴァイが天野へと問う。


ーー天野修斗、18歳、高校生。特に特筆すべき特徴があるわけではない普通の高校生だ。だが俺'sヒストリーに関しては違う。俺'sヒストリーは楓よりも前に開始した古参の1人だ。だが目立って大きな成果を挙げてきた訳では無い。必要以上に戦功を挙げないように敢えてして来たのが天野修斗という男だ。

そんな天野が作ってしまった大きな誤算が”闘神”予備軍への招集だ。前回のクランイベントで配置が悪かった為にかなりの数のクランを倒す羽目になってしまった。それにより予備軍序列第2位にまで上り詰める事態になってしまったという訳だ。

そんな彼が下す決断は決まっているーー



「俺は回避する。」


『宜しいのでスネ?』


「別に”闘神”なんかに興味はない。」


『わかりましタ。序列はどう致しますカ?』


「こんな戦いにも興味はない。この予備軍ってのからも除名してくれ。」


『それは出来かねまス。”闘神”並びに”闘神”予備軍に選出された方々には戦って頂く義務がありまス。』


「は?そんなのおかしいだろ。やりたくないものをなんでやらなきゃいけないんだよ。」


『アマノサマは古参のプレイヤーなのに理解が悪いようでスネ。貴方方に意見を言う権利なんか無いのデスヨ。』


「あっそ。ま、いいよ。ここにいてもずっと拒否するから。それでもいいんでしょ?」


『なるホド。その点も改正する必要がありマスネ。ではこの場でルールを改正致しまス。意欲の無い回避は禁止とさせて頂きマス。』


おいおい。横暴すぎだろ。意欲なんて曖昧なもんをどうやって判断すんだよ。これじゃ俺だってツヴァイの鶴の一声で回避出来なくなるって事だろ。滅茶苦茶だ。


「…いくらなんでもそれは無理ありすぎだろ。ふざけんなよ。」


天野って兄ちゃんが流石にキレ始める。そりゃそうだ。頑張れ兄ちゃん。俺は応援してやるぞ。


『確かに仰る通りデス。ですので救済措置を設けまス。』


「救済措置?」


『葵、出て来て下さイ。』


「はいはい、人使い荒いんだからー。」


ーーツヴァイの声に反応し、ツヴァイの背後から夜ノ森葵が現れる。


『彼女は夜ノ森葵とイイマス。ワタクシの直属のリッターでス。彼女に勝てれば予備軍からの除名を許可致しまス。』


うわぁ…汚ねえな…勝てるわけねーだろ。葵の奴って楓さんと互角だったんだろ?”具現”と互角の奴が相手で勝てるっていったらフリーデン装備の牡丹クラスじゃなきゃ無理やん。無理ゲーですやん。汚ねえな。


「…本当だろうな?」


やめとけ兄ちゃん。お前はツヴァイに騙されてるだけだ。勝てる訳がない。


『御約束致しまス。ついでにアルティメット確定ガチャ券とゼーゲンも差し上げまスヨ。』


「嘘じゃないだろうな?」


『神に誓って御約束致しまス。』


兄ちゃん、冷静になれって。お前はそいつに騙されてるぞ。


「わかった。下でやるのか?」


『この狭い所で返り血が飛ぶと他の方に迷惑ですからネ。下でお願い致しまス。葵も宜しいデスネ?』


「私はどっちでもー。」


葵は気怠げで面倒くさそうな雰囲気を醸し出している。だがコイツだって絶対勝てるとは言えないはずだ。天野って兄ちゃんが勝つ事だってありえなくはない。この一戦は注目せざるを得ないだろう。


