第41話 生徒会活動
生徒会に新規に参入する事になった、リアーナとカミーユ。この二人を加えて、クラリス率いる生徒会は改めて活動を開始する事になっていた。
そうして活動を開始したわけであるが、その片方であるリアーナの提案によって6月度の生徒会会報に向けての作業が行われる事になり、アクアはその手伝いを行う事になっていた。そんな彼女はアリシアと共に、備品保管庫にて会報に使う撮影機材の確認を行っていた。
「えっと……C-2だから……」
拡張現実に表示された矢印に従って、アリシアは撮影機材の保管されている棚を探す。そうして、その棚の前にたどり着いた。中身はガラスで見える様になっており、外からでも確認可能だった。
「あった。これね……そうだ。アクア。貴方も備品保管庫での作業は初めてだっけ?」
「あ、はい。何度か搬送の手伝いはしましたが……」
「そう。なら一度、きちんと認証されるか確認しておいた方が良いわね」
アリシアはそういうと、C-2と表示された棚の前でアクアへと場を譲る。基本的に備品保管庫の備品類は鍵付きの棚に収められており、何時も通り腕輪を使って解錠するのであった。というわけで、アクアはアリシアの指示に従って腕輪を使って棚の鍵を外した。
「大丈夫そうね」
アリシアはアクアの腕輪でも問題なく解錠出来る事を確認すると、一つ頷いた。そうして、彼女は中に収められていたカメラと三脚等の撮影用の機材を取り出す。
「……えらく本格的なんですね」
「数代前の生徒会に、光学機器メーカのご子息がいらっしゃったそうよ。その方が寄贈したそうね。ナナセ、作業用の机を」
「かしこまりました」
入っていた撮影用の機材には本格的な物もあり、そちらは業務用のプロも使う物だった。そんな様子に目を丸くしてたアクアに対して、アリシアも笑っていた。
やはり大企業の子女が多いと、こうやって色々とプロ仕様の物が寄贈される事も多いらしかった。そうして彼女は作業用の机に、撮影用の機材一式を置いた。
「リアーナ。使えそう?」
「少し、待って下さい」
アリシアの要請を受けて、リアーナが撮影機材の確認に入る。そんな彼女に、アクアが興味深げに問い掛けた。
「リアーナさんも何かこういった企業の方なんですか?」
「いえ、聖都にあるテレビ局の報道局に父と母が居まして。それで昔から、こういうカメラなんかは触れる機会が多いんです」
確認をしながら、リアーナは自らの父母について語る。外部入学である事からも分かるように、彼女は別に有名企業の令嬢というわけではない。
と言っても彼女の両親は完全に無名というわけでもなく、後にアクアが聞けば母は有名なアナウンサー、父は報道局の局長らしい。
その父の方が元々カメラを趣味としていて、それで家にも一眼レフ等の古くからのカメラもあるそうだ。で、彼女や兄もこういう機材の使い方を知っていて、それを見込まれて勧誘されたとの事であった。
「ミリアリア女史の妹さんと話が合いそうですね」
「そうなんですか?」
「ええ。写真を趣味とされているそうですよ」
手持ち無沙汰なアクアの言葉に、リアーナは僅かに驚いた様に頷いていた。後に聞けばやはりお家柄、撮影に関しては一家言存在しているらしかった。
「そうなんですか……機会があれば、話てみたいですね」
リアーナはそう言いながらも、電源が入るか等の基本的な事から、機材の機能の確認を行っていく。そうして機材と三脚の接続や三脚の状態を確認して、一つ頷いた。
「とりあえず、手持ち式で撮影する分には問題ありません。今回は表彰式とパーティという事ですから……そこまで大きな機材を持ち込めないですし」
一応、全ての機材の確認を行っていた様子だが、リアーナが手に取ったのは片手で持てる程度の小さな物だ。プロ仕様というよりも一般家庭向け――と言っても最高級モデル――で、性能もそれ相応だ。と、そんな彼女を見て、アリシアが問い掛けた。
「こっちは?」
「プロ仕様の物は表彰式なら使えそうですが……流石に報道陣も多そうですから。今回はこちらにしておこうかと」
今回は活躍したのが主に『
これを報道しない道理はなく、報道各社がすでに参列を申し込んでいるらしい。流石にその中に入っていくのは両親が報道関係としてどうなのだ、と思ったようだ。というわけで、撮影は生徒会に割り当てられた席から行う事にしたらしい。
