3-20 乱闘騒ぎ

 その後、祥平の語った内容には諸田由美との生臭い話などもあったが、その辺の話題はカットして、祥平が諸田から聞き出した内容をまとめるとこのようになる。


 諸田は理事長としての地位を確固たるものにするため、どうしても周囲に認められる実績を残す必要があった。それが長興寺学園の教育改善計画であったが、学園内では津村校長と小島忠の反対にあい、監督機関である教育委員会でも否定的な意見が占めていた。

 そんな時、長興寺学園の風見教頭が耳寄りな情報を掴んだ。教育委員会の日野原晋三委員長が、事もあろうに女子高生を相手に援助交際しているというのである。風見は興信所を使って証拠写真まで取り揃えていた。

 諸田は早速そのネタを利用して日野原をゆすることを提案したが、風見は待ったをかけた。とびきりのカードだけに、最も効果的なタイミングを見計らって切り出したいと言うのである。諸田は風見の意見に賛成した。

 そして服部緑地公園での殺人事件が発生。小島忠が逮捕され失脚すると、すかさず風見は日野原を脅迫したという。呆気なく日野原は折れ、教育委員会は諸田の教育改善計画案を受理するに至ったということであった。


 一通り祥平の話を聞いて信弘が質問した。

「もしかして日野原の交際相手は……事件の被害者杉本由佳か?」

「俺はそう思っていますが、確証はないです。そもそも諸田は杉本が援助交際をしていたことも知らないようだったし、また日野原の援助交際の相手が誰かということも知らなかったようです。事件についても、何だか都合のいいタイミングで父が杉本を殺してくれたくらいの認識です」

「そうか。……因みに君と諸田の関係はまだ続いとんのか?」

「いえ。三百万円の手切れ金渡されて終わらされました。まあ、本人も少し喋り過ぎたと思ってるのか、口止め料も兼ねてるんでしょうけどね。だからと言って黙ってるつもりはなかったけど、事件解決に骨折ってくれる人に話そうと思っていましたんで、今お話ししています」

「なるほど……諸田をつついてもこれ以上何も出てきそうにないな。外堀を埋めていくか……」


 恵里菜たちと別れた信弘は、自分の言った〝外堀〟とは何だろうと考えながらその辺りをうろついていると、どこかの風俗店から漂う妙なパフューム臭と飲食店から漏れてくる油の匂いの混ざった空気にむせ返った。その瞬間、〝外堀〟の一つが杉本由佳と日野原晋三というそれぞれの点を結ぶ線にあると思い立ち、その足で難波のテイクアウェイへと向かった。

 テイクアウェイの松尾店長は平静を装ってはいたが、二度もやって来た信弘の顔を見て内心穏やかではなさそうな様子であった。そこで信弘は、店の営業に関する取調べでないことを強調しつつ、スマホの画面で日野原晋三の写真を見せて尋ねた。

「あの事件のあった当時、この男が店に来てなかったかな?」

「ああ、覚えてますよ。当時は常連さんでしたね。そう言えば事件前後からパタッと来なくなりました」

(そうか、やはり杉本由佳の援助交際の相手は日野原晋三で間違いなさそうだ。しかし、相手は権力者だ。尻尾を掴むにはやはり決定的な証拠が必要だな……)


      †


 次の日、長興寺学園に近藤たちのライバルである三国商業高校の不良生徒たちが、突然殴り込みにやって来た。彼らは校庭のど真ん中まで侵入し、頭を張っている生徒が大声で叫んだ。

「オイコラ、近藤ぉーっ! 出てこんかい! タイマンや!」

 しばらくすると、近藤が取り巻き連中を引き連れて校庭に出てきた。そして今度は近藤が相手を睨み返し、負けじと大声で叫んだ。

「何やと、タイマンだぁ? 上等やないか、ボコボコにしばき倒したるわ!」

 そして近藤たちと三国商業高校の生徒達との激しい乱闘が始まった。この様子は職員室から丸見えだったので、教頭を始め教師達総出でこの乱闘騒ぎを止めに校庭に出た。しかし、恵里菜だけは職員室に残り、携帯を取り出し、電話をかけた。

