第143話 アリスのシーン攻略戦

私は今、タロウさんとマイページに来ている。前回来た時よりも更に作りが豪華になっている。マッサージチェアーやサウナまで完備されているようになった。でもここにこんな設備できても使う事なんてあるのかな…?


私たちはシーン部屋へと移動する。シーン部屋の中に変化は見られないが、宇宙のような幻想的な空間に少し感動してしまう。私たちはシーンに進む為の扉の前まで来てプレートを確認する。



【主張をしろ ☆☆☆☆】



「星が4つ…!?」


「多いんですか?」


「俺と美波の時は1つだったんだよ。それで仲間が助けに入るとさらに星が増えるんだ。俺たちは星2までしか経験していない。今回は4つ…これで俺が加われば5つになる…」


タロウさんと美波さんはシーンで苦労したとは言っていなかった。でも今の話から察すれば倍以上の難度になるのは必至だ。そうなればシーンクリアを達成できない可能性が生まれる。そうなるとかなり危険だ。


「単純に倍化するからそれでも構わないけどそれで終わらないのなオレヒスだよな…なーんか嫌な予感するな…」


「…やるのやめましょうか?」


強制されているわけではないのだから無理にシーンをやらなくてもいいんじゃないかと私は思ってしまった。当たり前だけどお父さんとお母さんの事を忘れたわけじゃない。でも…今のみんなとの生活に満足してしまっているのは確かだ。優しくて温かい美波さん、面白くて優しい楓さん、穏やかで優しい牡丹さん、そして…大好きなタロウさんのいる生活を消したくない、それならばリスクを犯したくないと私は本気で思ってしまっていた。


「いや、やろう。アリスの過去を変える、それは俺の願いでもあるからな。」


「…ありがとうございます。」


タロウさんの言葉は嬉しい。でも…私はシーンを失敗するのが怖くて心から喜べないでいた。


「よし、じゃあ行こうか。」


「はい…!!」


絶対に戻って来よう。そしてまたみんなでご飯を食べるんだ。

私たちは扉を開けたーー







【主張をしろ ☆☆☆☆☆】





*************************




「うっ…ん…ここは…?」


タロウさんの家じゃない…?綺麗なマンションでは無く少し古ぼけた部屋に私はいる。でもどこか懐かしいような…


「ここって…もしかして…」


ーーピシャッ


その時、襖が開く音がした。反射的にそちらへ目をやると人が立っていた。その人の事は私はよく知っている。だってーー


「Good morning, Alice!おはよー!!朝よ!!朝、朝!!学校に遅れるわよー!!Hurry up!!」


「おかあ…さん…」


私の目からは涙が溢れていた。もう二度と会う事が出来ないと思っていた人に再び会えた喜びで私は嗚咽を漏らして泣いた。


「What's wrong?怖い夢でも見たの?大丈夫よ、お母さんがいるから。」


「ううん…違うんです…お母さんに会えて…嬉しいんです…」


「ふふふっ、不思議の国にでも迷い込んじゃったのかしら?」


「そうかも…しれません…」


不思議の国…本当にそうかもしれない。こんな体験は物語の中での話だ。現実に人に話しても信じてもらう事なんて到底できない。それどころか変人扱いされるのがオチだと思う。


「どうしたんだい?」


「お父さん…」


お父さんだ。大好きなお父さんだ。せっかく止まった涙がまた溢れてくる。


「アリス…!?どうしたの!?」


「不思議の国に迷い込んじゃったのよ。」


「そうか…それは大変だね…じゃあお父さんはアリスを守らないとね。不思議の国にいる悪い奴らを倒してアリスを守るのがお父さんの仕事だ。」


「あら?私の事は守ってくれないのかしら?」


「もちろん君も守るさ。アリスとジュリエットは僕の命より大切だからね。」


「私もよ。咲也とアリスは私の命よりも大切。I love you and Alice.」


「ふふふっ、2人とも朝からお熱いです。」


「わお!アリスもずいぶんとマセた事を言うようになったわね!お母さん、驚いたわ!」


「あはは、これが成長だね。アリスの成長を見られる事が僕の幸せだよ。アリス、落ち着いた?」


「はい!」


「じゃあ朝ごはんを食べようか。もうできてるよ。今日はアリスの好きなスクランブルエッグにウインナーだ。」


「わぁ!楽しみです!」


「さ、行きましょ!ずいぶんと待たせちゃったから待ちくたびれちゃったかしら。」


待ちくたびれる…?お母さんが待ちくたびれたのかな…?


私たちはキッチンへと向かう。すると、


「ごめんねタロウ。待たせちゃったわね。」


「いえ、大丈夫です。せっかくの家族水入らずの時間でしたからね。」


「タロウくんは難しい言葉を知っているんだね。」


「た、タロウさん!?」


「おはようアリス。」


小さいタロウさんだ…!小学3年生ぐらいの小さいタロウさんが目の前にいる…!凄く可愛い…!!


「どうしてここに!?」


「あら?寝ぼけてるのかしら?タロウは今日からアリスと一緒の学校に通うんでしょ。」


「ど、どうしてですか!?」


「どうしてって、タロウくんとアリスは幼馴染じゃないか。タロウくんは昨夜アメリカから帰国して今日から日本の学校に通う事になったんだよ。」


「ええぇぇぇぇっ!?」


な、なにその設定…!?ご、ご褒美なのかな…!?私へのご褒美なのかな!?神様、ありがとうございます!!


「ほらっ!もういいから早く食べないと遅れるわよ!!」


「はっ、はいっ!!」


最初はここに来る事を渋ってしまったけどやっぱり来て良かった。お母さんとお父さんに会えて嬉しい。それにタロウさんとの仲を進展させられそうな気がする。

よし!頑張ろう!



ーーアリスのシーン攻略戦が始まる

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