第233話 ガチャ回し

俺たちはガチャを回す為にアルタール部屋へとやって来た。少しでも良い結果だといいけどな。俺は運が無いからなぁ。


「じゃあ…誰から回す…?」


ぶっちゃけ俺からは回したくない。3番目ぐらいに回したい。


「じゃあ私からでも良いですかっ?」


そう言って手を挙げたのは美波だ。良かった。最初なんて絶対嫌だからな。


「おし!じゃあ美波にトップバッターは任せた!」


「はいっ!がんばりますっ!」


そう言って美波は祭壇へと登って行く。

頑張れよ美波。美波ならきっと大丈夫だ!!

暫くすると今までのガチャと同様に天から光が舞い降りて来る。だがその色は白っぽい光だ。今まで見た事が無い。レアなのかな?

光が消えると美波が肩を落としてこちらへ戻って来る。その表情から察するに良い結果では無い。


「すみません…両方ともコモンでした…」


美波が凄く申し訳無さそうに俺たちに言う。


「そんな気を落とす事ないよ。美波が悪いんじゃないさ。」


「そうです!美波さんは悪くありません!」


「美波さん、気になさらないで下さい。」


「そうよ美波ちゃん。そういう時は飲みましょう。」


「みんな…ありがとう!!」


うんうん、やっぱ俺たちのチームワークは最高だな。あそこで飲んだくれてるダメープルを除けば。


「そんでどんなのが当たったの?」


「これですっ!」


美波がスマホを見せて来るので俺たちが覗き込む。



《 コモン 能力低下 効果 トラップスキル。使用中のメインスキル能力を30分間、50%downさせる。但し、効果を与える為には敵に魔法陣を踏ませなければならない。尚、1日1回のみ。 Lv.1 》


《 コモン 機動力封じ 効果 トラップスキル。3分間その場から動く事が出来なくなる。足技の使用も不可。但し、効果を与える為には敵に魔法陣を踏ませなければならない。尚、1日1回のみ。Lv.1 》



「おいおいおい、これでコモンなのかよ。かなりの効果じゃね?」


「そうですよね。私も見た時は正直驚きました。」


「メインスキルの能力を半分にするのは恐ろしいですね。アルティメットですらSSを下回る可能性があります。」


「この《機動力封じ》はエンゲルにはどうなるのかしらね?文面だけだと足が動かせないようにしか取れないから飛ぶのはいけそうだけど。」


「大丈夫かもしれませんね!私は飛べると思います!」


これだけ凶悪な効果だと本当にやべーな。一歩間違えたら牡丹と楓さんでもやられかねないぞ。


「では次は私が参ります。」


続いて名乗りを上げたのは牡丹だ。


「気楽にね。責任なんか感じる事はないからね。」


「ふふふ、ありがとうございます。では参ります。」


牡丹が意気込んで祭壇へと上がる。

美波の時と同様に天から光が舞い降りて来る。色は黄色だ。て事はレアか?

牡丹が肩を落として戻って来る。


「申し訳ございません…タロウさんの想いに報いる事が出来ませんでした…」


「何言ってんだよ。そんな事気にしないで。牡丹が悪いんじゃないんだから。」


「そうだよっ!私だって全然だったんだからっ!」


「牡丹さんは悪くありません!元気を出して下さい!」


「そうよ牡丹ちゃん。一杯飲んじゃう?」


俺たちのチームワークは最高だな。互いを思いやれる事程美しいものは無い。ダメープルはスルーしよう。


「ありがとうございます。私が入手したのはこちらになります。」


牡丹からスマホを手渡される。



《 レア 倍加 効果 3分間攻撃力が倍になる。但し、自分自身のみ。尚、1日1回のみ。Lv.1 》


《 コモン 武器封じ 効果 トラップスキル。30分間武器の使用が出来なくなる。但し、効果を与える為には敵に魔法陣を踏ませなければならない。尚、1日1回のみ。Lv.1 》



