5. ワールドワイド・スーパーレディ


 理里が目覚めた翌日、昼休みの柚葉高校1年9組。


 入学したてということもあって、1、2、3限と続いた授業はまだ難易度が低めだ。クラスのメンバーには、さして疲れたようすも見えない。


 しかし、この男だけは、疲労から逃れることは叶わない。


「それでねそれでね、ボールをばーん! ってキックしたら、びゅーん! って飛んで行って、ゴールにぱーん! って入ったの! と同時に、審判の笛がびーッ! って鳴って! わたしのおかげでチームが逆転勝利しちゃったんだよ!」

「そうか……そりゃ、すごいなぁ……」


 擬音が多すぎるセリフの主はもちろん珠飛亜。それを疲れたっぷりの顔で聞いているのは、もちろん理里。


「……りーくん、リアクション薄くなぁい? ちゃんとあいづち打たないと、「しゃかいせい」ってやつ疑われるよ?」

「いやさ……いくらなんでも毎休憩ごとにそのテンションで喋られたら……さすがに……疲れる……」


 理里の護衛を仰せつかってからというもの、珠飛亜は毎時間のおわりごとに、理里の教室に襲来するようになってしまったのだ。


「昼休みだけとか、終礼のあとにとかならまだ分かるけどさ。ぜんぶの休憩時間に遊びに来られるのは、さすがにキツイ……」


 理里がこぼすと、珠飛亜は少し肩を落として、


「あっ……そうだったの」


 申し訳なさそうに肩をすくめた。


「ごめんね。りーくんのこと守らなきゃって思うと、おねえちゃん居てもたってもいられなくなっちゃって……授業にも全然集中できなくてね。りーくん大丈夫かなって、すぐに心配になっちゃうの。ほんとなら、授業も一緒に受けたいくらいなんだよ」


「冗談でも勘弁してくれ……」


 姉と並んで授業など、クラスの笑い者では済まない。


「それに、りーくんと話してるって思うと、なんだか楽しくなってきちゃうの。それでつい、しゃべりすぎちゃって……そうだね、疲れちゃうよね。ごめんね」


「いやぁ……別に、いいよ」


 騒がれすぎるのも問題だが、しおらしい珠飛亜など


 しかし、こうも珠飛亜が素直に行動を改めるとは珍しい。何かよくないことでもあったのだろうか、と、密かに心配した理里だったが。


「うん、ありがとう。じゃあ、ずっと見つめてるだけにする!」


「いやその方が気まずくないか!?」


 やはり、珠飛亜は珠飛亜のままだった。


 ――それはそれとして。


 理里は声を少し落として、珠飛亜の耳元にささやく。


「そういや、あれから手塩先輩に動きはあったか?」

「いや、ぜーんぜん。すれ違っても普段通りに話しかけてくるよ。それが逆に不気味だけど」

「そうか……」


 手塩は、理里が倒れたら次は珠飛亜を狙うと言っていた。理里は倒されたわけではないし、彼も手負いであるから、今は様子を見ているのだろうか。


「あ、でも、ちょっとおかしなことはあったかな」

「……? おかしなことって?」


 理里が首をかしげると、珠飛亜は爪を噛むような仕草をしながら語りだす。


「りーくんを連れて帰ってすぐ、だったかな。ママが、『妙な気配がする』ってずっと言ってたの。それで家の中をいろいろ探してみたら……屋根裏に、大きなハチの巣が見つかってさ」


「蜂の巣? そりゃ怖いな。でも、そんなにおかしなことか? 珍しいと言えば珍しいけど」


「それはそうなんだけど。でも、妙なことに働きバチがぜんぜんいなかったんだよね」

「えっ……一匹もか?」


 聞いて、理里は怪訝な顔をした。


 ふつう、ハチの巣には巣を守るために働きバチが常駐している。そうでなくとも幼虫に餌を与える者や、女王バチだっているはずだ。1匹も巣にハチがいないというのは、通常あり得ない。