ーー2人がバトルフィールドへと降り立ち、一定の間合いを取る。


『では入替戦第2戦は御自由に初めて下さイ。』


ツヴァイが2人に戦いの開始を告げる。2人とも特に動く様子は見られない。両者共に腰に差したゼーゲンを引き抜く事すらしない。

その時だった。葵が口を開く。


「そんなに怯えなくてもいいよー?苦しめたりもしないからさ。だから安心して逝きなよ。」


葵の軽口が癇に障ったのだろう、天野が不愉快そうな表情を見せる。


「リッターだかなんだか知らないけど調子に乗りすぎじゃね?俺だってこのゲームを初期からやってんだ。あんまりナメるなよ。」


「へー、それは凄いねー。じゃあ少しハンデをあげるね!私はスキル使わないから頑張ってみなよ!」


「は?何この女。きっしょ。」


葵の挑発に天野が苛立ちを感じ始める。


「まだ足りない?んー、ならゼーゲンを一回だけ振るよ。私の攻撃は一太刀だけ。それならいいでしょ?もしそれを躱せたり、防いだり出来たら私の事を好きにしていいよ。殺そうと犯そうとキミの好きな事をすればいい。」


葵が天野を煽りまくる。それだけ自信があるのだろう。


「約束守れよ?」


「もちろん。さ、スキル使うなら使いなよ。」


やる気を出した天野が張り切った感じにスキルを発動させる。金色のエフェクトに包まれてはいるが魔法陣は発動していない。強化系だ。俺はそれを見るなり天野に対する同情心のような哀れみの感情が芽生えた。残念だがそんなもんじゃ葵は倒せない。俺は戦いの結末を悟った。


「一応言っておくけど強化系の三重がけだからな。1対1なら絶対負けない。」


勢いづいた天野は饒舌に喋る。強化系のトリプルなんて初めて見たがそれでも”具現”には遠く及ばないだろう。どうせ葵もスキル使わないなんて約束は反故にするに決まっている。勝てるはずがない。この勝負は見せしめだ。今後やる気を見せないプレイヤーは始末するという警告を与える為の見せしめとして行われたのだ。全てはツヴァイの野郎の計画通り。気に入らねぇがそれに抗う術は俺たちにはない。せめて天野が一矢報いる事が出来ればいいんだがな。


「能書きはいいよ。さっさとかかってきなよ。私はキミの攻撃の後に振らせてもらうから。」


「それじゃ行かせてもらうぞ。」


ーー天野が腰に差したゼーゲンを引き抜く。追うように葵もゼーゲンを引き抜く。天野の身体を包む金色のエフェクトが一層輝きを増し、1秒も経たない間に葵との距離を詰める。そして手にするゼーゲンを振り被り、葵の左肩へと振り落とす。だが、皆がほんの一瞬瞬きをしている間に葵が”闘神”側の控え室へと戻って行く。皆の頭に疑問符が浮かぶのと同時に天野の首が綺麗に落とされ戦闘が終了した。


「よっと。はい、これでいいんでしょ?」


『ご苦労様でしタ。さテ、御理解されましたカ?我々運営の裁定に異議を唱えるモノはこのように致しまス。もちろん勝てれば構いませんヨ?ですが彼女に勝てるモノはここにはおりませン。全員でかかっても勝てませんヨ?』


「そうそう。誰とは言わないけど私と戦って良い勝負したからいけるって思ってる人がいるかもしれないから念の為忠告ね。あの時の私は1割の力も出してないから勘違いはしないようにねー。」


葵が明らかに楓さんに対して挑発する。だが当の楓さんは素知らぬ顔で目すらも合わせようとしない。


『フフッ、特に意見が無ければ進行させて頂きマス。』



ーーこの時葵の剣を見極められた人間は多くない。5名だけだ。蘇我夢幻、芹澤楓、島村牡丹、橘正宏という純粋なる強者たち。


ーーそして、田辺慎太郎を含めた総勢5名が葵の剣を見極められた。



『入替戦第3戦を始めましょうカ。』






********************



かつしげです。とうとう300話を迎える事が出来ました。これも読んで下さる方のおかげです。ありがとうございます。まだ話は全体の10パーセント程度しか消化していないので完結には程遠いかと思いますが読んで頂ければ幸いです。

今後とも慎太郎たちをよろしくお願い致します。




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