8.戦況を揺らす接触者
私はようやく動けるようになった身体を起こしました。
クィモはすでにマスターに接触しています。
マスターは彼女の右腕による打撃を喰らってしまいました。彼女の右腕はマスターの血液を奪います。血液を奪われたマスターの動きは通常時より遙かに鈍化していることがこの距離からでも解りました。
膝をつき、地面に突っ伏したマスターをクィモは片手で持ち上げら、宙づりにしました。
振り上げられた彼女の右腕はすぐに振り下ろされ、再びマスターの血液を奪うことでしょう。
間に合わないと理解しながらも、私はマスターの元へ駆けつけるために石畳を蹴りました。そうせずにはいられませんでした。
ですが、この戦況はある乱入者によって変化を余儀なくされました。
それは私の知っている人物でした。
ユヲン・バークリィ氏です。
ペタペタとやたら遅い駆け足でクィモとマスターの間に割り込んだ彼は、クィモの右腕による攻撃を背中で受けました。傷は深く、当たりに血しぶきをまき散らします。
その行動は一見、まったくの無意味な行いに見えました。
ですが、結果としてそれは無駄どころか非常に効果的なものとなりました。
赤かったはずのクィモの右腕が、瞬く間に虹色へと変色していきます。
その鮮やかな色に、私は見覚えがありました。
魔法屋です。魔法の兜に発生していた『虹カビ』と呼ばれる特殊なカビが、これと同じ発色だったことを私は思い出します。
あの時私は聞きました。虹カビは魔法の品にだけ発生する特殊なカビだと。聞いた私は思わず後ずさりしてしまいました。私はオートマタで、オートマタはまさしく魔法の品だからです。
困惑した表情で、クィモはマスターを掴んでいた手を離しました。虹色に変化した右腕を押さえ、その場にしゃがみ込みます。
「いっ、一体何が起こったんだっ!?」
クィモの代わりに剣士が叫びました。
「へ、へへ……」
血まみれのバークリィ氏が石畳の床の上で仰向けのまま親指を立てました。どういう仕掛けなのかは解りませんが、そのポーズから、彼がこの変化を目論み、実行し、成功させたということを私は理解できました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます