ダン・ディ!~その男、ダンジョンディガー~

栄織タスク

ダンジョンは一日にして成らず

ダンジョンは経済だ。だがそれだけじゃない。

 土を掘る。

 掘った土を外に放る。

 穴が出来る。

 更に掘る。

 深くなる。


「ぜっ、ぜっ」

「息が切れてきたな。休憩を入れようか」


 そう言ってくる男は、自分と同じだけかそれ以上の作業を続けているのに息ひとつ切らせていない。

 カドモス・カルリザは手に持っていた大型のスコップを放り出すと穴から這い出し、地面に大の字に倒れ込んだ。

 空は嬉しくなるほど青い。

 近くにあるのは麦畑。まだ色づいていない麦の穂が、風にゆられてさわさわと耳心地の良い音を聞かせてくれる。

 影が差した。


「ほら、水だ。飲みたまえ」

「あ。ありがとうございます」


 体を起こして、コップに注がれた水を一息にあおる。

 頭の芯までしびれさせそうなほどの冷たさが、軽やかに喉を走る。


「ふはっ!?」

「ふふ、いい顔になったじゃないか」


 傍らに腰掛ける男を見やる。

 顔立ちはまだ若く見える。だが、その身にまとう雰囲気は年齢とはアンバランスに老成していて。


「師匠」

「ん?」


 カドモスは何となく、師と仰ぐその男に問いかけた。


「ダンジョンって……何なんです?」

「昔はモンスターの巣窟だったな。魔王がいた頃は、モンスターの生産工場みたいなものだった。だからこう、山奥の洞窟とかそういうところに多かった」

「ええ」

「魔王が討ち取られて、大地神が復活を果たした今は。そうだなあ」


 魔王が勇者に討ち取られて、モンスターが人里に現れなくなって五百年。

 人間世界にダンジョンを創る技術が伝わって、人里にもダンジョンは多く創られるようになった。

 普通の社会に迎合できない者たちは盗賊に身を落とすことなく、ダンジョンで一攫千金を目指す冒険者になる。

 冒険者たちは適度にダンジョンの中で命を落とし、一部の生き延びた冒険者たちは立身出世を果たす。それが英雄譚となり、新しい冒険者を招き入れる。

 冒険者たちに宿を貸す者、装備や薬を売りつける者、そういった者が集まって、ダンジョンの周りは急速に発展する。


「ダンジョンはその土地を発展させる。そういう側面も確かにある。人々が暮らすうえで不要なものを飲み込み、必要なものを生み出してくれる。だがそれにも、成功や失敗があってね」

「知ってます。成功するダンジョンって、二割程度だって言いますよね」

「発展って意味だと、それくらいかもな」

「それ以外に、何か?」

「ダンジョンは経済だ。だがそれだけじゃない」


 男は立ち上がると、カドモスに手を差し伸べた。

 休憩は終わりということのようだ。手を掴むと、強いが決して強引ではない力で引き起こされる。


「カドモス。君はどんなダンジョンを創りたい?」

「どんな?」

「ああ。ダンジョンだって色々ある」


 人の手によって生み出された、数多くのダンジョン。

 そのひとつに数えられるものが、この場所にも創られる。カドモス・カルリザをダンジョンマスターとして。


「さ、新しいダンジョンマスター君。続きだ」


 穴の中に身を躍らせる男。まだ深くはないそこに、カドモスもまた飛び降りる。


「君のダンジョンは、この穴から始まるんだぜ」

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