第23話 戦線
「うえー…暑い中の作業は地獄だねー…」
「ここの暑さはすごいもんね…でも、飲料水を手に入れる為なんだからがんばろう!ねっ!」
「はいはい。がんばりますよー。」
イベントは今日で2日目を迎えた。今の時刻はちょうどお昼。私たちは葵ちゃんと同盟を結ぶ事となり今は2人で水の精製を行なっている。
現在タロウさんは就寝中。タロウさんは夜の間1人で見張りをしてくれて私たちを寝かせてくれた。それなのに恩を着せるような態度もしないし嫌な顔も全くしない。本当に優しい。だから好きになっちゃったんだよね。
「ねーねー美波ちゃん!たーくんって彼女いるのー?」
「え?いないと思うけど。」
「へー意外!あんなにイケメンなのにー。」
確かにタロウさんはカッコいいけどタロウさんの魅力は顔ではない。暖かい心が最大の魅力である。でもあれだけ魅力的な人に彼女がいなくて本当に良かった。もし彼女なんかいたらショックで立ち直れない。
「てか美波ちゃんはたーくんの事好きだよねー?」
「えぇぇぇぇ!?なななな、何が!?」
唐突にそんな事を言うもんだから持っていた海水を落としてしまう。
「あは!テンパりすぎ!美波ちゃんがたーくんに惚れてるのバレバレだよー!」
ば、バレバレ…?バレバレって事はタロウさんにもバレてるって事…?もしバレてるなら恥ずかしくて私は生きてられない…
「ま、たーくんは美波ちゃんの気持ち全然わかってないよねー。」
「えっ?そうなの?」
はぁー…よかった…一安心ね。流石にまだ気持ちを伝える勇気はないもの。
「うん。たーくんはイケメンのくせに自分がモテるって理解してないっポイからねぇ。全く女の匂いしてないもん。」
「ふ、ふーん…」
もしかしてタロウさんも異性と付き合った事ないのかな…?そうだと嬉しいなぁ。
「じゃ、私が彼女に立候補しちゃおっかなぁ!」
「だっ、ダメ!!!」
咄嗟に反応してしまう。
「あははー!美波ちゃんおもしろーい!冗談だってー!たーくんイケメンだし、ぶっちゃけタイプだけどJKの私と付き合ったら犯罪じゃーん。年の差がちょっとありすぎかなー。美波ちゃんのダーリンは取らないから安心して!」
「だっ、ダーリンって…その…」
何で私は年下に弄られてるのかしら…しっかりしなさい美波!
「んっ…?美波ちゃん何か聞こえなかった?」
「えっ?何かってーー」
聞こえた。
人の声がする。割と大きいからすぐ近くにいる。
辺りを見渡すと森の中から3人組の男たちが現れる。
「葵ちゃん!急いで道具を持って撤退しよう!」
「オッケー!」
葵ちゃんはすぐに私の意向を察知し片付けに入る。だが距離が近すぎた。道具を纏め終わった頃には洞穴へ撤退できない程の距離にまで迫っていた。今動いてしまえば洞穴の場所がバレてしまう。いくらタロウさんでも寝起きの不意をつかれれば負けてしまうかもしれない。幸いここは地形的には隠れられる岩場がたくさんある。何とかここに隠れてやり過ごすしかない。本当ならば何か起こったらすぐにタロウさんを起こすように言われているが洞穴に戻る前に私たちが捕まるかもしれない。相手の数が私たちより多いのだから尚の事戦いは無謀であるし、相手のスキルがわからない以上無理はできない。ここに止まるのがベストだ。私はそう決断した。
「葵ちゃん、もう洞穴に戻る時間は無いわ。ここで何とか隠れてやり過ごそう。」
「…だね。」
私たちは岩場に隠れた。もう男たちとの距離がかなり近い。話し声がしっかりと聞こえる距離まで迫っていた。私たちは息を潜め、気配を消しながら男たちの会話を聞いていた。
「村中、この辺りなんだな?」
「そっ、そうです!この海岸で昨日俺たちは女と戦ったんです!」
「甲斐さん、もうソイツらいねぇんじゃねぇですか?」
「山岡。村中の話から察すりゃあ男は近くにアジトを作ってるはずだ。」
「なぜです?」
