15.魔法屋 魔術師 ラエルナ・フォルト(前)

名前【ラエルナ・フォルト】

性別【女性】

年齢【三十二歳】

職業【魔法屋店主 魔術師】

外見【下肢機能障害 ショートボブ 美人】


 魔法屋はオープンして三年ほどの新しい店である。彼女が魔法屋を開くまでこの街には魔法の品を扱う店は存在しなかった。魔術師という存在は人々に畏怖を持たれる存在ではあるのだが、彼女自身の魅力と車椅子利用者であることが誘う憐憫さが相まって、比較的すんなりと街の人々に受け入れられたように思われる。

 ちなみに魔術師は一万人に一人の割合で生まれてくる。彼らは先天的に魔力を持つ事と引き換えに何処かしら身体機能の一部に欠損がある。彼女の場合は下肢不全だった。


 ――あら、ひさしぶり。元気そうね。あれから何か見つかったかしら? ……そうなの。難しいものね。

 それで今日はどうしたの? ……ああ、あの殺人事件の。そうよね。それが貴方の本業だものね。

 殺されたのは浮浪者なんでしょ? 難しいわね。それだとむしろ手がかりが見つかりにくいでしょうから。……やっぱり。そして目撃者もなし、と。そりゃあの雨じゃそうなるわよ。いっそのこと諦めてお蔵入りでいいんじゃないかしら。殺された方には悪いけど。……そういうわけにはいかないわよね。

 あの日の夜? あら、もしかして私も疑われているのかしら? ううん。いいのよ。別に構わないの。ちょっと意地悪してみただけ。

 あの夜は確か、新しく入荷した鬼蜘蛛の糸を魔化で仕上げて……そのあと遅くまで調べ物をしていたわ。例のことで虹カビが役に立つんじゃないかと思って。そうよ、その魔法の兜に付いてるのが虹カビ。綺麗でしょ。長く手入れされていない魔法の品にだけ繁殖する特殊なカビなの。いくつか関連する書物が手に入ったから読んでみたけど、結局あれを解決できるような手がかりは何もなかったわ。あ、触っても大丈夫よ。人体に害を与えることはない……って、まあ貴方には関係ないわねきっと。あ、こら、そんなことしないでちゃんと川沿い亭でチーズサンド食べなさいよ。作ってくれる人がいるんだから。

 鬼蜘蛛の糸は買い取り希望があったのよ。麻の赤いスカーフと帽子の似合う旅のガンマンだったわ。糸も牙もかなり状態良かったし、結構な腕じゃないのかしら。

 ……そういえばそのガンマン、珍しいものを連れていたわ。自動人形。そう、その自動人形よ。話には聞いたことはあったけど本当に稼働する機体が現存しているなんてね。ちょっと驚いちゃった。

 え? 鬼蜘蛛の糸? 三百カルダも? 今なら丁度出来たてを用意できるけど……一体何に使うのかしら? 事件の検証? 絞殺だったら別にこの糸じゃなくても……そう、まだ教えて貰えないのね。いいわ。じゃあ聞かないでおいてあげる。

 その四角いの? それは前に来たときはまだ入荷してなかったわ。魔法の冷凍装置よ。コップに水を入れてその中に何時間か置いておけば氷になるの。暑い時期には便利よ。高いけど。使ってみたい? いいわよ。お試しだったら特別に無料で使わせてあげるわ。

 それは溶解液。前にも言ったけど危険だからあまり触らない方がいいわよ。硝子と金属以外なら何でも溶かしちゃうから。スライムの能力をそのまま封じ込めてあるの。火と日光に弱いのもスライムと一緒ね。あら、これもお買い上げ? 結構高いわよ。そう。それならお包みするわ。保安員をやるのも大変なのね。

 流水装置? あれね。あれは置いてないわ。流水装置って魔術都市でもかなり品薄なのよ。作成に結構時間がかかるのよね。それに……この店に並べたところで需要がないのよ。わざわざこの街で彫刻家をやろうなんて酔狂な人はあらわれないでしょうし、家庭で使うには高価すぎるし。それに、あれで物を削るのって結構時間がかかるのよ。普通に生活する中でわざわざ流水装置を使う場面をイメージできないわ。物を切るなら糸の方が断然便利よ。硬いものは無理だけど。

 あ、もしかして……わかっちゃったかも。その殺された死体って――切断されてたんじゃない?

 ふふ、相変わらず素直ね。

 顔に正解って書いてあるわよ。鏡見る?

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