3.禁じ手
マスターの指示に従い、私はクィモの破壊に集中することにしました。ああでも気がかりです。マスターが破壊されてしまったら私は大変困ります。でも仕方がありません。マスターの指示は絶対です。
私はクィモと近接しています。
彼女は変則的な蹴り技を出してきますが、右腕を失いバランスを欠いているためか、そこまでの威力はありません。受け方さえ間違わなければ大丈夫です。
ですが私の攻撃も決め手に欠けています。炎で強化したものの、相手の耐熱性の高さの前に、大きなダメージを与えられずにいます。
膠着状態。地味な競り合いが続きます。
これはあまり良い状態ではありません。私は彼女を速やかに破壊し、マスターのところに戻らなければならないからです。マスターは銃で剣に立つ向かおうとしています。これは無謀です。愚かとさえ言えます。その状況を打破するためにはできるだけ早くクィモを破壊し、私が加勢するしか方法はありません。
私は覚悟を決め、魔剣フリーズブリーズに手をかけました。
ブリーズフリーズは氷属性の短剣です。これを飲み込めば腕に氷の力を宿し、相手を凍らせたりすることがでいるようになります。
ですが今、私はすでに炎属性であるフレイムクライムを飲み込んでいます。一度に二本の魔剣を飲み込むことは出来ません。
本当は。
その行為は自動人形の身体に多大な負担を与えるからです。
ですからこれは禁じ手です。
今は手段を選んでいる場合ではありません。私はクィモから少し距離を取り、この禁じ手を行使することを選択しました。
私はフリーズブリーズを抜き、その剣先を舌の上に当てました。
短剣は長剣よりも飲むための時間が短くて済みます。私の行動に気付き、クィモが攻撃姿勢を取りましたが、私が魔剣を飲み込み終えるほうが先でした。
右腕の炎はそのままに、私の左腕は即座に冷気が満ちてきました。対象を凍らせる魔剣の能力が宿った証です。
それとともにかなりの苦痛が私にやってきました。魔剣を二本飲むことの負担はこういった形で現れることを私は初めて知りました。そうです。二本の魔剣を飲むのは今日が初めてです。
いずれにせよ一気に勝負をつける必要があるということです。
私は動きます。炎の拳と氷の拳で交互にクィモを殴ります。受けるクィモの素材に温度差が生じることでダメージが蓄積されるのではないかというのが私の予測であり、希望的観測でした。
ですが、別の現象が起きました。温度差のある拳の動きに連動して空気の流れが歪むのです。それは不思議な現象でした。クィモに拳の連打を叩きつけながら、私は思いついたことがありました。
クィモの反撃を受け流し、私は両腕ともをクィモに突き出すように動きました。右腕が前で、左腕は少しうねるような動きを加えます。
風が、動きました。
それは小さなつむじ風でした。風は私の二つの突きに重なるように渦を巻き、クィモに直撃しました。つむじ風はそこから上昇し、クィモを巻き上げて空高く打ち上げました。突然のことに身体制御が出来ず、クィモはそのまま石畳の上に叩きつけられました。
私は地面を蹴り、再びクィモに近接します。
近づくと、彼女の身体の表面にいくつものひびが入っているのが見えました。かなりのダメージを受けていることが見て取れます。先程のつむじ風をもう一度起こせば、私は勝てるかも知れません。
クィモもそう悟ったのでしょう。防御行動を捨てて私に蹴りを仕掛けてきました。ですがそれは左腕で十分に受けられる程度の物でした。これを受け流せばあとは全力でたたき込むだけです。
そのタイミングで、私の左肩の関節球がキュルキュルと音を立てました。最悪です。いつもの作動不良です。どうしてこんな時にかぎって起こってしまうのでしょうか。私の左腕は突如として制御不能となり、力なくだらりと垂れ下がります。
そこにクィモの蹴りがやって来ます。左手で受けるつもりだったので避けようにも避けきれません。私はみぞおちを足で打ち抜かれ、また吹っ飛ばされました。それと同時に腹部からせり上がってくる物を感じました。その感覚は喉を突き上げ、私は溜まらず口を開けました。
飲み込んでいたはずの二本の剣が続けざまに私の口から強制排出されました。そうです。自動人形は腹部に大きなダメージを喰らうと魔剣を吐き出してしまうのです。
絶対的に有利だった状況はこれによりまた一転しました。
双方ともが魔剣の力を失い、一本ずつ腕を失いました。
満身創痍のまま、私はまだ立ち上がり戦わなくてはなりません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます