3-18 キタの歓楽街

 大阪・北新地。ビジネス街に巣食うかのように夜の店がひしめく大阪きっての歓楽街。その一角にあるホストクラブ「BOWIE」に恵里菜たち四人が押し寄せた。

「いらっしゃいませーっ!」

 矢鱈と元気の良いホストたちに出迎えられた四人はあれよあれよと言う間に席に案内された。


「俺、竹内涼真に似てるってよく言われるんすけど、お姉さん、どう思います?」


「えええっ、お二人、親子ってマジっすか! 二人とも若くて綺麗なんで姉妹かと思いました!」


「お姉さん、九州? どちらの出身ですか、俺、長崎出身なんすよ!」


 無駄にハイテンションでオーバーリアクション、そしてチャラい。気晴らしに来るくらいなら楽しめたかもしれないが、四人はそのような演出を素直に楽しむには世の中の辛酸を舐めすぎていた。

 また、新人らしい若いホストが恵里菜の美貌に一目惚れしてしまったらしく、やたらとしつこく迫ってきてうんざりしてきた。そこで長居は無用と判断した恵里菜はさりげなく本題を切り出した。

「ねえ、以前に『キングオーナー』っていう店で働いてた〝翔〟ってホスト知らんかな? こういう子やねんけど……」

 恵里菜はそこにいた四人のホストたちに、翔の画像をスマホに表示させて見せた。するとホストたちは口々に「知らんなぁ……」と首を傾げながら言った。しかし、自称〝竹内涼真似〟のホストが思い出したように言った。

「そういえば、俺が以前に勤めていた店に、未成年ということがバレてクビになったホストがおったって聞いたことがあります。たしか、そいつの名前が〝翔〟やったと思います」

「ホンマに? それってどこの店?」

「天王寺の『マドラス』っていう店ですけど、もうつぶれてしまって今はないんですよ。それで俺もここに引き抜かれて来たんですけど。……あと、〝翔〟っていうホスト、今は別の仕事をしてるって聞きました」

「なんや、そうやったんか……」

 そうやってまた情報源が遠のいていくのに徒労感を感じた時、恵里菜の携帯に着信があった。

「もしもし」

「あ、九部ですけど。今どちらですか?」

「今、北新地やけど」

「それは丁度良い! 小島祥平の居場所がわかりましたよ! 東梅田の『サファイアドール』って言う風俗店で客引きをしているそうです!」

「えっ、ホンマに? そやけど、一体どこからそんな情報を?」

「それは……」


 九部や近藤たちは恵里菜からの〝命令〟を拒否した後、自分たちだけで集まっていたのだった。九部は彼らにこう指示していた。

『さっき藍衣先生が言ったオファーだが、僕たちなりのやり方で実行しようと思う。ただし、面接を受けるというのはやはりまずい。それで、手分けして客引きしているホストたちに聞き込み調査を行う。翔の画像を見せて、何か情報が掴めたら、僕の方まで連絡して欲しい。あと、これは僕たちが勝手にやることであり、藍衣先生の言いつけではないことは念を押して言っておく』

 そして客引きの始まる時間帯になると、彼らは一斉に聞き込み調査を開始した。そして数時間後、とあるホストクラブでかつて翔の同僚として働いていたという人物から話を聞き出すことに成功した。その人物から東梅田サファイアドールの情報を得たのである。


「あんたら……私に迷惑がかからんようにってそんな配慮まで……何て礼を言うたらええか」

 感きわまる恵里菜であったが、九部は敢えて気を奮い立たせて言った。

「今はそんなことより、急いで東梅田へ行って下さい!」

 その言葉で気を引き締めた恵里菜は、身支度を整えて店を出た。


      †


 ホストクラブ「BOWIE」を退店した四人は東梅田へ向かった。充分歩いて行ける距離ではあるが、タクシーを拾って目的地へと急いだ。「サファイアドール」は阪急東通り商店街のアーケードを抜けた辺りの一角にあった。

 店に近づいて行くと、一人の若い男性が通りがかりの人々に声をかけているのが見えた。かなり感じは変わっているが、まさしくそれは小島祥平だった。

「……祥平!」

 範子が目を潤ませて近づいて行こうとしたその時である。


 店の前で客引きをする祥平に、二人の人相の悪い男が近寄った。

「おい、兄ちゃん、ちょっと話あるんやけどな。ついてきてくれるか」

 見た目も話し方も、どう見てもその筋の人間のようだった。範子は思わず叫んだ。

「祥平!」

「お、おかん?」

 祥平も呆気に取られたが、二人の人相の悪い男達も範子の方をポカンと見つめた。

 その隙を狙って恵里菜は男の一人に掴みかかり、背負い投げで投げ飛ばした。

「うわぁーっ!」

「こ、こら〝おばはん〟何するんや」

 もう一人の男はうっかりそう言ったが、地雷を踏んだ事に気がつかなかった。ふと見ると〝おばはん〟と呼ばれて怒りに燃えた恵里菜が目前に迫っていた。そして、その怯んだ隙に美紅が男を羽交い締めにした。

「行けぇ、恵里菜ちゃん!『おばはん』て言われた恨みば晴らすんばい!」

「了解ぃぃっ! ほりゃぁぁっ!」


 ビシッ! バシッ!

 パンパンパンパン!


 恵里菜の強烈な往復ビンタが、羽交い締めにされた男の両頬で炸裂した。


「恵里菜ちゃん、その辺でやめとき。顔が十一ラウンドまで戦ったボクサーみたいになってきたで!」

 範子が心配そうに言った時、ピピーというホイッスルの音と共に婦人警官達が駆け寄って来て怒鳴った。

「あなたたち、何やってんの!」

 そこで恵里菜が渡りに船とばかりに窮状を訴えた。

「ちょうど良かった! この男の子がガラの悪い男たちに絡まれてて……」

 と言い終わらぬ内に、なんと婦人警官は恵里菜に手錠を掛けてしまった。

「公務執行妨害の現行犯で逮捕します!」

「え? どういうこと?」

 恵里菜がわけわからず、疑問を投げかけると、負傷した男たちが懐から警察手帳を取り出して見せた。

「……ワシらは曽根崎警察署の私服警官や。風俗店客引きの取り締まりをしているところを邪魔しおってからに。タップリ絞ったるから覚悟せぇや」

 私服警官がそう言ってニヤリと口角を上げると、恵里菜たち四人の背筋にゾクッと寒気が走った。

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