第202話 やっぱり美波は正妻ですっ!
【 美波 side 】
「…?何だか言ってる事がよくわからないですね。もしかして不思議ちゃんですか?『制裁力』とか言ってますけどかなり危険思想ですね。その田辺慎太郎という人の信者か何かですか?」
「フッ、あなたには『正妻力』が何なのかわかっていないみたいね。」
ーー日本語とは難しい。
だがここまで話が噛み合わ無くても美波にとってはどうでもいい事だ。
『正妻力』というワードで美波はかつてないほど調子に乗っている。そのお陰で不安は完全に忘れてしまっているし、何より負けるなどとは微塵も思っていない。慎太郎が絡むとポンコツ化するのを今回は吉と出たようだ。
『ミナミ、妾が防御を担当するがこの前のプレイヤーやゲシュペンストと同じにいけるとは思わない方がいい。しっかりとゼーゲンで奴の剣を受けるだ。最悪、ミナミの反応が追いつかない可能性もあるから常に細心の注意を払え。よいな?』
(フッ、大丈夫よ。何も問題ないわ。だって私は『正妻』なのだから。)
『は?』
(思えば簡単な話だったのよ。私はタロウさんの『正妻』。つまりは『正ヒロイン』って事じゃない。そんなポジションにいる私が負けるわけがないわ。怯える事なんて何も無かったのよ。)
『……』
(そして…とうとうアレを使う時が来たのよっ…!!)
『…アレ?』
(美波アルティメットスラッシュをっ!!!)
『……』
ーーそう話す美波の目は真剣そのものであった。ふざけている様子など微塵も見られない。心の底から自身が『正妻』である事と『正ヒロイン』である事を疑っていない。
そして『美波アルティメットスラッシュ』とやらを本気で使えると思っているのだ。
その様子を見るノートゥングは思っていた、『コレ、駄目かもしれない』と。
「何だかわかりませんがそろそろ行かせて頂きますよ。さっさと終わらせてセックスさせてもらいます。」
「フッ、かかって来なさい。あなたに『正妻力』を見せてあげるわ。」
「じゃあ遠慮無く。」
ーー風人の目つきが変わる。
『来るぞ!集中しろ!』
「フッ、問題ないわ。」
ーー風人が美波との距離を瞬時に詰め、剣を右側から振り抜こうとする。
ーーそしてその一歩前にノートゥングが美波に回避行動の指示を出す。
『左。』
「フッ、見えてるわ。」
『え?』
ーーノートゥングが指示を出すよりも早く美波が回避行動を取り、風人の剣を難なく躱す。
「へぇ、やりますね。」
ーー初太刀を避けられた風人は一旦距離を取る為に後方へと跳ねる。
割と本気で一撃で勝負を決めるつもりであった風人にとっては美波が難なく躱した事に少なからず動揺があった。
『ほう!やるではないかミナミよ!』
(フッ、『正妻』として『正ヒロイン』としてできて当然よ。)
ーー思い込みとは恐ろしいものだ。
本来の美波の実力では風人の攻撃を躱す事はおろか、受ける事さえ出来ない。ノートゥングの力を借りてどうにか受ける事が関の山だ。
だが自分が『正妻』で『正ヒロイン』だと思い込んでいる美波にとってはこの程度の相手に負けるはずが無い、だって『正妻』なんだからと訳のわからない思い込みによって限界以上の力を引き出してしまっているのだ。
もしかしたらこれこそが美波の言う『正妻力』なのかもしれない。
「ではこれはどうですかッ!!!」
ーー再度風人が美波へと突っ込み攻撃を仕掛ける。前後左右から剣を振り、畳み掛けるように美波を襲う。
だがそんな風人の猛撃を美波は涼しい顔で受け流す。決してノートゥングから指示が出ている訳では無い。にも関わらず美波は華麗に風人の剣を捌いている。
慎太郎たちが見ればもはや美波では無い別の誰かが乗り移っているとしか思えないような光景だ。
「そんな…馬鹿な…僕の剣が軽くいなされるなんて…」
ーー美波の技量に風人が驚愕する。
仮にもリッターという地位にまで上り詰めた風人にとって唯のプレイヤーである美波にこうまで自身の剣が通用しない事など到底受け入れる事が出来なかった。
『す…凄いではないかミナミ!!!妾は感動したぞ!!!』
ーー姿こそ見えないが美波の驚異的な動きにノートゥングが目を輝かせているのが手に取るように想像出来る。
(フッ、これぐらい『正妻』なんだから当然よ。)
ーー完全に美波の独壇場である。
いくらゼーゲンで身体能力が向上しているとはいえ強すぎだ。思い込みでここまで強くなるとは誰が想像出来たであろうか。今なら牡丹や楓にも匹敵する程の力を美波はノートゥングと風人に見せつけていた。
「ふざけるな…!!!僕はリッターだ!!!リッターの夏井風人だッ!!!それがこんな名も知らぬプレイヤーの女如きに負けるはずがないんだッ!!!」
「あなたは”元”でしょ?」
「うるさいッ!!!黙れッ!!!」
ーー風人が怒りに身を任せ、美波へと突っ込む。
この戦いにおいての勝敗は精神力が分けたのだろう。終始冷静であった美波。怒りや焦り、侮りといった精神状態で戦いに臨んだ風人。どちらが有利なのかは語るまでも無い。
「決着をつけましょう。」
ーー美波が両手でゼーゲンを構える。
当然ながら剣の持ち方では無い。テニスのラケットを握る持ち方、両手バックハンドの型だ。
ーー風人が美波へと斬りかかる。
だが美波はそれをゼーゲンで受ける事無く軽く躱す。
そして隙だらけの風人の胴へと強烈な両手バックハンドを叩き込む。
「美波アルティメットスラーッシュ!!!」
「グガハッ…!!!」
ーー美波の渾身の一撃により風人の身体が血に染まりながら宙を舞う。
「つ…強い…」
ーーその言葉を最期に夏井風人はここに散った。
「わかったかしら?これが『正妻力』よっ!!!」
ーー自称『正妻』、相葉美波の『正妻力』を見せつけた戦いが人知れず幕を閉じた。
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