第93話 守護者との戦い

 身体を叩き折られた炎司はすぐに自分の身体にさらに強く炎を纏わせて凍結を解除し、砕かれ断裂した下半身に手を伸ばし接合させる。それからすぐに距離を取った。


 守護者が放つ冷気は、ただ温度が低いものではないらしい。一体なんだ。なにがある。炎司は守護者を見据え、考える。


「あ、ああ、あ、あああ」


 守護者はうめき声をあげる。それは、苦しんでいるようにも見えた。


 苦しんでいるのなら、自分が倒して解放してやるべきだろう。死してなお、利用された名も知らぬ彼に対し、炎司ができる唯一のことだ。


 まだ、相手の能力は未知数だが、躊躇している場合ではない。どちらにせよ、あの守護者を倒さなければ、この街を襲う脅威の打破はできないのだ。炎司はそう考え、宙を蹴り、一気に加速し、距離を詰める、最小限の動作で腕を引き、拳を放つ。


「あ、あああ、ああ、ああああ!」


 うめき声を上げた守護者は、炎司の拳をつかんで防御し、そのまま上に投げ捨てた。炎司は一瞬、身体の制御を失う。守護者は、その隙を逃さない。叫ぶようなうめき声を上げつつ、上でバランスを崩している炎司に近づいて、足を思い切り付上げる。炎司は反射的に腕をクロスさせて防御したものの、その衝撃でさらに上空へと打ち飛ばされた。


「ああ、ああああ、あああ!」


 守護者が叫ぶと、炎司のまわりに氷の棘のようなものが多数出現する。それは、炎司のまわり三百六十度取り囲んでいて、逃げられる場所はどこにもない。


 自分のまわりすべてに炎を放出して、防御するしかない。素早く判断を下した炎司は、全身から炎を放出する――


 だが――


 炎を放出しようとした瞬間、炎司のまわりに冷気が吹きつけてきた。すると、あと一秒もせずに放出されるはずだった炎が出てこなくなる。なにが、起こった? 自分は一体なにをされている。その疑問が解決される前に、炎司のまわりに展開された氷の棘が動き出し、一斉に襲いかかった。無数の棘が炎司の身体を貫いてく。十、二十、三十。次々と襲いかかる。とてつもなく低い温度で形作られた氷の棘は炎で焼かれるような熱さだった。炎司は両腕と両足で防御を試みるが、その圧倒的な数の前に押されていく。


 とにかく、この状況を脱さなければならない。無数に襲いかかる氷の棘は一向に減る様子がなかった。炎司は意を決し、氷の棘に向かって突撃する。ダメージ覚悟での脱出。自分に向かってくる氷の棘に対し突撃したため、その威力はすさまじいものだった。身体のいたるところが氷の棘によって貫かれる。


 しかし――


 その甲斐もあって、自分を包囲する状態からは脱することができた。無数の氷の棘は、炎司の目の前に展開している。氷の棘はすぐに動き出し、炎司を指向して襲いかかってきた。炎司は腕を振って、炎を自分の目の前に放出し、襲いかかろうとした氷の棘を一気に焼き払った。


 その後、何故か出せなくなった炎が出せるようになったことに気づき、炎を放出し、自分の身体に無数に突き刺さっている氷の棘を一気に吹き飛ばし、燃やし尽くした。炎司は宙を蹴り、自分の身体に炎を纏わせたまま、守護者へと突撃する。炎の弾丸と化した炎司は、守護者に衝突し、そのまま近場のマンションに落下し、激突した。異常な夜に轟音が響く。


「あああ、ああ、ああ……」


 炎司の渾身の一撃を受けても、守護者は原型を留めていた。この程度ではまだやられてくれないらしい。そのまま追い打ちを放つ。炎司は自分の足を、守護者に向かって振り下ろそうとする。


