第103話 俺無双
あれからしばらく歩いているが環境に変化は無い。真っ白い通路を私たちはひたすら歩いている。分岐も無ければ扉も無い。本当に奇妙な建物だ。このような建物は以前に資料で読んだ精神病棟に似ている。どうしてそういう場所が真っ白にしているのかはわからないけどこんな空間に居たら逆に精神がおかしくなりそうだ。
「…ずっと同じ場所を歩いてるみたいですね。頭がおかしくなりそう。」
「そうですね…何だか気味が悪いです…」
「ここって実際にある建物なのかな?ほら、今までのエリアも一応は実際にある建物だったじゃない?」
「どうでしょう?病院みたいだからあるかもしれませんね。」
「多分無いと思うわ。」
「どうしてそう思うんですか?」
「私たちの世界の技術とは随分違うからかしら。だって、照明も無いのにどうやってこの明るさを供給してるのかしらね?」
「あっ…」
そう、一番奇妙なのはそれだ。電球や蛍光灯といった物が無いのに明かりを供給できるなんてありえない。当然ながら壁が発光してる訳でも無い。光の供給源が全くもって不明だ。私たちの世界の技術を遥かに超えている。今までのエリアとは明らかに異質だ。強いて言うなら監獄エリアに近いものはあるかもしれないがそれとも明らかに違う。
「じゃあ…ここは何なんでしょうか…」
「もしかしたら…オルガニの施設かもしれないわね。」
「オルガニのですか!?」
「私たちが知る技術を超越しているのが俺'sヒストリーというゲーム。そしてこのエリアも同じ事が言える。可能性があると思わない?」
「ある…ありますよ!!可能性がありますっ!!」
「でも…確信に迫るようなエリアに配備されるって変じゃありませんか?普通は知られたくないですよね…?」
「可能性としては2つ。1つは前回のバディイベント同様に不具合が発生している。」
「ありえますよね。メッセージの文面も疑問符で隠されていましたしエラーの線は高いと思います。」
「もう1つは私たちをここで皆殺しにするつもりかもしれない。」
私の言葉を聞くと2人に緊張が走った。その可能性が一番高いだろうと察したのだろう。だからこそ言葉が出てこないのだ。意地悪な事を言っているのはわかってる。でも2人に嘘は吐きたく無い。きちんと話した上で対抗策をみんなで考えたいのだ。
「不安にさせるような事を言ってごめんね。でもーー」
「大丈夫ですよ。」
「え?」
「楓さんの気持ちはわかってますからっ!ねっ、アリスちゃん!」
「はい!楓さんはそれを伝える事でみんなで生き残る為の術を考えようと思って言ってくれたんです。隠していても何の解決にもならない。話す事で最善の策を考える時間を得る事ができます。そうですよね?」
…本当にこの子たちは。家に帰ったら抱き締めてあげるわ。
「ウフフ、私たちは心が通じ合ってるのね。」
「当然ですっ!私たちの絆は誰にも断ち切れませんっ!」
「はい!日に日に深まってるんですから!」
本当にこの子たちと居るのは心地良い。絶対にこの場所は守ってみせるわ。タロウさんが居ない今は私がしっかりしなきゃいけない。命に代えても私が守る。
「…!?楓さん!?美波さん!?前見てください!!」
アリスちゃんが突如声を上げるので前方を見てみる。すると扉を発見した。長い直線の道の終わりが見えて来たのだ。
「何か変化が現れるかもしれないわね。用心しましょう。」
2人と目配せをして私はその扉を開いた。
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「やべーな…始まってどれぐらい時間経ってんだろ。メッセージに時間書いてないのは欠陥だよな。それに俺が1人って事は誰か1人になってる可能性があるんだよな。それとも3人一緒なのかな。最悪楓さんなら1人でも大丈夫だろうけど美波とアリスは…いや、待てよ。美波はノートゥングと仲良くなったしゼーゲンもある。アリスは魔法が使える。あれ?俺らってもしかしてかなり強いんじゃね?」
冷静に考えてみると俺らのクランって相当な強さな事に気付いた。楓さん以外の”闘神”の事は知らないけどそいつらとだってやり合えるぐらいの戦力なんじゃないだろうか。
「ならとりあえずは大丈夫か。だが早く合流しないとな。現状1人で居るの確定してる俺が一番危険だ。」
俺が居るのは四方八方全てが真っ白な謎の部屋だ。照明が点いてるように明るいが肝心の照明がドコにも無い。壁が発光してる訳でも無い。まさに謎の部屋だ。扉が1箇所あるからあそこを開けたらスタートなのは理解できる。
「…開けた瞬間敵とエンカウントは嫌だな。それに『???』とかメッセージに書いてあったけどバグか?バグじゃなかったら嫌な予感しかしないよな。」
だがごちゃごちゃ考えても仕方ない。早くみんなと合流する事を考えないといけないんだからとっとと扉を開けてしまおう。
「大丈夫、やべー奴が出て来てもバルムンクさんがなんとかしてくれる。」
俺は覚悟を決め両開きの扉を開けた。開けた先には部屋と同じように一面真っ白な通路が遥か先まで続いていた。
「一直線か。選択肢が発生しないから楽でいいな。…ん?何かがこっちに向かって…」
目を凝らして見ると5体のゾルダートがこちらへと向かって来ている。安定のSS級1体にS級4体の部隊だ。
「やっぱりエンカウントしたか…でもちょうどいいか。ゼーゲンの試運転の相手をしてもらいたかったし。」
鞘からゼーゲンを引き抜く。楓さんのゼーゲン同様に刀身に薄っすらと蒼いオーラのようなものが見える。それに身体中から力が漲るような感覚がある。負ける気がしない。
「初の俺無双の時間だな。さあ、かかって来いよ。」
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