第75話 甘く見ないでよね
時刻は現在、2日目の夕方の5時を回った。
クランイベントが始まり35時間が経過した。あれから私たちは2つのクランと15体のゾルダートと遭遇した。だが楓さんの圧倒的な力によりスキルを使う事無く撃退する事ができた。本当に楓さんはすごい。
だが依然としてタロウさんとアリスちゃんとは合流できない。手がかりすらも無い。焦りと苛立ちが募る。2人は無事でいるのだろうか。どうか無事でいて欲しい。
「そろそろ休憩にしましょうか。このモールにならカフェがありそうだし。」
「…はい。」
「美波ちゃん、元気を出して。」
「でも…2人が心配で…」
「大丈夫。タロウさんとアリスちゃんなら絶対無事よ。生きてるのは間違いないわ。」
「…どうしてそう思うんですか?」
「私たちのリーダーはタロウさんよ。そしてクランリーダーが敗北したらクランは終了。メンバーは連帯責任を負わなければならない。タロウさんが負けたのなら私たちはタロウさんが負けた相手の奴隷にならなきゃいけないわ。まだ何も変化が無いという事はタロウさんが負けていない証拠よ。」
確かにそうだった。焦って正常な判断が下せなかった。もっと冷静にならなきゃ。タロウさんとアリスちゃんを信じないと。
「そうですよねっ!ネガティヴになるのが私の悪い癖です。2人を信じますっ!」
「ええ!」
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私たちはモール内に入る。この廃墟エリアでわかった事は建物内が必ずしも散乱しているわけではないという事だ。むしろ殆どの場合は綺麗なままだ。人的に荒らされたか災害で荒れたかは一目でわかる。もし人的に荒らされた形跡があればこのモールはプレイヤーのねぐらになっているか戦闘が行われた後という事になる。
エントランス付近は荒れてはいない。エスカレーターを上り2階に行く、一見すると綺麗なままだ。一通りのショップを周り誰もいない事を確認してから3階に移動する。
ここも荒れてはいない。まだ誰もこのモールには訪れていないだろうと安心した気持ちで4階に上がった時だった。その考えを一変させられる。今までとは打って変わってこのフロアは荒れ果てていた。書店の棚は倒れ、周囲には本が散りばめられている。床には血の跡も所々に見られる。戦闘があった事は明白だ。
「楓さん…!」
「戦闘の跡ね。でもプレイヤーの血が残っているという事はこの血の主は生きているという事よ。敗北したプレイヤーは肉体やその痕跡となる物は全てエリアから消えていくから。」
「あ…そうでしたね。この血の主は近くにいるんでしょうか?」
「血が随分と乾いているから恐らくはいないんじゃないかしら。回復のスキルを持っていれば傷を癒して移動できるしね。」
「どの程度の相手と戦っていたかはわからないですけど勝ったって事は強いって事ですよね。」
「そうね。油断はしない方がいいわ。この時間まで生き残っているならそれなりの手練れなのは確かだから。」
「…タロウさんって事はないでしょうか?」
「…可能性はなくはないわね。それならアリスちゃんに回復をしてもらってるから無事な筈よ。念の為このフロアを重点的に捜索してから5階に上がりましょうか。」
「はいっ!」
ーーその時だった。
視界が少しだけ捻じ曲がったような気がしたので目を閉じた。同時に隣からなんとも言えない嫌な気配がして楓さんのいる方向とは反対側へと反射的に跳ねる。
そして楓さんの方へ向き直った時、そこに楓さんは居なかった。代わりに見た事も無い男2人がそこに立って居た。
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「誰…?楓さんは…?」
男たちは私が距離を取った事に驚いたのだろう。面食らった顔をしている。だがすぐに下卑た笑みを浮かべながら口を開く。
「感がイイ女だな。本当はすぐに取っ捕まえちまう予定だったんだがよ。」
「クヒヒ、まぁいいじゃねぇか。そういう過程もスパイスになんだろ。それにしてもクッソイイ女だな!!たまんねぇよ!!」
「ああ!!渡す前に俺らでちょっとつまんじまおうぜ!!ヒヒヒ!!」
またこういう会話をしている…何で男ってこうなんだろう…タロウさん以外にマトモな人っていないのかな…
「あなたたちは誰!?楓さんをどこにやったの!?」
「声もイイねぇ。早くその声で喘がせてぇ!!」
「質問に答えなさい!!」
「クヒヒ、芹澤は今頃男の群れの中だよ。」
「何ですって…!?」
「俺たちはずっとテメェらを尾けてたんだよ。《監視》ってスキルでな。それでこン中に入った時に《配置変換》ってスキルで俺らと芹澤を交換したってわけさ。」
「イヒヒ、抵抗すんのはやめといた方がいいぜ?俺たちはSS持ちだ。痛い思いはしたくねぇだろ?どうせすんなら気持ちイイ方がいいもんなぁ!」
「おっと、芹澤の助けも期待すんのはやめておけ。あっちにはアルティメット持ちが2人、SS持ちが3人もいるんだ。いくら”闘神”の芹澤だって勝てるわけがねぇ。今頃はおとなしくなってアイツらのモンをしゃぶってんじゃねぇか?ウヒヒ!」
「…ふふっ。」
「あ?何笑ってんだ?」
「俺らとのプレイでも想像しちゃってんじゃねぇか?へへへへ。」
「楓さんがあなたたちなんかに負けるわけがないわ。それに…私の事だって甘く見ないでよね!!」
ーー美波が金色のエフェクトを発動する。
そして前方に魔法陣が現れ、召喚を行える態勢は整った。
「きっ、金色!?」
「どっちもアルティメット持ちなのかよ!?」
男たちは狼狽える。下卑た笑みは完全に消え、戦慄におののく。
「さぁ、初陣よ。見せてあげるわ、《剣王》の力を。」
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