第176話 飲み過ぎはいけません

今日も一日が終わり牡丹とともにマンションへと戻って来る。こんな美少女と一緒に帰って来るとか今までならありえない話だ。それもさっきまで抱き合ってキスしてたとか最高すぎじゃないか。

でもさ…生殺しだよなぁ…最後までしてぇよなぁ…もう押し倒しちゃおうかなぁ…親も認めてるんだから犯罪にならないしさぁ…いつもその巨乳が当たって息子が怒り狂ってるんだよ。だからーー

「ーーどうかされましたか?」


牡丹でエロい事を考えてるのがバレたのだろうか。普通に歩ってるだけなのに牡丹が疑問形で尋ねてくる。牡丹の勘の良さって尋常じゃないよな。


「な、なんでもないよ?」


「そうですか?アイスをそんなに大量に買われたりしていつもと行動が違うと心配になります。」


これは違うんす…女王陛下への献上品なんす…


「なんでもないよ。牡丹は優しいな。ありがとう。」


俺が牡丹の頭を撫でると頬を染めて幸せそうな顔を見せる。


「何かあったら言って下さいね?私はタロウさんの為なら何だって致しますので。」


…その台詞はあかんで牡丹はん。ワイの理性無くなる台詞やで。お城に連れてくでほんま。


「おう。」


素数を数え、理性を保ちながら俺は自室の扉を開ける。するといつもの光景がーー


「タロウさん!!酷いじゃないですか!!」


ーー広がってなかった。美波とアリスが来るよりも遥かに早く楓さんがご立腹モードで玄関で仁王立ちしている。


「あ、楓さん来てたんですね。」


「来てましたよ!!お邪魔してます!!それよりも酷いですよ!!私の冷蔵庫ぐるぐる巻きじゃないですか!!南京錠までかけてあるし!!」


「楓さん。」


「いくらなんでも酷いです!!あれじゃ使えないじゃないですか!!」


「楓さん。」


「お酒は私の生き甲斐なんです!!それを奪うのはダメです!!」


「楓さん。」


「なんですかっ!?」


「正座。」


「え?」


「正座。」


「……」


ーー玄関にいつもと違う雰囲気が漂っている。いや、慎太郎の出す雰囲気がいつもと違うのだ。慎太郎の目がどうしようもない人間を見るような冷たいものに変わっている。その異様な雰囲気を4人は感じ取っていた。そして楓はその場に正座をする。


「隠れてコソコソと何をやってるんですか。いい歳した大人がこんな事して。」


「だ、だって…お酒が…!」


「お酒が、じゃありませんよ。アリスまで巻き込んで何をやってるんですか。俺と約束しましたよね?一日一缶って。」


「で、でも…!!一缶なんて…!!」


「だいたいからしてすでに酒臭いじゃないですか。どうせ電車の中でガブガブ飲んで来たんじゃないですか?」


「そ、そんなには…」


「何本飲んだんですか?」


「…10缶ほど。」


「350ですか?」


「…500のロングです。」


「はぁ…飲み過ぎですよね?」


「でも…その…」


「楓さんは約束を守れないんですね。」


「ち、違います…!!」


「そうです、それは違いますよタロウさん。」


ーーここで静観していた牡丹が楓に助け舟を出す。


「牡丹ちゃん!!」


「女には秘密の一つや二つ作るのが必要だと楓さんは仰いました。時には約束を破る事が大切だと私は教わったのです。大変感銘致しました。」


「牡丹ちゃん!?」


ーー助け舟ではなく、核弾頭をぶん投げて行っただけであった。


「ふーん、牡丹まで巻き込んでたんですね。」


「あわわわ…!!」


ーーここから小一時間ほど慎太郎の説教が続いた。



「ーーわかりましたか?」


「…はい。すみませんでした。」


ーー慎太郎にこっ酷く叱られた楓は憔悴しきったように項垂れている。


「やはり悪は栄えぬという事ですね。勉強になりました。」


「あはは…でも今回は楓さんが悪いかな、タロウさんだって意地悪で言ってるんじゃないし。」


「私は複雑な気持ちです…」


ーーダイニングから顔を出して美波たちは顛末を見届けている。


「とりあえず一ヶ月禁酒です。」


「そ、そんなぁ…!?」


ーー慎太郎が感情の無い冷たい目で楓を見る。


「うぅ…わかりました…だからその目はやめて下さい…」


「今日の飲み会も無しです。」


「ひ、酷すぎます!!私はそれを楽しみに生きて来たんですよ!?」


ーー流石に楓が可哀想になり、ダイニングから3人が出て来る。


「タロウさん、それは少し可哀想じゃないですか…?」


「み、美波ちゃん…!!」


「タロウさんのご命令には私は全て従いますが、流石に私もそう思います。楽しみを奪われるのは悲しいですから。」


「ぼ、牡丹ちゃん…!!」


「うーん。でもなぁ…」


「私からもお願いします。私も同罪みたいなものですから楓さんだけ罰を与えられるのは辛いです。」


「あ、アリスちゃん…!!」


「うーん…」


「そんなにイジメたら楓さんだって泣いちゃいますよ?」


「ぐすんぐすん…ちらっ。」


「あ!やっぱりこの人反省してない!!自分で『ちらっ』とか言ってるし!!」


「楓さんも反省しておられますよ。どうか許してあげて下さい。」


「…はぁ。しょうがないか、じゃあ今日の飲み会はしますよ。」


「わーい!やったー!!」


…ダメープル絶対反省してないだろ。お仕置きしちゃうからな。


「はぁ…とりあえずメシ食いましょう。腹減ったし。」


「ウフフ、早く始めましょう!飲み会♪飲み会♪」




********************




ーー翌朝



「うぅ…頭痛え…あれ…?あー…飲み会したんだった…楓さんをに説教してからの記憶ねーんだけど…」


やっぱ俺には酒は合わないわ…なんか気持ち悪いし…2日酔いの薬飲も…


ーー慎太郎は薬を探しにリビングへと向かう。


リビングの戸を開けると美波、楓、牡丹、アリスの4人がソファーに座っていた。


「おはよー…」


ーー慎太郎の声に4人が反応して慎太郎を見る。だが4人とも目を逸らして俯いてしまう。頬を染めながら。


えっ…何この反応…いや、なんか空気おかしくね…?


ーー慎太郎はいつも通りの安定した反応をしてくれるだろうと、牡丹へ声をかける事にした。


「ぼ、牡丹?」


「はっ、はいっ!?な、なんでしょうか!?」


えっ…?『あなたの牡丹です』じゃないの?


「か、楓さん?」


「きょ、今日は良い天気ですね!?」


いや、曇ってんですけど。


「み、美波?」


「ふえっ…!?えっと…新聞どこかなー…」


いや、美波は新聞読まないよね。


「あ、アリス?」


「ら、ランドセルどこかなー…」


あからさまに避けられた!?

えっ?俺一体ナニしたの!?


ーー昨夜一体彼らにナニがあったのだろうか。次話へと続く。

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