「『引っ越し』か? キイロスズメバチか何かに、そういう習性があったと思うぜ」

「うーん……にしてもおかしいの。数日前にママが屋根裏に入ったんだけど、その時は何もなかったんだって。新しくできた巣だったら、働きバチがいないとおかしいじゃん? でも、1匹もいなかったんだよね。死骸もなかったんだよ? 駆除業者さんも首を傾げてたよ」

「……そりゃ、確かに妙だな」


 まるで、人が来るのを察して逃げ出したような。


「そういうこともあるかもしれないが……楽観は禁物だな。心に留めておくよ」

「そうだね。気を引きしめていこう! ……ん」


 ガッツポーズをした珠飛亜が、ふいに辺りを見回す。


「? どうしたんだ?」


「あの女の子、今日はいないの? 髪が水色の」

「ああ、折邑おりむらさんだっけ? なんか、休憩時間になるとどっか行っちゃうんだよ。……珠飛亜が来るからじゃないか? こないだもイラついてたし」

「だとしたら好都合だね。悪い虫は早めに払っておくに限る!」

「む、虫って……」


 珠飛亜がそういう余計な心配をするから理里には浮いた話が全くないのだ。いや、入学初日にあそこまで見せつけてしまった時点で、希望など欠片もないのだが……ほら、今も女子の視線が痛い。目が「シスコンキモイ」と連呼している。


「……まあ、いつものことだしな」


 再び、ため息をつく理里だった。





「…………」


 有村ありむらたいは、口に咥えた棒つきキャンディーをくるくると回しながら、中庭のベンチに腰掛け、じっと地面を見つめていた。


 否……常人からは、というだけのこと。半金髪に一時目を引かれるものの、関わりたくないのか、そそくさと立ち去る人間がほとんどだ。


「順調ですか? 情報収集は」


 手塩が、彼の傍らに現れた。


「…………」


 大河は答えない。


(……ああ、今まさにでしたか)


 納得し、手塩は大河の隣に腰掛ける。

 数分ほどして、大河はキャンディの棒を口から出し、息をついた。


「ふう……お、手塩じゃねえか。悪ィな、気づかなくて」

「いえいえ、良いのですよ。それに有り余る利益を、貴方の異能はもたらしてくれるではありませんか。……それで、その後新たな情報は?」

は特に目立つものはないな。珠飛亜先輩がサッカーで大逆転劇をやったってエピソードは得られたが、聞くか?」

「心底どうでもいいですね……」


 現在、柚葉高校1年9組……つまりは理里のクラスの壁に、大河の"斥候せっこう"が張り付いている。それと五感を共有させることで、大河は理里と珠飛亜の動向をつぶさに観察することが可能なのだ。


「拠点の設置を防がれたのは痛かったが……どうやらあいつらも、小さい気配にまでは気づかないらしい。お陰で、今のところ順調だよ」

「そうですね。昨日は貴重な情報も得られたことですし」


 理里が目覚めたその瞬間にも、大河の"斥候"は立ち会っていた。その後の会話も全て彼の耳にするところだ。


 現在分かっていることは3つ。


・怪原理里は異能に目覚めた。それも、『照射されたものを無差別に石化させる光線を放つ邪眼』という強力なものである。


・しかし、その異能にはリスクがある。体力を大幅に消費し、使用後は強烈な眠気に襲われ、数日間は昏睡状態に陥る。


・怪原珠飛亜が理里の護衛についた。


 最も重要な情報は2つ目だ。何せ、邪眼の使用後において、怪原理里は無防備な状態になることが発覚したのだ。邪眼を何らかの形で空撃ちさせれば、彼はただのトカゲ男。命を刈り取ることはかなり容易になる。


