九龍土楼小蟻記

作者 八束

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★★★ Excellent!!!

 「物語」のキャラクターは決まって皆、文字の上では何らかの理由を持って行動する。この「九龍土楼小蟻記」の登場人物たちも例に漏れない。そしてこの物語において、行動する理由の中心に在るのが“居場所”である。
 九龍土楼小蟻記は、主人公の小蟻がまさに己の居場所をうしなうところから始まる。母を殺され、自分も殺されたその瞬間、彼女は居場所ないまま不思議な鈴の力で過去へ飛ばされてしまう。母の形見となったその鈴が彼女を導いたのは、彼女を殺したこわいひとたち(夜来衆)が生活する「九龍土楼」だ。小蟻のいた時代では畏怖の対象であった民族集団“夜来衆”のひとびとは、帰る場所をうしなった小蟻を助け、ともに暮らすことを受け入れてくれる。
 まず、この九龍土楼という舞台装置の魅力的なこと、魅力的なこと! 魅力的この上ないのである。土楼という建造物に聞き覚えがなければいますぐ画像検索をしてみるべきだ。検索してもよくわからない。かっこいい建造物の写真が並ぶだけである。どうも土楼とは、中国にある“巨大円形集合住宅”らしい。中庭付きの円形の木造アパートか、住めるサイズのバームクーヘンなんかを想像すると馴染みやすいだろうか。小蟻がこの円のなかへ落ちていくとき“塔”と錯覚したのを見るに、九龍土楼はこの土楼のなかでも高さのあるかなり大きいもののようだ。夜には廊下に吊るされた鬼灯の形をした紅いちょうちんが光り、舞台はいっそう幻想的に彩られる。演劇のセットとして舞台上にあったらさぞイカすのだろう、映画に出てきたらどうやって燃えるのだろう……などと様々想像せずにはいられない(アクション映画は絶対に建造物が燃えるという偏見に基づく)。通常、土楼というのはその構造上、外部の者の立ち入りを拒むようにできているらしいが、しかし、この九龍土楼はどこか来るもの拒まず去る者追わずといった存在のようだ。多くの民を受け入れ、そして見送っ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

中華ファンタジーを読みたいと思い読ませていただきました。
話の内容は様々な人の思いが激しく交差していき、そこに夜来語という言語や民族の問題、主人公の出自などが絡み非常に読み応えがあり、綺麗な物語です。
登場人物の過去やそこから生まれる感情が丁寧に描写されており登場人物にどんどん感情移入していきました。個人的に睡蓮に最も感情移入しました。
立ちはだかる困難に立ち向かっていく主人公と仲間、敵か味方か終盤まで分からない相方、悪人と一言で割り切れない敵役たち。皆魅力的でした。
最後の話はおまけですが読みながら見たかったシーンを最後の最後に持ってきてくれてとても良かったです。
後、完全に個人的な感想ですが困難にめげず立ち向かっていく小蟻の姿は実生活がきつい今の自分に実に沁みました。
良い物語です。おススメします。

★★★ Excellent!!!

 主人公の少女はある日、ある民族からの強襲を受け、母と共に凶弾に倒れる。しかし、死んだはずの主人公は30年前にタイムスリップして青年に助けられ、彼の幼馴染と共に暮らすことになった。だが主人公を助けた青年こそが、主人公の母と主人公の命を奪った張本人だった。そして主人公と共に暮らすことになった民こそ、主人公と母を襲った民族だった。憎しみを抱いていたはずの主人公は、彼らの中で生活していく内に、恐れられていた民族の本当の姿を知ることになる。そして、自分と母を殺すことになる青年の優しさも。
 では何故、こんなに悲しい過去を背負いながらも力強く、普通の生活を送る人々が、恐れられる存在へと化したのか?
 そこには、青年がかつて所属した麻薬密売グループと、「女帝」並の権力者の女の存在。そして、彼らの文字と言葉に関する秘密があった。
 
 青年の背中に咲く彼岸花。
 それは青年の美しき母と麻薬のの悲しい物語。
 青年の帰属。
 それは二度と失いたくない大切な仲間のいるところ。
 
 主人公は自分の出自にまつわる謎の声に導かれ、青年を、青年の帰るべき場所を守るために、「女帝」に対峙する! 果たして主人公は青年を救い、未来を変えることができるのか? そして民族に伝わる言葉の秘密と「宝」の関係性とは?

 文字や口承伝承などに興味のある方は必読の作品です。
 伏線が随所に張り巡らせてあり、最後まで一気読み必至!
 是非、是非、ご一読ください!

★★★ Excellent!!!