「オッケー、今や!」

 すると九部が職員室に入って来て、真っ直ぐ風見教頭の席まで駆けつけた。そして、開いたままになっているパソコンにUSBスティックを差し込んだ。

「藍衣先生、しっかり見張ってて下さいね。このソフト、インストールに結構時間かかるんです」

「わかった、でも早よしてや」

 恵里菜はハラハラしながら成り行きを見守った。外では教師達が喧嘩の仲裁に懸命になっている。教頭のパソコンの画面を見ると、インストールの進捗を示すバーがまだ半分にも満たない。喧嘩を止めに入った男性教師達は案外屈強で、暴れ回る生徒達をたちまち押さえつけた。

「まずいわ、押さえられてもうた。もぉちょい頑張ってぇや、あの子ら」

「それが教師の言うことですかねぇ」

「九部、そんな呑気に構えてる時間ないで」

「慌てようが呑気にしていようが、機会の演算速度は変わりません。むしろ落ち着いていた方がいいですよ。……って、もう終わりますよ」

 そしてインストール完了を見届けた九部がUSBスティックを抜き取り、立ち上がってその場を去ろうとすると、職員室に入って来た風見教頭と目が合ってしまった。

「何やってるんだね、君たちは?」

 九部が咄嗟に機転を利かせた。

「世界的でちょっとわからないところがあったので藍衣先生に質問していたんです」

「この騒ぎの中でか? それに質問は出来るだけ教室でしなさい」

「はい、すみません。次からそうします、それでは失礼します……」

 そう言って九部が出ていくのと入れ替わりに教師達が職員室に戻って来た。

 風見教頭は自分の席に座り、パソコンの画面を見た。そして、おや? と思った。スクリーンセーバーが掛かっていない……。風見教頭のパソコンは五分以上何らかの作業をしなければ自動的にスクリーンセーバーが作動する設定となっている。風見教頭が喧嘩騒ぎの前にパソコンを触ってから優に十分は超えている。

(誰かが、これを触った……?)


      †


 放課後、恵里菜と近藤、そして九部は三国商業高校まで出向いた。三人の周りを先程の不良少年たちが囲んでいた。そして恵里菜がまず頭を下げて言った。

「みんな、協力してくれてホンマにありがとう!」

 すると、彼らの頭がニヤニヤして言った。

「コンマサから聞いてたけど、ホンマにオモロイ先生やなあ。最近コンマサが大人しゅうなって身体なまっとったから、こっちこそ久々にどつきあいが出来てスカッとしたわ」

「ホンマや、こいつ、演技やって言うてるのに、マジでどついて来よるからな」

 近藤が愚痴ると、相手もムキになる。

「何言うてんねん、お前も結構本気なっとったやんけ」

 と、少し険悪なムードになりかけたので、恵里菜が間に入った。

「まあまあ、でも、ホンマに今日は助かった。また改めてお礼させてもらうわ」

 そうして三人は三国商業高校を後にして、駅前のインターネットカフェに入った。学校で騒ぎを起こして、その隙に教頭のパソコンにクラッキングソフトを仕掛ける……九部の思いついた作戦は見事に功を奏し、目の前のパソコン画面には教頭のパソコンの中身が映し出されていた。

「多分、ここに日野原委員長の援交の証拠があると思って間違いないでしょう」

 そして九部はパソコンを操作し続け、ついに一つのフォルダにたどり着いた。九部がフォルダを開くと、案の定そこにはいい歳した男性と女子高生のツーショット画像のサムネイルがいくつもあった。だが、それに混ざってサムネイルでは良くわからない画像がいくつか混ざっていた。

「何だ、これは?」

 九部がその画像ファイルを開いてみると、一同はあっと驚きの声を上げた。

「こ、これは……!」

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