 が、そこで問題となるのが3つ目の情報だ。護衛がいては、邪眼使用後の隙を突くことが叶わない。しかも飛行能力を持つ珠飛亜が護衛では、早々に離脱を許してしまう。


 だが……それら全ての条件を鑑みても、大河の異能は最も彼らの抹殺に適していた。


魔神テュフォーンが誰の魂の中にいるのかも、奴らには分からねえみてえだ。これ以上、有益な情報は得られそうにないぜ」


「全員の異能力や戦闘力については、とうの昔に洗い出してありますしね。そろそろ、動いてもらいましょうか」


「ああ……頃合いのようだな」


 大河はベンチから立ち上がる。


「本来なら、俺と怪原理里の異能の相性は最悪だ。けどよ……今回に限ってはそうでもねえ。護衛がいる状況で奴が邪眼を使うように仕向けるのなら、俺以上に適した人選は無えぜ」

Exactryその通り。期待していますよ」


 二人の英雄は目を合わせ、不敵にわらった。





「ハロー、エヴリワン?」

『ハロー、ミス・ハートビート!』

「OK! 皆さん元気が良いデスネ! では、今日も明るくやっていきまショータ~イム♪」


 柚高ゆずこうが誇る美人英語教師、リンディ・ハートビートの授業は、今回で2回目らしい。理里は邪眼のリスクによる昏睡のため、欠席していたので彼女を目にするのは初めてだ。


 ゆえに、圧倒されていた。


(柚高、レベル高っ……!)


 学力レベルの話ではない。何の偶然か柚葉高校にはキレイな先生が多いのだ。ひとつ前の授業、国語の綾城あやしろ先生も相当に美人だったし、体育教師もかなりの逸材だと聞いている。


 しかし、リンディ先生はレベルが違う。外国人というのもあるが、うねる金髪、青く澄んだ瞳、黄金比がいくつあるのか分からないほどの顔の造形美、そして起伏の激しい肢体したい……!


「おい。……おい」

「はっ!? あ、ご、ごめん」


 いつの間にか前からプリントが回ってきていた。とっさに謝り受け取ると、前の席に座る女子・折邑おりむら紫苑しおんは眉間に皺を寄せる。


「まったく。これだから嫌だな、男子は」

「ご、誤解だって! 誰もリンディ先生の胸元に釘付けになんかなってな……あっ」

「……サイッテー」


 紫苑はブラウスの前を掻き抱く。いや、確かに彼女のものも相当が。


 理里の株が下がったことなど構わず、授業は進んでいく。


「ハァーイ、では前回の復習から始めまショウね。前後でペアを組んで、本文を交互に音読してクダサイな~」


(前後でペアか……えっ)


 ……心底嫌そうな顔をした紫苑が振り返った。







「…………」


「…………」



 沈黙。



 音読のはずなのに、双方言葉一つとして発しない状況が、理里と紫苑の間で続いている。


(こいつ、なんで口をきかないんだ……? 俺、そんなに嫌われちまったのか?)


 まあ、男子の性的欲求の発露を見せられて不快でない女性はそうそう居ないだろうが。


 やはり、この間の口論がまずかったのだろうか。いや、あれに関してはフッかけてきたのは向こうだ。向こうではあるが……冷静になれなかった理里にも非があったように思われる。


(よし、この場を借りて謝るか)


 理里がそう決めたとき。紫苑がおもむろに口を開いた。


「あのさ、この間のことなんだけど」

「え? あ、ああ」


 口論のことを指しているのだ。すぐに理解し、理里はあいづちを打つ。


 しかし。



「………………………」



「……どした?」


 それきり紫苑は押し黙ってしまう。視線を左右に動かして、落ち着きがない。


「えっと、その…………」

「?」


 理里は首をかしげる。彼女は何かをためらっているようだ。だが、それが何なのかまでは推し量れない。


 根気強く待って20秒、彼女は再び口を開いた。


「や、やっぱりシスコンとかないわ! キモイ。生理的に無理」


「……はぁ?」


 予期しない暴言に理里はいらだち、顔を歪める。


「あのな、こないだも言っただろ。俺はシスコンなんかじゃない。あいつがブラコンなんだって――」


「こら、関係ないお話はいけマセェーン!」



 いつの間にか、リンディ先生が理里の後ろに立っていた。



「今はリィディングの時間デスよ? 真面目にやらないと、先生怒っちゃいマスよ! プンプン!」

「あー……すいません」


 腰に手を当ててほおを膨らませるリンディ先生。だが、理里の目には、天文学的サイズの2つのふくらみしか映らない……!