「おぉ!レアじゃん!てか強!?攻撃力倍って凄くね!?」


「という事は牡丹ちゃんが前回のゲリライベントで使ったフリーデンと併せて使えばあの威力が倍になるんでしょうか?」


「そ、それって凄いですよね!?」


「瞬間的な火力は半端無いって事になるな。しかもこれでレアだろ?まさかアルティメットになると10倍とかあんじゃねーだろうな。」


「その可能性はありますよね。そしてそれを封じる手もある。ツヴァイの言う通り戦略が非常に大事になりますね。」


「そうだな。それにこの《武器封じ》ってのさ、フリーデンとゼーゲンも封じられんのかな?コモンでこんな凶悪なのやられたら堪らんぞ。」


「そうですよね…私たちの強みが根こそぎ奪われるようなものですものね…」


ーー皆に重苦しい空気が立ち込め始めるが、それを否定するように楓が口を開く。


「多分それは無理だと思います。」


「どうしてですか?」


「私たちのゼーゲンも、牡丹ちゃんのフリーデンも武器だとは一言も言われた事がありません。”特殊装備”としか。それなら封じる事は出来ないんじゃないでしょうか?」


「うーん、揚げ足取りに感じるけど。」


「前から思っていたんですけどシミュレーションができると良いですよねっ。私たちだけで練習ができたら便利なのになぁ。」


『出来ますよ。』


俺たちが会話をしていると突如脳内に声が響く。運営だ。


「どう言う事ですか…?」


『今回のメンテナンスにより模擬戦部屋が導入されました。マイページにもう一つ部屋が追加されましたのでご確認下さい。』


「模擬戦って?俺らで戦えんの?」


『はい。実戦形式の模擬戦が楽しめます。一対一でも多対一でも可能です。それに死ぬ事も怪我をする事もございません。首を斬り落とされたとしても模擬戦が終了となるだけで首はちゃんと付いておりますからご安心下さい。模擬戦中は痛みを感じる事もございません。ただ損傷具合により身体の稼働が出来なくなります。』


「本当に実戦形式で出来るんだな。それに死なないってのが最高じゃん。ガチャ回し終わったらやってみる?」


「いいですねっ!このメンバーで戦うなんて絶対ないから楽しみですっ!」


ーーそれを聞いた楓に天啓が舞い降りる。


「牡丹ちゃん、美波ちゃん、アリスちゃん。賭けをしない?」


「賭け…ですか?」


「私は賭け事は好まないのですが…」


「どんな内容ですか?」


「え?俺は?」


「トーナメントをして優勝した者には賞品を出すというのはどうかしら?」


「わぁ!楽しそうですねっ!」


「博打でないのでしたら私は大歓迎です。」


「面白そうです!賞品は何ですか?」


「あれ?もしかしてシカトされてる?」


「タロウさんとの1日デート券。」


「「「……!?」」」


「あ、シカトされてる理由がわかった。」


「優勝者にはそれを進呈する。そして絶対に誰も邪魔をしてはいけない。それを絶対の誓いにしたいのだけれどどうかしら?」


「楓さん、質問があります。」


ーー背筋を伸ばした綺麗な挙手を牡丹がする。だがその目はギラついてかなり食い気味であった。


「何かしら?」


「それはお泊り可なのでしょうか?」


「可じゃねぇよ。不可に決まってんだろ。何言ってんのこの花は。」


「良い質問ね。当然お泊り可よ。」


「いやいや、ダメですから。とうとう酒で脳までやられ出したんですか。」


「はいっ!私も質問ですっ!!」


ーー美波もギラついた目で食い気味に挙手をする。


「どうぞ。」


「既成事実を作ってしまってもいいんでしょうかっ!?」


「良いわけねぇだろ。何言ってんのこのクンカーは。」


「良い質問ね。当然良いわよ。」


「だからダメですって。一回病院行った方がいいですよ。完璧脳がやられてますから。」


「先生!私も質問です!!」


ーーアリスも同様にギラついた目で挙手をする。


「どうぞ。」


「夜の保健体育の授業はアリですか!?」


「おい、アリスに変な事教えたの誰だ。ナシに決まってんだろ。」


「良い質問ね。当然アリよ。」


「待て待て待て。黙って聞いてれば何を言ってんのお前らは。いい加減にーー」

「タロウさん、少しうるさいですっ。」

「申し訳ありませんが私たちは大事な話をしております。少し静かにして下さいますか?」

「真剣な話の邪魔をしてはいけないんですよ?」

「大人しくして下さい。」


ーー4人が血走った目で慎太郎をたしなめる。その何とも言えない雰囲気を察した慎太郎は、


「あ、はい。すみません。」


ーー簡単に屈したのだった。


「じゃあ満場一致で可決という事で良いわね?どんな事があっても結果を受け入れる。邪魔をしない。期日は来週の土日で一泊二日。トーナメントはクジ引きで決める。これでどう?」


「ふふふ、素晴らしい案ですね。」


「はいっ!楓さんは天才ですっ!」


「流石は楓さんです!!」


「……。」


「それじゃさっさとガチャを回してトーナメントを決めましょう。私からガチャ回すわね。次はアリスちゃん。最後にタロウさんで。」


「はい!」


「…はい。」


ーーヘタレな慎太郎との1日お泊まり券を巡った浅ましい模擬戦が始まる。

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