「そのタイミングでわざわざ助けになんて来ねぇよ。日も暮れた海岸で音を出さずに急に現れたんだろ?それは無理だ。俺たちが歩いてもわかる通り砂浜ってのは音が出るんだ。接近される前に普通は気づく。それで気づかねぇってのは最初から近くにいて裸足で近づいたって事だ。必ず近くにいる。徹底的に探せ。」
「なぁるほど。それにしても高校生の女か。楽しみですね。」
「ガキに興味はねぇよ。だが女は高く売れるからな。結構イイツラしてたんだろ?」
「はっ、はい!!レベルはずいぶん高いです!!」
「フン、ならずいぶんな金になるだろう。男の方は殺せ。俺は森に戻っている。山岡、任せたぞ。」
「はい。」
甲斐と呼ばれるオールバックの男が、スキンヘッドの男、山岡に指示を出し森へと戻って行った。1人いなくなるのはすごくありがたい。見る限りでは1番階級が下と思われる男はすでにボロボロ。山岡を私と葵ちゃんで倒せれば優位に立てる。
「…美波ちゃん、あのボロボロの男って昨日私に絡んで来た男だよね?」
「…あ、そう言われてみるとそうだね。」
「…たーくんにビビって森に逃げたらアイツらに捕まったって感じかな。そうなるとアイツらどっちもSS以上持ってる可能性が高いねぇ。」
「さて、と。村中、そいつらの特徴は?」
「えっ?いや、昨日言いました通り、男はいけ好かないイケメン野郎で、女は高校生ぐらいの軽そうな女ーー」
「馬鹿野郎。スキルの話してんだよ。」
「スキルっすか?えっと、女はSSの蹴り特化のやつです。男は効果は知らないっすけどアルティメットでした。」
「ほう、アルティメットか。」
「だから正面からは手出さねぇ方がいいっすよ。アルティメットになんか勝てるわけないっすから。女頂くとしても作戦を練らないと…」
「けっ、ビビりやがって。アルティメットか…好都合だなそりゃあ。」
「好都合…?まさかやる気っすか!?」
「ああ、そいつからアルティメットを頂く。」
「無謀っすよ!?俺ら2人っすよ!?せめて甲斐さんも連れて来ないと!!」
「そりゃあ駄目だ。」
「なんでですか!?」
「甲斐さんはよ、アルティメット持ってんだよ。」
衝撃の会話だった。アルティメットを持っているプレイヤーがこのエリアにいるだなんて…やはりタロウさんを呼びに行かないとマズい。
「…ま、マジっすか?」
「だからあの人は余裕なんだよ。アルティメットなんて普通は手に入らねぇ。それがまさかエリアにアルティメット持ちがいるとはな。」
「なら尚更じゃないっすか!?甲斐さん呼んで来て全員でやれば余裕っすよ!!」
「だから駄目だっつてんだろ。」
「だからどうしてですか!?」
「俺がアルティメットを頂くからだ。」
「は?…マジで言ってんですか?」
「俺はバディイベントで甲斐に負けて奴隷に堕ちた。でもな、俺はここで終わらねぇ。甲斐をぶっ殺して奴隷から脱却するんだよ。その為にはアルティメットが必要だ。テメェも協力すんなら悪いようにはしねぇぞ。」
「でも、あの優男に勝てなきゃムリじゃないっすか?」
「そいつは楽勝だ。女なんかを守って調子こいてる甘ちゃんはよ、女を人質に取っちまえば手ェ出せなくてサンドバッグだぜ。女とは楽しめる、男はサンドバッグ、そしてアルティメットまで手に入る。いい事尽くめだ。」
「そんな上手く行きますか…?女と男が離れてなきゃダメじゃないっすか?」
「俺はな、鼻が効くんだよ。女の匂いってのが昔から感じ取るの上手いんだ。」
「はぁ…?」
「オイ!!そこの岩陰に隠れてんだろ!!出て来いや!!」
山岡がこちらへ向き直り大声で威嚇をする。適当な方角を向いて言っているわけではなく、きちんとこちらへ向き言っている。
「…ハッタリじゃないみたいだねー。どうする美波ちゃん?」
「戦おう。2人でかかれば勝てるよ!それに戦わないで済むとは思えない。」
「だよねぇ。じゃあ女の力を見せてやりますか!」
負けるわけにはいかない。タロウさんがいなくてもやってみせる!!
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