「そう……じゃあ、これは片付けておきましょう」
「はい。まぁ、そちらも使える事は確認しましたので、次回また何かがあれば使えるかと」
「そうね……まぁ、これは明らかに学生には不相応だものね」
リアーナの言葉に、アリシアは笑いながら片付けを開始する。そうして、三人は一通り三脚等の機材を棚に戻すと、小型のカメラのみを持って生徒会室へと戻る事にするのだった。
さて、生徒会室に戻った三人は改めて機材の状況をクラリスに報告する事にしていた。
「そうか。機材は全部使えるか」
「はい。とりあえず一通り確認しましたが……使用可能かと。ただ、三脚の駆動部が多少重くなっていましたから、油を差した方が良いかもしれません」
「そうか……」
クラリスは報告を聞いて、一つ頷いた。こういった事を確認してもらう為に行ってもらったのだ。というわけで、引き続き指示を出した。
「それについても頼めるか? 基本的に生徒会の備品は生徒会で整備する事になっていてな」
「わかりました。油は?」
「……そういえば、聞いた覚えがないな。おそらくダリオは知っていたと思うが……あいつの引き継ぎ資料に無いか確認してみてくれ。もし無ければ、外のホームセンターで買ってきても良い」
「わかりました」
流石に生徒会長だからと何から何まで備品の場所をクラリスが把握している、ということはない。なのでこういった備品類の中でもあまり彼女が使わない物については知らないらしい。特にカメラなぞ触らないので、いまいちわからないのだ。
「そうだ。アリシアもアクアも、広報は初めてだったな。リアーナの横で一緒に引き継ぎの資料を見ておいてくれ」
「「はい」」
どうやら、アリシアも中等部の頃は広報に携わらなかったらしい。というわけで、広報に関する活動は初体験で、引き継ぎの資料を共に見る事になったらしい。
というわけで、自席に戻った三人はひとまずチャット機能の画面を共有する機能を使って、引き継ぎの資料を確認しながら話す事にする。
「これが……中々に手広くやられていたんですね。二ヶ月に一回というお話でしたが……」
「基本的には広報は予算編成等の生徒会の活動についてを広く周知して貰う為と共に、報道部と共に学内の事について周知したりします。ですので一枚の記事であるが故に、号外の様な形で出すそうです。今回も号外を出すつもりです」
号外、という形で纏められていたリアーナの兄の引き継ぎの資料に、アクアが驚いた様子を見せる。それに合わせてリアーナもまた僅かに驚いた様子を見せながらも、今後の展望を語る。
彼女が驚いていたのは、アクアと同じく意外と号外の発行回数が多かったからだそうだ。後に聞けば、流石はアトラス学院の生徒会だ、という事らしかった。
「号外、ねぇ……そういえば、ナナセ。おね……会長から以前見せて貰った資料の中に、号外を印刷した物を纏めたファイルが無かったかしら」
「少々、確認して参ります」
「お願いね」
アリシアの確認に腰を折ったナナセが、生徒会活動を纏めたファイルが納められている棚へと向かっていく。と、そんな様子に、リアーナが驚きを露わにした。
「印刷した物があるんですか?」
「珍しいかしら?」
「はい……今どき、大手も大手の報道じゃないと紙媒体なんて使いませんから……」
やはりリアーナは報道関係の娘という所なのだろう。未だに紙媒体の新聞が発刊されている事は知っているものの、それ故にこそその珍しさに目を見開いていた様子だった。これに、アリシアも頷いた。
「そうね。私も紙の新聞なんて初めて見たわ。アクアは見た事がある?」
「ええ、毎日見てますが……そこまで珍しかったんですか」
「「毎日?」」
あまりに平然と告げられたアクアの言葉に、アリシアもリアーナも二人揃って目を丸くする。それに、アクアがカインの方を向いた。
「カインが毎日朝に紙の新聞を……」
「……どうしても、拡張現実のモニターより紙の方が好みですので……アナクロで申し訳ありません」
「はー……」
物珍しい者も居たものだ。恥ずかしげなカインに、アリシアは物珍しげに頷いていた。拡張現実が普及したこの世の中だ。わざわざ配送を待つ必要も無い上、ゴミが出ない。なので電子新聞を使う者が大多数だ。と、そんなアリシアに対して、リアーナがおずおずと問い掛けた。
「あの……もしかして紙の本とかはお持ち……ですか?」
