第51話 あなたの温もり

「何だ…?ツヴァイの奴が現れないな…?」


「そう…です…ね…?」


一連の流れが私にとっては初めてだからわからないが、闇に包まれた時にはツヴァイが現れるのだろう。思い沈黙が流れる。


ーーその時だった、私たちのスマートフォンの通知が鳴り響く。


私たちは互いに目配せした後に通知の内容を確認する。俺'sヒストリー運営からの通知だ。




『いつもご利用ありがとうございます。俺'sヒストリー運営事務局です。トート・ツヴィンゲンでのご生存、誠におめでとうございます。本来ならば担当からのリザルトがあるかと思いますが、緊急メンテナンス及びアップデートによりそれが不可能となっております。後日改めてリザルトを行いますのでよろしくお願い致します。又、緊急メンテナンス及びアップデート中は俺'sヒストリーをプレイする事はできませんのでご容赦下さい。数分後に転送を行いますのでよろしくお願い致します。』




「緊急メンテナンス及びアップデートって。」


「良い予感がしないのは私だけでしょうか?」


「俺もだよ。まぁ、何はともあれ勝ち残れてよかったな。」


「そうですねっ!」



イベントが終わり、2人には幸せな空気が漂っている。



でも私にはそれは無い。



数分後には私は地獄に連行される。



怖い



嫌だ



どんなにそう思っても抗う事はできない。



でも、覚悟はできた。タロウさんと美波さんに優しくしてもらったこの1日の事を想って私は生きていかれる。それぐらいの温かい時間を過ごさせてもらった。

それに…タロウさんのような男の人もいるってわかった。それだけで私は幸せだ。


「アリス、本当にありがとう。もしアリスさえよかったらこれからも俺たちと一緒に戦わないか?」


ーータロウさん、そのお誘いは辛いです。


「えっと…えへへ。私はもう俺'sヒストリーはやらないかもしれません。」


ーー私は精一杯の嘘を吐いた。


「やらないって…どうして…?」


どうしよう。頭が回らない。なんて答えればいいか分からず思案していた時だったーー



「…タロウさん、アリスちゃんは虐待されているんです。」


「美波さんっ!!」


「アリスちゃん、約束破ってごめん。でも、ちゃんと話した方がいいと思うの。きっとタロウさんなら力になってくれる。」


「虐待…?どういう事だ?」


「アリスちゃんは伯母さんと伯父さんから虐待を受けているんです。身体には夥しい程の痣があります。」


「…アリス、話してくれ。だからオレヒスをもうやらないのか?」


タロウさんが真剣な眼差しで私を見つめてくる。嘘は吐けない。本当の事を話そう。全部話そう。


「…それだけじゃありません。美波さんにも言ってなかったですけど、実は私、売られちゃうんです。」


「…は?」


「伯母の借金の返済の為に私は知らないおじさんに売られるんです。でも仕方ありません。それが私の運命ですから。」


転送が始まるのか身体が透け始めてきた。

そろそろ時間だ。


「何それ…いくらなんでも…」


「仕方ないんです。大丈夫ですから!今日1日で私は強くなれました!世の中にはタロウさんや美波さんみたいな人もいるってわかりましたから!もしかしたらそのおじさんも良い人かもしれません!」


ーー私は精一杯の嘘を吐いた。


「でも…辛くなった時はタロウさんの事を思い出してもいいですか?そうすればきっと我慢できますから。」


私はそう言って後ろを向いた。もう涙を堪えきれない。それでもあなたと出会えてよかった。幸せでした。




ーー私の身体が消えていく











さようなーー













ーー私の右肩を掴む温かい感触がある。





「アリス、守るって約束したろ。俺が必ず…お前を救ってやる。」










身体が完全に消え、意識が遠のくーー











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













視界が明るくなった。ここはーー



その感覚に気づいて心臓が止まりそうになった。



右肩を誰かに掴まれている。



イベントの前に伯母に掴まれていた事を思い出した。



身体が震える。



恐ろしくて足の震えが止まらない。



でも妙な事に気づいた。



何で私を掴む手から心地良さを感じるのだろう。



それに気づいた時には震えは止まっていた。



私は後ろを振り向く。



そこにはーー








「どうして…?」




「言ったろ?守るって。」




「でも…でも…」


「アリス、俺にどうして欲しい?アリスが望む事を俺はするよ。どんな事があっても必ずお前の望みを叶える。だから…正直に言ってくれ。俺にどうして欲しい?」



もう耐えきれなかった。



私の目からは涙が溢れた。




「助けてください…!私を…助けてください…!!」




「わかった。俺に全部任せろ。必ずアリスを救うから。俺を信じてくれ。」



「はい…!!」



ーー私はタロウさんの胸に飛び込んだ。



ーータロウさんの温もりはとても温かかった。

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