 と。リンディ先生はおもむろに首をかしげる。


「ンン? よくみると、アナタ『ハジメマシテ』じゃありまセンか?」


「え、ええ……まあ、そうですね」


「やっぱりネ! アイム、リンディ! ないすとぅみーとぅー♪


 ンンー、それにしても……えいっ♪」


「むわぁ!?」


 突如。理里の顔面は、柔らかい感触に包まれた。


「ええっ!? えっ、えっ」


 紫苑は目が点になる。他のクラスメートの視線も、理里とリンディ先生に集中する。


むぐちょっむぐぐやめっむぐぐぐぐっ窒息するっ

「アナタ、本当にプリティーなお顔、してマス! 思わずハグしたくなっちゃう♡」


 巨大な2つの肉弾に圧迫され、理里の視界は真っ暗、呼吸すらも許されない。どんどん酸素が頭に回らなくなってくる。代わりに鼻を通り抜けるのは、仄かなローズマリーの香水パフュームと、女の人特有の甘い香り……鼓膜に流れ込むのは、とろけるような猫なで声。そして顔全体を包み込む、マシュマロのようなふわふわ。五感のすべてが、リンディ先生に染められる…………!


「せ、先生っ!」


 見かねた紫苑が、たまらず声をあげる。


「ム、どうしマシタ?」

「せ、生徒と教師でそういうのはどうかと思いますっ!」

「Why? USAでは、あいさつのハグは普通ですヨ?」


 ぎゅ――っ、と理里を抱きしめながら、リンディ先生は首を傾げる。理里は白目を剥き始めている。


「ヒア! イズ! ジャパン! 今すぐ離れてっ! 後で問題になっても知りませんよ!」

「むぅ……ケチンボなガールね。あ、もしかしてこのボゥイのこと、L! O! V! E! なのカシラ?」

「断じて違いまあああああああす!!!!!!」


 クスクス、と笑い声が聞こえる。リンディ先生は「ウフフ♡」と挑発するようにほほえんでから、ようやく理里を解放し、教壇へと戻った。


「そろそろリィディング、終わりマシたね? じゃあ、先生と一緒にもう一度確認しまショ~♪」


 解き放たれた理里は、椅子の背もたれによりかかり、魂が抜けたよう脱力している。


「だ、大丈夫か?」

「ああ……あの幸福感……涅槃ねはんの境地とはこのことだ……」

「……死ね変態!」


 この後、理里はクラスの男子にこの体験のレポートをせがまれ、「クラスになじむ」という彼史上初の快挙を達成した。リンディ先生にはいろんな意味で感謝してもしきれない、と後の理里は語る。





「はあ……なんか、今日は疲れたな」


 理里の疲労を表すかのように、どんよりとした灰色の空。校門を出て15分と少し、怪原家の在る住宅街に差し掛かったところで、理里は深いため息をついた。どっ、と溜まっていた疲れが出たようだ。


「ふんふんふ~ん、ふんふふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながら、珠飛亜が前方を歩いていく。


 理里の説得の末、2人乗りの問題にようやく納得してくれたのだ。怪原家から高校までは決して近くないが、歩いて行けない距離でもない。こうして徒歩で登下校することに話が落ち着いた。


「そういえば。『左眼の名前』、もう決まった?」

「ああ……いろいろ悩んでるけど、なかなかだな」


 実は、異能力には『名前』が必要らしい。なんでも、『名前』をつけることで能力の存在をはっきり認識できるようになり、制御がしやすくなるのだとか。


 昔、中二病にかかっていたこともあり、理里はこの手の名前を考えるのは得意だ。だが、これから一生付き合わなければならない名前となるとなかなか決まらない。いまのところの最有力候補は枯濁し君臨すレプティレスト・蛇の宝アルティミシアだが…………。