 だが、またしてもそこで自分の意思に反して身体の動きが止まる。炎司の動きが止まった隙をついて、守護者は跳ねるように起き上がり、その勢いを利用して、炎司に頭突きを放った。動きを止められていた炎司に、守護者の頭突きが命中する。拳や蹴りよりも遥かに重たいものが炎司の鳩尾に突き刺さった。強制的に息を吐き出ささられた炎司は、うめき声を上げた。そのまま上空へと突き飛ばされる。


 頭突きを放った守護者は姿勢を変え、追い打ちを放つべく宙に突き飛ばされた炎司との距離を詰めた。両腕に氷の刃を出現させ、炎司に斬りかかった。炎司は、腕に炎を纏わせて氷の刃による斬撃を弾く。弾いた際にできた一瞬の隙をついて、炎司は前蹴りを繰り出し、守護者を突き飛ばしつつ、後ろに引いて距離を取る。それから、考える。


 敵の能力はなんだ? ただ冷気を操っているわけではないことは確かだ。でなければ、こちらの動きを止めたり、出そうとした炎を出せなくさせるなんてできるはずがない。それを見極めなければ、この敵を打ち倒すことはできないだろう。


「あああ、あ、ああ、あああ」


 守護者はなおも苦しそうなうめき声を上げていた。その苦悶を見ていると、炎司の心が痛くなってくる。なんとかその苦しみから解放してやりたい、という気持ちがさらに強まった。炎司は宙を蹴り、守護者との距離を詰めた。同じく、守護者も宙を蹴り、距離を詰める。そのまま、炎司と守護者は組みつくような体勢になった。身体と身体がぶつかり合う。しかし――


 そこでまた、炎司の身体が動かなくなる。身体が動かなくなった炎司は、当然守護者によって押し込まれた。守護者が身に纏う冷気によって、身体が焼かれていく。炎司は、炎を放出し、身体を蝕む冷気から逃れようとした。だが、守護者はこちらの対処をはじめから予測していたのか、炎司から炎の嵐が巻き起こる前に後ろにステップして、それを回避。姿勢を整えて相対する。


 どうやら、こちらの意思に反して動きを止められたりするのは、長くても数秒程度。恐らく、近ければ近いほどその効果は強くなる。とはいっても、戦いにおいて数秒身体の自由が利かなくなるのは致命的だ。地球のバックアップによる、耐久力と再生力がなければ、とっくにやられていただろう。


 どうする、と炎司は考える。

 どうやって、あのこちらの動きを止める力に対処する?

 なにか、なにかあるはずだ。それを、思い出すしかない。


「ああああ、あ、あああ!」


 守護者が叫ぶと、あたりは白い冷気に包まれた。発生した白い霧によって視界が不明瞭になる。だが、視界が不明瞭になったところでどうにかなるほどではない。炎司は落ち着いて、守護者を待ち受ける。


 すぐに、炎司の背後から気配を感じた。炎司は、腕の炎を纏わせて防御しようとするが――


 またしても動きを止められてしまい、炎司の身体は氷の刃によって切り裂かれた。肩口に焼けるような痛みを感じる。


 炎司を斬りつけた守護者は、さらに氷の刃を振るう。その絶技は、とても正気を失っているとは思えないほどの精緻さがあった。こちらを的確に削ってくる一撃。炎司はなんとかその攻撃を防ぐが、その先々で動きを止められ、攻撃を食らってしまう。


 攻撃を食らいながら、わかったことがある。


 こちらの動きを止めるのは、一度行った多少の時間を空けなければできないようだ。能力的な限界なのか、それとも――


 守護者の連撃はなおも続く。その連撃は、戦いの最中であっても美しく、優雅であると思えるほどだった。そして、また動きを止められて――


 氷の刃が、炎司の身体を貫いた。胸に焼けるような激しい痛み。守護者が、さらに深く氷の刃を押し込むと――


 炎司の身体が急速に凍結していく。炎を出すこともできず、手も足もすべてが凍りついていって――


 そうか、わかった。


 すべてが凍りつくまでのわずかな間に、気づく。

 敵の能力が、いかなるものなのか、その正体に。

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