2.夜風

 茜色に染まっていた建物が、今は真っ黒だ。

 そりゃそうだ。もう日もとっぷりと暮れている。

 俺は正門を二度叩いた。


 切断方法がわかった、と俺は言った。

 それがわかったことで、犯人が特定した。

 こんなことを出来る奴はこの街にひとりしかいないからだ。

 つまり、切断方法を解明できれば自ずと犯人に辿り着く、というバークリィ氏の推測は正しかったのだ。

 だが、この真相に到達することは容易ではなかった。俺が見つけられたのは偶然以外の何物でも無い。何せそれは、この二五年間誰も気付かなかった――だからだ。


 しばらくすると彼の手によって正門は開かれ、俺は中へと案内される。

 彼は先ほどと同様の拵えで、それはまるで俺が来るのを待っていたのではとさえ思えた。

 夕刻まで賑やかだった稽古場が、いまは夜の静寂に包まれている。

 彼が稽古場に灯りをともす。

 小さな灯りが暗がりの中で俺と彼の姿を照らし出す。

 俺はゆっくりと言った。



貴方アンタが犯人だったんだな――バッソ・ベオウルフ」



 俺の言葉に彼は微笑む。

 変わらない、爽やかさで。

「僕は自動人形オートマタを持っていませんよ」

 飄々とした態度で彼は言う。

自動人形オートマタじゃない。切断したのは貴方アンタ自身だ」

 叩きつける。でも彼は変わらない。

貴方アンタは気が付いたんだ。本当のことに。俺も気が付いた。誰もがずっと見落としていたことさ。驚いたよ。何よりこれを見つけた俺自身がな」

 彼の微笑みがより深まる。

 どこからか入ってきた夜風が髪を揺らす。

 暫しの沈黙の後、彼は言った。

「……少し、歩きましょうか」

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