第144話 浮かれ
「でもタロウさんが同級生なんてビックリしました。」
私とタロウさんは通学路を歩いている。この通学路を歩くのも久しぶりだ。この少し後にお父さんとお母さんは交通事故に遭いこの世を去ってしまう。そして私は伯母の元へと行き伯母の家から通うことになる。本当に久しぶりの風景だ。
「俺も驚いたよ。ま、美波の時も同級生設定でスタートしたから俺は同級生固定なのかもしれないな。」
それにしても小学3年生バージョンのタロウさんは可愛い。いつもの凛々しいキリッとした顔とは違った幼い可愛い顔なので私のハートはオーバーキル寸前だ。それに目線が同じせいかいつもよりドキドキしてしまう。やっぱりタロウさんは最高です。
「でもタロウさんと一緒に学校に通えるのは嬉しいです。現実世界でこんな事できるわけありませんから。」
「あはは、確かに。アリスの小学校に通うのは2回目か。そういえばこの前行った時には寿司食ったよな。」
「あのお寿司屋さんのお寿司はとても美味しかったです。」
「また来週に行かないといけないからな。その時にまた寄ろうか。」
「いいんですか?」
「アリスが寄りたいなら喜んで。」
やっぱり優しいな。私の人生はタロウさんと出会った事で本当に変わった。俺'sヒストリーでタロウさんと出会わなければ今頃私は沼田に買われて私の想像もつかないような事をされていただろう。
タロウさんは私の恩人だ。いつか必ずその恩を返さないといけない。そして…できる事ならタロウさんの隣にずっと居続けたいな…
「さてと、それじゃ俺は転入生なわけだから職員室に行くよ。」
「私の両親が共働きじゃなければ一人で行かずに済んだのにすみません。」
「なんでアリスが謝るんだよ。俺は大人なんだから一人で大丈夫だよ。アリスこそ一人で大丈夫か?」
大丈夫じゃありません。だからずっと私のそばにいて下さい。
「大丈夫です。私だってもう6年生なんですから。」
「そっか。ま、戻ったら頭撫でてあげるから頑張るんだよ。」
そう言ってタロウさんは職員室へと向かった。
頭だけじゃなくて他にも色々撫でて欲しいです。
ーー私は教室へと向かう。正直私は学校が嫌いだ。理由は友達がいないからだ。この髪の色と目の色で散々からかわれてきた。今時ハーフなんてそれ程珍しくはないかもしれないが、こんな田舎では滅多にお目にかかれない。それどころか外国人自体を見る機会がまず無い。そんな環境下ではこの髪と目はかなり異質なものにしか映らない。人とは違う容姿を田舎の住人は受け入れようとはしなかった。だから私はこの町が嫌いだ。
でも私はこの髪の色と目の色が嫌だと思った事は一度も無い。大好きなお母さんと同じ色である事を誇りに思っている。それだからこそ私のシーンがこの時代というのがかなり不思議だ。私にとってこんな時代なんてどうでもいい話でしかない。改善しようとも後悔してるとも思っていない。そもそも私はタロウさんのいる小山に転校するのだから尚更だ。だから一体何を『主張』すればいいのかがわからない。このシーンのクリア基準が想像出来ない以上は相当過酷なものになるだろう。しっかりと見極める、それが絶対的に必要だ。
教室へ入り席に座る。私は廊下側の一番後ろの席だ。私の学校は名前の順に席順が決まる。私の名字は結城なので一番後ろになる確率が高いから非常にラッキーだ。誰かに挟まれている席だと余計とからかわれたりする。それを回避できただけでも運がいい。
私は自席へと着き、暇潰しに国語の教科書を開いて黙読をする。3年前の教科書が懐かしく思ってしまう。きちんと勉強はしていたはずなのに内容なんてほとんど覚えていない。それだけ復習が足りないって事なのかな?
チャイムが鳴ると教室に担任の先生が入って来る。この先生の事も私は好きではない。私がクラスで孤立しているのを知りながら見て見ぬ振りをしている。そのくせ私の事をチラチラといやらしい目で見ている最低な男だ。性的な目で見ているかどうかは女にはすぐわかる。気持ちの悪い視線が突き刺さるのが感じ取れるからだ。それがわからないと思っている男は本当に滑稽だ。
「じゃあ朝の会を始めるぞ。でもその前に今日は新しい友達を紹介する。」
「マジで!?男!?サッカー上手い!?」
「私は女の子がいいなぁ!可愛い子と友達になりたい!」
まだこの頃の子供は異性についての関心があまり無い。男子は男子、女子は女子という感じだ。
「じゃあ入って来てもらうからな、みんな仲良くしてくれよ。」
だがその考えもタロウさんが入って来るとがらりと変わる。女子たちからはキャーキャーという黄色い声援が飛び、それを見た男子たちからは敵対心のような眼差しが向けられる。なんとも浅ましい連中だ。
でもその気持ちはよくわかる。同世代の目線から見てもタロウさんはカッコいい。中身を見ないで顔だけ見てもドキッとしない方が無理があるレベルだ。前から思っていたけどこんなに優しくてカッコいいタロウさんに彼女がいないのは不思議で仕方がない。それどころかタロウさんが言うには学生時代全然モテなかったらしい。最初は謙遜しているのかと思ったけど話す時のタロウさんの表情を見ていたらそうでは無い事がわかった。一体タロウさんの学生時代に何があったのだろう。前に会った三國って人の言葉から察するに充実した学生時代を過ごしていたとは思えないけどモテないなんて考えられない。考えれば考えるほど理解が出来ない。タロウさんのシーンについていけばその謎に迫る事ができるのかな?
「アメリカから来た田辺慎太郎です。よろしくお願いします。」
アメリカではなくて未来から来てるんですけどね。
「キャー!アメリカからだって!」
「カッコいい!」
あなたたちは女の子が来て欲しいんじゃなかったですか?
「何がアメリカだよ、調子に乗ってね?」
「なんかムカつくなー。」
サッカーの話はどうなったんですか?
「はいはーい!英語で自己紹介してくださーい!」
クラスで一番のお調子者の小坂隼人が手を挙げてタロウさんにそう言った。小坂からすれば精一杯の弄りなのだろうが英語で自己紹介なんてしたらもっとカッコよく映ってしまうんじゃないだろうか。
「Okay, hello everyone.I’m Shintaro Tanabe.I'm from Newyork.I’ve been living in Japan for two days.I’m good with video games and can handle all kinds of software.」
おぉ…!流石です!タロウさんは英語が得意だったんです!小坂は完全に黙らせる事が出来ました!カッコいいです!
「キャー!!カッコいい!!!」
「英語できるなんてすごーい!!」
むっ…!余計と女子人気が上がってしまった。
「流石、帰国子女だな。じゃあ田辺は結城の後ろの席に座ってくれ。」
「はい。」
タロウさんがこっちに近づいて私に目配せをする。
なんだろう…いつもよりもっと素敵に見えてしまう。胸のドキドキが止まらない。これが青春というやつですね。なんだか楽しいです。えへへ。
ーーアリスは理解していない。
このシーンがどれだけ過酷なものかをまだ全くといっていいぐらい理解していないのであった。
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