第39話 急転直下
特に問題なくゴブリンテイマーズもエレメンタラーの宝珠を手に入れて地上に出てきた。
残り六組のパーティーのうち、一組はゴブリンテイマーズと同じく闇のエレメンタルと戦っていたのだが、倒すまでに時間がかかってしまって惜しくもゴブリンテイマーズに負けてしまった。エレメンタル自体は倒せたのだが、宝箱が出なかったんだ。
攻略時間はゴブリンテイマーズと大して差がなかったので、本当に混戦だったと言える。俺たちもクミコがブラックホールキャノンのことを思いつかずに持久戦をしていたら時間差で負けていた可能性があったな。最初は後発でも不利じゃないだろうと思ってたけど、ちょっと甘かったわ。何はともあれ勝てて良かったけど。
残り五組は最下階のボス部屋に入った時点で何も出てこなかったので敗北を悟って、そのまま奥の転移魔法陣で地上に出てきていた。事前に実力は審査されていたからか、ダンジョン内で全滅するような無様をさらすパーティーは一組も無かったな。
残り全パーティーも全部出てきたので、閉会式となる。っても、特に何か特別なことがあるわけでもなく、例によって村長の長い話を聞かされてげんなりしたぐらいだった。
「それでは、これで今年のエレメンタラーチャレンジを終わります。皆さん、また四年後にお会いいたしましょう。さようなら~」
司会者が締めて、今回のイベントは終了となる。観客たちがゾロゾロと客席から出口の方に向かう中で、関係者用の客席の方にいたヒュレーネさんとフリードさんが、俺たちがいる方に歩いてきた。
「無事に宝珠を手に入れたようじゃの。結構結構」
「あ、お祖母ちゃん、お祖父ちゃんも。この通りよ」
二人にエレメンタラーの宝珠を見せるアイナ。
「うむうむ。これでエレメンタラーに転職できるぞ。ワシも後継者ができて安心したわい。それに、そう遠くないうちに曾孫の顔も見られそうだしの」
「ゑ?」
そう言いながら、ヒュレーネさんが意味ありげに俺の方を見たので、思わず変な声が出てしまった。いや、そうなることについては、やぶさかではないけれど、何で確信ありげに俺の方を見るんだ!?
「二人でフレイムゴーレムを倒したときの映像が流れておったからの。いやいや、若い者はいいのう。ワシも若かった頃にフリードが守ってくれたことを思い出したものじゃよ」
「「げっ!」」
思わず二人でハモってしまった。アレ見られてたんかい!
そういや、俺の
「せ、責任……取ってよね?」
「もちろんだ!」
アイナが口ごもりながら言ってきたのに、力強く答える。ここは躊躇する必要は無いしな。
そんなことをしていると、ちょうど係員がカメラを回収に来たので外して渡す。いや、誰に対しても恥じる必要があるようなことじゃないはずなんだけど、こんだけ大勢の観客に見られていたというのはやっぱり小っ恥ずかしいな。
「それでは、ウチに戻ろうか。ご馳走を準備しておるぞ……フリードが」
「おお、ありがとうございます。それじゃ、アイナの家に向かおう」
ヒュレーネさんが話題を変えたので、これ幸いとそれに乗ることにする。それで、みんなで出口に向かって歩き出したところで、同じく出口を目指して歩いているゴブリンテイマーズのところにヘルベルトが歩いて行くのを見つけた。
何とはなしにそちらを見ていると、ヘルベルトがミーネに声をかける。
「ミーネよ、よくやった! そちらのゴブリンも思っていた以上に強かったな。ミーネを助けてくれて感謝する」
「お祖父さま、わかってくださったんですね!」
「おう、オレのゴブリン
「ああ、わしも少し意固地になっていたようだ。さあ、わしにもエレメンタラーの宝珠を見せてくれんか」
「はい、どうぞ見てください。私とマサトさんたちが力を合わせて手に入れたエレメンタラーの宝珠です」
そう言いながら、宝珠をヘルベルトに渡すミーネ。仲直りができたようで、まずは良かった……と思っていたのに、宝珠を手にしたとたんヘルベルトの態度が急変した。
「フ、フハハハハ、ミーネよ感謝するぞ! これさえあれば、わしがエルフこそ最強であることを証明できるからな!!」
「お、お祖父さま!?」
「何だ!?」
驚くミーネやマサトを尻目に、ヘルベルトは懐から取り出した怪しげな装飾の小さな杖の先にエレメンタラーの宝珠を取り付けて、それを天に掲げて叫んだ。
「出でよ『ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテスト』!!」
その声と同時に杖の先に付けられたエレメンタラーの宝珠が輝き、「
火、水、風、地、光、金、闇の七属性のエレメンタルは、いずれもその属性の存在が球状にまとまったような姿をしている。火のエレメンタルは炎の球体だし、風のエレメンタルは風が球状に渦巻いている。金のエレメンタルなんか完全な黄金球だ。
そして、そのエレメンタルたちが空中で近づくと、くっつきあって融合を始めた。七属性のエレメンタルが大きなひとつの球になっていく。
やがて、すべてが完全に混ざり合ってひとつの巨大な球体となった。
「どうだ、見たか、これこそ七属性のエレメンタルすべての能力を兼ね備えた究極のエレメンタル『ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテスト』だ!」
勝ち誇ったように叫ぶヘルベルト。
「これは……まるでレインボゥみたいな……」
「ああ。だけど、こいつの方がたぶん強力だろうね」
思わずつぶやいた俺に、イリスが冷静に指摘する。確かに、こいつは恐らく「全属性吸収」能力を持っているはずだ。光のエレメントと戦ったときの経験から考えると、通常攻撃力も上だろう。しかも、通常状態で浮遊している。
「お祖父さま、これはエレメンタルに対する冒涜です! 見てください、みんな苦しがっています!!」
「そうよ、あなた感じないの!? エレメンタルが苦しそうよ!!」
ミーネが叫ぶと、アイナもそれに合わせてヘルベルトを難詰する。
「あれ、苦しがってるのか?」
「ええ、あたしには聞こえるわ。いいえ、腕のいい
思わず尋ねた俺に、アイナが苦り切った顔で説明する。
「やかましい! これはエルフ復権のために必要なことなのだ!! このワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストがあれば、帝国軍と言えど恐るるに足らん! このわしが、不当に貶められていたエルフを復権させ、この大陸に新たな秩序を築くのだ!!」
ヘルベルトが叫んだのを聞いて、俺は首をひねる。
「エルフって不当に貶められてたりしたっけ? 帝国とは古くから同盟を組んでいて、このあたりの自治領では自治権も認められてるよな。実態を知らない一般人からは、美形で賢くて長生きな種族ってのが一般的な認識だろうし」
「ええ。エルフって別に権勢欲とか、そんなに無い人が多いから、こうやって田舎で自然に囲まれて暮らして満足してる人の方が多いわよ。むしろ、あのヘルベルトのおっちゃんが例外なのよ」
呆れたようにアイナが答える。やっぱり、アレはヘルベルトの個人的な怨念だよな。
「お祖父さま、バカなことはやめて、早くエレメンタルたちを開放してください! そうしないと……」
ミーネが叫んだとき、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストがひときわ強く輝くと、七色に輝く太い光線を周囲の森に向けて発射した。
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