図書館暮らし。

月白あん

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 今日も本が生まれる。

 私の脳内へ流れ込み、私の手を通して本になる物語。

 今度の話はいつの話だろう。どこの話だろう。

 ああ、早く。早く本にしなくては。



 この世界に住む者は大なり小なり皆、魔法が使える。

 魔法の種類は様々で、複数の魔法が使える者もいれば、一種類の魔法しか使えない者もいる。生まれつき使える者もあれば、成長過程で目覚める者もいる。

 私は後者だった。


 或る日突然、脳内に物語が流れ込んできたのだ。タイトルと、その物語を書いた者の名前から始まり、本文全てが。それに混乱した私をおばあちゃんが抱きしめ、両手に集中してごらんと言った。

 目を瞑り両の手に集中した私が、脳内から物語が消えた事に安堵して目を開けると、そこには一冊の紙のまとまりがあった。

 おばあちゃんはそれを、『本』と呼んだ。

 おばあちゃんが子供だった頃、この世界には図書館があった。図書館というのはこの本という物がたくさん置いてある場所で、おばあちゃんも何度か行った事があるらしい。

 図書館に置いてある本は全て一人の魔法使いが生み出した物で、そしてそれらはその魔法使いが死んだ時、全て消えてしまったのだとか。


「お前はあの人の魔法を受け継いだんだねえ」


 そうして私は、図書館に住む事になった。



 一日に何度も本が生まれる事もあれば、一冊しか生まれない事もある。けれど、本の生まれない日はなかった。毎日、一冊は図書館に本が増えた。


 私が本を生み出すと、それは何人かの待機する検閲室へ運ばれる。

 検閲室には常に五人は待機していて、新しく生み出された本を読み、その内容で本を置く棚を決めるのだった。

 時には子供に読ませるには躊躇われる内容のものもあるらしい。そういった物はそれ専用の部屋に置かれる。大人しか入れない部屋に。

 内容ごとに分けられた棚は、さらにその物語を書いた者の名前順に整理される。

 同じ者が全然違う物語を書く事もあって、内容で分ける方がいいのか書いた者の名前だけで分ける方がいいのか問題になった事もあったけれど、図書館の利用者に希望を聞いた結果、内容ごとに分ける事に決まった。


 私は自分の生み出した本の内容を覚えていない。本にした瞬間に、それらは私の中から消えてしまうからだ。

 本の内容が気になって、生み出した本を読んだ事もある。けれどそれをしている最中に物語が流れ込んでくると、新しく生み出す本に別の本の内容が混じってしまうのだ。

 その時の混じってしまった本は、図書館で働く一人が私の読んでいた本と見比べて不必要な部分を塗りつぶし、読みにくいです、との注釈付きで本棚に並んでいる。


 私の脳内は新しい本の為だけに使われるべきであると、私の身の回りの事は殆ど全てお付きの者がやってくれる。

 本を生み出す魔法を覚える前に習慣化していた物事は、生み出す物語に影響しないらしく、目を覚ます、歯を磨く、三食食べる、寝る事は自分で出来る。それ以外の事は、もうやらせてもらえなかった。

 本を生み出す時にかなりのエネルギー消費があるらしく、特に運動せずとも太ったりする事はなかったけれど、散歩がしたいなと思う事もあった。それでもその事を誰かに話したりはしなかった。

 私は私の思った事をすぐに本にして、脳内から消し去った。

 図書館の最奧にある私の部屋には、私の本が山積みになっている。

 誰にも読ませない、私の本が。


 これらも全部、私が死んだら消えてしまうのだろう。

 本の魔法使いは寿命が伸びるらしいが、それでも永遠には続かない。

 きっとこの部屋には代々本の魔法使いの本が山積みになっていて、そうしてある時、全て消えるのだ。


 それを私は見届けられないけれど、儚い事だなと、思う。

 次の本の魔法使いが、すぐ現れてくれるといいのに。


 そうしてまた、私の本が増えた。



【了】

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図書館暮らし。 月白あん @tsukishiro_an

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