主人公の小蟻は、物語の冒頭で母と共に命を落とす。
最後に目に焼き付けたのは、愛する母の仇である孔雀石の眼をした男。
あわやと思われたその時、鈴の音と共にタイムリープを果たし、小蟻は壮大な建築物──九龍土楼に彷徨い出たのであった。

「死ねるわけないじゃないですか――っ! 小蟻、まだまだ人生を謳歌したいんですから―――っ!」

空から落下しながらのこの台詞、ぜひ本編でご覧いただきたい。素直さとしぶとさが同居した、非常に味わい深い叫びである。この台詞で、私は小蟻が好きになってしまった。

小蟻は、基本的には非力な少女である。善良で、迷いがあり、愛すべきしぶとさを持っている。
そんな彼女が、母の仇であるはずの《夜来衆》に助けられ、九龍土楼で生活を始めるところから、物語は始まる。

***

《夜来衆》である姍姍、祖河、そして睡蓮。
なにやら訳ありの幼馴染三人組と、転がり込んだ部外者である小蟻。
この四人の近いようで遠く、遠いようでそれゆえに近い、それぞれに色合いの違う関係性が非常に印象深かった。

情と愛着、同族に対する互助の精神、それから、越えられない断絶。
作中で繰り返し言及される断絶は、どちらかといえば絶望よりも寂しさに似ている。埋められないものがあることを突きつけながら、それでも寄り添ったり、手を取ったりすることはできると、この物語は教えてくれる。
なぜならば、足元に多少の溝があっても、手を伸ばすことはできるからだ。たとえ踏み越えることができなくても、傷つきながらたぐり寄せた指先には、きっと意味があるのだ。

物語を牽引するのは、失われた言語である《夜来語》。ギミックとしての存在感もさることながら、ラストシーンの演出が非常に美しい。
己を語る言葉があるのは、きっと幸いなことである。

小蟻が何を選び、未来の仇である睡蓮とどのような帰結を迎えるか、どうか貴方の目で見届けて… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

ある日、少しばかりはわはわしている女の子、小蟻(しょうあり)は殺された。

……はずが、なんと不思議な鈴の力で30年前にタイムリープ!?
そこで小蟻が出会ったのは、土楼と呼ばれる建物に暮らす夜来衆と呼ばれる人々。しかし彼らこそが彼女と母親が殺された《血の復讐》の首謀者たちだった!
小蟻を「殺した」張本人である男・睡蓮、失われた言語と文字を蘇らせようと活動する祖河、彼らの幼馴染の姍姍と関わるうちに、小蟻は彼らへの憎しみと親しみの間で迷い、考えていく……。

というあらすじは正直他の方がもっと上手に書いてくれているので私は感想をそのまま書くことにします!

正直このレビューでは語りきれない魅力のある物語ですので、すでに興味をお持ちなら、今から読むことをお勧めします。
では続けます。

とにかくとにかく、小蟻ちゃんを応援したい!!!!
となる物語です。
はわはわしてる普通の前向きな女の子なんですが、この物語が彼女に背負わせるものはとても重い。その最たるものが、睡蓮という人間の未来(小蟻にとっては記憶でもあるのですが)だと思います。
ネタバレになるので深くは語れないのですが、小蟻も睡蓮も、帰るところをずっと探しています。小蟻は強くて厳しくて、でもかっこいい、大好きなお母さんのいた日常、睡蓮は土楼に見出した己の居場所。まあ睡蓮は一度「帰ってきた」身ではあるのですが、やはりどこか、迷子の子どものような、寄る辺なさを抱えて生きています。そして小蟻は、まんま迷子の子どもです。

でも小蟻はえらいんです。自分がなんの因果かたどり着いたその時代、その場所と人々と、彼女は彼女なりに、時に考えなしに、時に逃げる様に、でも着実に向き合っていきます。その過程はあまりに誠実です。

それは、小蟻が出会うことになった土楼の人々もまた、彼らなりに誠実だからなのかもしれません。

時代のうねりは決して穏やか… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

母と一緒に殺された小蟻。目覚めると30年前の世界に時空移動していた。
そこで未来に自分と母を殺す睡蓮と出会うが……。

中華風ファンタジーということですが、今流行りの後宮ものとはぜんぜん違います。

とにかく九龍土楼など世界観が作り込まれており、それぞれのキャラや負うべき試練など、非常にきちんと記載されていて、どんどん読み進めてしまいます。

30年を旅した小蟻、その未来を彼女がどう変えていくのか。

ミステリー要素もある今作をどうぞ一緒に堪能しませんか?

★★★ Excellent!!!