「ええ……一応、お嬢様と旦那様に許可を頂きまして、紙媒体の本も幾つか。それが」
「見せて下さい!」
「「「……」」」
カインの言葉を遮って唐突に声を上げたリアーナに、生徒会室の全員が一斉に目を丸くする。そうして集まった注目に、彼女は恥ずかしげに頭を下げた。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「い、いえ……そ、それでどうしたの、急に……」
恥ずかしげに謝罪したリアーナを苦笑気味に笑って許したアリシアが問い掛ける。今までは冷静沈着という姿が見えていた彼女が、唐突に声を上げたのだ。何事かと思うのも無理も無かった。
「あ、あの……実はこの時代、紙の本は非常に珍しいんです。もう無いと言っても良いぐらいに……」
「まぁ……そうね。私も紙の本なんてもう博物館ぐらいじゃないと見た事がないし……」
再度になるが、この時代はもう拡張現実が一般的に普及している時代だ。しかも二度に渡る戦争により、紙をわざわざ選ぶ様な好き者はほぼ居なくなった。わざわざかさばる紙媒体の本を持つ方が珍しいのだ。というわけで、リアーナがカインへと問い掛けた。
「幾つか、という事は多分、本棚もお持ちなのでは?」
「……」
「大丈夫ですよ」
「は……はい。お嬢様の寮にある私の部屋もありますし、インテリアとして書棚を置かせて頂いております」
アクアの許可を得たカインが、リアーナの問い掛けに答える。インテリアとして書棚。リアーナとアリシアが驚いていた様に、紙媒体の本は非常に珍しい。超高級品と言って良いだろう。大戦前に発刊されたものであれば、もはや美術品レベルだ。
なので現代では本棚を持っているというだけで上流階級の証の様な物でもあり、本の内容次第では持ち主の教養の深さを示せる物でもある。もしアクアが客を招いた場合には彼女の教養の高さを示せるとカインが考え、用意させたのである。
「へー……という事は、アクアも読むの?」
「ええ、まぁ……と言っても、私はカインほど紙媒体にこだわりは無いので、主にカインが使っている形です」
アクアは笑いながら、書棚の管理は基本的にカインが行っている事を明言する。一応、中に何が納められていて、その内容は何か、と把握している程度らしかった。ここらはカインが読んでいるのを見て、それに興味を覚えて読んだという所らしい。
「で、リアーナはそれが見たい、と」
「……はい」
アリシアの問い掛けに、リアーナが恥ずかしげに頷いた。そうして、彼女がその理由を語る。
「あの……実は私も数冊は紙媒体の本を持っているんです。けどやっぱり貴重品で……」
「紙の方が好きなの?」
「はい……」
消え入りそうな声で、アリシアの問い掛けにリアーナは頷いた。どうやら先の大声の理由は、好きなのに滅多な事では手に入らない希少品に出会えて抑えられなかった事と、同好の士に出会えた感動でつい、という所なのだろう。そんなリアーナに、アクアが笑って口を開く。
「あはは……カイン。見せてあげる事は出来ますか?」
「はい。もとよりリビングの本棚はお客様に見ていただく為の物。管理もきちんと出来ております」
「リアーナさん。よろしければ、部屋にいらして下さい」
「……良いんですか?」
「はい」
別に寮室はアクアにとってカインとの愛の巣というわけでもない。寮室は単なる寮室。見られて困る事もない為、迷いも無かった。と、そんなわけでリアーナの来訪が決まった所で、アクアが更に問い掛ける。
「アリシアも、どうですか?」
「良いの?」
「はい」
「うん、ぜひ」
アクアの問い掛けに、アリシアが綻んだ様に頷いた。やはり友達という事があるからだろう。立場もあってあまり他人の部屋に行く事の無い彼女だ。嬉しかったのだろう。そうして、そんな会話をした所に、クラリスが一つ咳払いを行った。
「ごほん……三人共、今が生徒会活動中だと忘れていないか?」
「「「あ……」」」
「仲良きことは美しきかな、とは言うが、作業も忘れないでくれよ」
少し呆れる様に、そして少し楽しげに茶化すようにクラリスが三人に告げる。そうして、三人は慌てて広報活動に関する引き継ぎの確認作業に戻る事にするのだった。
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