第198話 剥奪されし者
【 楓・美波・アリス 組 2日目 PM 6:40 洋館 東棟 地下1F 地下牢 】
ーー重く冷たい空気が張り詰めている地下牢に楓と美波とアリスがいる。地下牢へと入った早々に出口を塞がれた彼女たちには強い緊張が走っていた。そしてそれに輪をかけるように牢の中にいるモノの存在によって更に緊張は強まっていく。
「誰かが…います…!?」
美波ちゃんがそういうので牢内へと目をやると確かにナニカがいる。4体だ。それぞれの牢に1体ずつナニカがいる。
「囚人…でしょうか…?」
アリスちゃんが呟く。牢に居るのならそう捉えるのが自然だ。
「そう考えるのが妥当よね。でもそんなに怯える事は無いわよ。牢から囚人が勝手に出られるわけ無いもの。」
『だと良いがな。』
「えっ?」
ノートゥングがそう答えた時だった。牢の中のモノたちがこちらへと気づく。
「オイ!!プレイヤーだ!!プレイヤーが来やがったぞ!?」
「本当だ…やっと…やっと出られる…!!」
牢の中に居るのは人間だ。間違いなく人間だ。なぜここに彼らは入れられているのだろう。それに私たちがプレイヤーだと認知している。
「人間…?化け物でもなんでもないただの人間ですよね…?」
「私にもそう見えるわ。」
「あの人たちは一体…?」
『油断はするな。一介のプレイヤーというわけではない。何か異様な気配が漂っておる。人間だからというだけで気を抜くでないぞ。』
ノートゥングの言葉に私たちは緩みかけた気持ちを引き締め直す。確かにそうだ。得体の知れない存在に警戒を解こうとしていたなんてどうかしている。あまりにも安易だったわ。
ーーその時だった。
ーーガチャン
ーー囚人たちの牢の鍵が開く。
「な、なんで!?」
「鍵が勝手に!?」
「みんな!!戦闘準備よ!!」
ーー楓が戸惑う2人を一喝し、戦闘態勢へと転じる。
中にいる囚人たちが外へ出て来た。数は3人。全て男だ。細身だが筋肉質な体型の20代ぐらいの男たちが感慨深い表情で牢の外を見ている。
「あー…牢から出たのどれぐらいぶりだろ…わかんないや…」
「そうだな。長かった…それだけしか無い。」
「……」
やはり私たちと同じ人間だ。普通に会話をしている。なぜ彼らはここに居るのだろう。どうして牢に?
疑問は尽きない。
「だが3人か…1人足りないな。」
「あれ?緒方瑞樹さんは?緒方さーん!出ないんですかー?」
ーー男の1人が牢の中から出て来ないもう1人の囚人に呼びかける。
「…私はいいわ。貴方たちで好きにやってちょうだい。」
「良いんですか?それはありがたい。元”ヴェヒター”である貴女が出てしまったら僕たちの1人は居残り確定ですからね。でも本当に良いんですか?いつ出られるかわからないんですよ?」
「…”ヴェヒター”を剥奪された私にはここから出たとしても何も無いもの。…”刻”が来るのを待つわ。」
「そうですか。では遠慮無く僕たちで頂きましょうか。」
「ああ。」
”ヴェヒター”とは何なのかしら。良く分からないワードだけれどあの女が出て来ないなら都合が良いわ。あの女は普通にしていても尋常で無い程の圧を感じる。相当な手練れなのは明らか。戦う意思が無いのなら出来ればほっておきたいわ。
ーー現に楓が牢に入って先ず意識したのは右奥の牢に入っている緒方瑞樹と呼ばれている女性にだ。他の3人も異様な気配と圧を放ってはいるが緒方は比較にならない程だ。まだ2日目という状況もあるが、戦って勝てるか分からない相手なら避けたいと思うのは当たり前の話であろう。
「早い者勝ちという事で良いか?」
「そうですね。」
「…あの茶髪の女は俺がやろう。」
「翁島さんが喋るなんて珍しいですね。好みなんですか?」
「お前も解っているんだろう?あの茶髪は相当に強い。装備の無いお前たちでは手に負えんだろう。」
「解ってますよ。やっと出られたんだから少しはふざけさせて下さいよ。じゃあ僕は黒髪の娘で。いいですね郷戸さん?」
「ああ、俺は子供ってのが気が進まんが仕方無いだろう。」
ーー男たちも戦闘態勢へとシフトする。
楓たちに緊張が走る。
「じゃ、始めましょうかプレイヤーの皆さん。」
ーー男の声がけと同時に周囲が暗くなる。
そして、
「え…?みんなは…?」
ーー先程まで居た地下牢とは違うリザルト部屋に酷似した空間に楓はいる。
「案ずるな、貴様の仲間は他の連中と交戦している。勝った者だけが地下牢へと戻れる。それがルールだ。」
ーー楓の前には翁島と呼ばれていた男がいる。
この男も相当できる。楓は翁島が出す剣気を感じ、警戒を強める。
「それともう一つ、この空間ではスキルは使えん。純粋に剣でのみ勝敗をつける。俺たちには分かりやすくていいだろう?」
ーー翁島がラウムから剣を取り出し楓に対して構えを見せる。
「ウフフ、そうね。あなたを倒せばそれで終わり、話が早くて助かるわ。」
ーー楓も鞘からゼーゲンを引き抜き翁島に対して構えを見せる。
「俺はフライヘルの爵位を与えられし元リッターオルデンの一人、翁島香登。いざ、勝負。」
ーー翁島が名乗ると、更に強力な剣気を放ち、楓へと敵意を向ける。
「…前にもこんな事あったわよね。中二病みたいで嫌だけど…”闘神”芹澤楓、お相手するわ。」
ーー”闘神”芹澤楓と元リッター翁島香登の戦いが始まる。
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