「……けど珠飛亜、機嫌いいな。何かいいことでもあったか」

「んふふふ~、だってりーくんといっぱい一緒にいられたんだもん! 機嫌もよくなるよっ!」


 くるっ、とターンした珠飛亜は理里に向かって、歯を見せて笑う。


「お姉ちゃん、りーくんといるときがいちばん幸せだよ。りーくんのこと、世界でいちばん大好きだもん!」

「ちょっ、天下の往来でそんなことっ…………」


 理里の白い頬に、赤みが差す。そんな彼に珠飛亜は歩み寄る。


「な、なんだよいきなり」


 戸惑う理里をよそに、珠飛亜は理里の耳元にまで唇を持っていく。


 そして。


「だからね。きっと、守るよ」


 ささやいた声は、微かに震えていた。


「どんな強い英雄にだって、指一本触れさせたりしない。あたしの知らないところでりーくんが居なくなるなんて……想像しただけで、泣いちゃいそうなの。そんなこと、絶対に起きてほしくない。たとえ……、りーくんはわたしが守るから」


 今にも壊れそうな、嗚咽おえつ混じりの声で、珠飛亜は吐き出した。


「…………っ」


 理里はあっけにとられていた。天真爛漫な姉のこんな姿など、見たこともなかったから。

 きっと、珠飛亜はこの数日、不安で仕方なかったのだろう。生徒会室で倒れている理里を見つけて、まさか、と飛びついて、生きているのを確認してほっとして。でも、3日間も目覚めなくて。気が気でなかったのだろう。


 そして、その理里を襲った犯人が、だと知った。前にも言っていた……『一番大切な場所』。その、最も信頼する仲間の一人が、理里を襲撃したというのだ。


 心安らかで、いられるはずもなかった。だからいつもより多く理里を訪れたのだ。自責、後悔、不安、失望、絶望……この3日間、珠飛亜はさまざまな負の感情に雁字搦がんじがらめだったのだ。


 そう悟り。理里は、珠飛亜を抱きしめた。


「っ!? ちょっ、りーくん!?」


 戸惑う珠飛亜の耳元に、今度は理里が囁く。


「俺はどこにも行かないよ。だから安心してくれ。約束する。大丈夫だ……。この先、俺は絶対珠飛亜の味方だから」

「りーくん…………!」


 ぱあっ、と珠飛亜の声が明るくなった。


「約束だからね? 絶対、だからね!」

「ああ。約束だ」


 春の夕焼けが、2人の肌を紅く染めた――その時。




「……ん?」




 理里の首筋に、チクリ、刺すような痛みが走る。


 不思議に思って、右手を首にやろうとしたその途端。



「くっ!? ぐあああああああああああ!!!!!!」



 痛みが、激痛に変わる。



「!? りーくん、どうしたの…………っ?」


 崩れ落ちた理里を支える珠飛亜の背中……右の肩甲骨あたりにも、チクッ、と軽い痛み。


 そして――それは瞬時に。


「っ!?」


 まるで毛虫に血管の内側を蹂躙されるような、鋭い激痛に変わる。


「ッ……くうっ」


 痛みをこらえながらも、珠飛亜はなんとか理里を助け起こす。


 顔を上げ、視界に入ったモノ……いや、に、彼女は度肝を抜かれた。


「えっ……」



 ヴヴ、ヴヴヴ、ヴヴヴヴヴ。



 羽音。無数の羽音だ。それはだんだんと大きくなり、珠飛亜たちを取り囲んでいく。視界は黒……否、に覆われる。


 蜂だ。おびただしい数の蜂。それも、オオスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ……さまざまな種類の蜂が、珠飛亜たちの周りに密集してきている。


『さあて……駆除の時間といこうか、害獣共』


 くぐもった声が聞こえ――黄色の群れが、怪物姉弟に襲い掛かった。

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