 母親を殺されてしまった小蟻という女の子が、タイムリープした先は、三十年前。
 彼女は、母親を殺した人である、睡蓮の若き日々を目撃することになる。

 ここで私は「読もう……!!」と思いました。小蟻ちゃんは仇討ちをするのか? 睡蓮さんは小蟻ちゃんの母親を殺してしまうのか? どんどん距離が縮まっていく、睡蓮さんと小蟻ちゃんはどういう関係を築いていくのか……。
 睡蓮さんと小蟻ちゃんは結局、ここはネタバレになるので書いちゃいけないと思いますが、個人的にはああ……、と静謐な気分になりました。ありがとうございます。

 もう一個ミステリアスでドキドキしたのが、「夜来語」という失われた言語の話。著者の方の言語方面に対する造詣の深さを感じておお……と感服しました……。そして、それが小蟻ちゃんと……ああ、これもネタバレになるので書いちゃいけないと思います。
 
 色々な思いが複雑に絡まって、素敵な物語になっています。
 個人的に推しは白龍さん! 旦那様との関係がつぼです……

 ほんとうに、読ませていただいてありがとうございます、と感謝したい作品です。
 

★★★ Excellent!!!

母娘共々殺されたヒロインの小蟻が30年前にタイムリープし、運命を変える物語。

失われた言語や離散した民族、そして秘匿された宝など、流行の後宮ものとは一線を画す中華風ファンタジーです。

離散した民族、ヒーローや敵の境遇などは苦労を重ねた辛さがありますが、小蟻ちゃんの不器用ながらも明るく、時に猪突猛進な姿に励まされます。終盤の彼女はヒロインからヒーローへ変貌を遂げるような力強さまで感じます。

どの作品も心理描写や風景描写が巧みで頭の中で映像となって体験出来ますが、この作品では中盤から終盤のとあるものの描写などはある種SF的でもあり、神秘を感じます!

彼らがどこからきてどこへ流れゆくのか。その結末を是非体感してみてください。

★★★ Excellent!!!

本作は中華風ファンタジーの世界で紡がれる物語で、主人公の小蟻という少女が30年ほど前にタイムリープし過去の住人達と接することになります。
ただそこには、タイムリープ前に自分と母を殺めた男、睡蓮がいて……。
彼はなぜ未来で襲撃を行ったのか?
小蟻はなぜ過去に戻ってしまったのか?
復讐相手が目の前にいるという状況の中、夜来衆にまつわる謎を巡って彼女は大きく翻弄されていくことに。

まず本作は作者様が緻密に紡がれた世界設定が素晴らしい。夜来衆と失われた夜来語の文化的背景、九龍土楼という土地と各民族の歴史、文字に関する研究や逸話や変遷などなど。まるでその国が現実にあったのではないかと錯覚するくらい、とても魅力的な世界が構築されています。

と、これはまだ前置きです。
何よりも小蟻の頑張りを見てほしい!
一人30年前にタイムリープしてしまい、風土も民族の慣習も何か違っていて頼れる人がいない中、彼女は母の言葉を胸にして賢明に頑張ります。ちょっとはわわってしまうところもありますが、そこも可愛い。
辛いことがたくさんあって、過去とはいえ知人のいない土地に放り出されたら、自分だったら逃げますよ、ええ。でも小蟻は逞しい少女。できる子です。そこが好感を持てる。

もう一人の主人公ともいえる睡蓮についても、読み進めていく内にこちらも胸が詰まるというか、彼を取り巻く環境にほろりと来ることも。
おそらく彼と小蟻の出会いは運命で、小蟻でなければいけなかったんだろうなと思わせる、余韻のあるラストでした。
読み応えたっぷりの本作、どうぞご一読を!

★★★ Excellent!!!

ちっちゃい猪🐗系ヒロインこと小蟻が、30年前の世界にタイムリープする中華FT って感じです。

僕が気に入っているポイントを上げるとこんな感じでした。

1. 失われた文字を取り戻すことの意味
2. 小蟻のタイムリープには、意味がある
3. ヒロインはめちゃかわなのに塩対応しちゃう

1は、文字に関わらず一度潰えたもの(途切れたもの)を復活させることは非常に難しいことがよくわかる。
例えば、ある郷土料理の一品を復元するだけでも15年~20年かかるそうだ。

文字を、言葉を取り戻すというのは容易なことではないことがわかると思う。
文字や言葉は、尊厳であり、生きてきた人達の生活、文化なのだと思うと、大変なことを成し遂げようとしていることがよくわかる。

2は、個人的な好みではあるが、タイムリープに意味があるものが好きだ。とってつけたものではなく、意味があることが重要。
タイムリープは、大事なんですよ。おおごとですぅ。大変なんですぅ。
ヒロインの声が聞こえてくるようですね。

3. はもう本編を見て欲しいのだが、小蟻ちゃんは基本的いい子なんすよ。。。歴史的経緯があってあるキャラだけには塩対応しちゃうんですよね。それがいいんですね。いいんです!

さて、ここまでレビューを見てくださった方は「一体何を言いたかったのだろう?」と首を傾げていることだと思う。
僕も混乱しているが、それぐらい面白かったということです。見よう!