第10話 宇宙のパワー
翌日は昼前に西荻窪へ向かった。クロマティー道場の合宿所へ行くためだ。
千葉にある合宿所まではくろまさんの車で送ってくれることになっていた。鋸山まではアクアラインを通って2時間弱。意外に早く着くものだ。くろまさんによると、海、山といった自然を感じられるところのほうが、より早く高い次元の瞑想に入れるのだそうだ。
道場に着くと、プリウスに乗ったくろまさんが待っていた。今日はよろしくお願いしますと声を掛け、しばらく雑談をしていると莉羅とテンテンもやってきた。僕が助手席に座り、後ろに二人が乗り込む。
「旅行みたいで楽しい♪」
テンテンは上機嫌だ。確かに今日は雲一つなく晴れており、ドライブも気持ち良いものになりそうだった。
川崎方面に向かい、アクアラインに乗る。しばらくは地下トンネルの景色が続く。単調な景色で退屈すると思ったのだろう、くろまさんが口を開く。
「ねえ、知ってる?アクアラインが東京湾の夢の跡ってこと。」
「夢の跡?って何ですか?」
「あっ、もしかしてあの埋め立て計画?」
僕はさっぱり分からなかったが、テンテンは思い出すところがあったらしく、くろまさんに話を合わせる。
「そう、よく知っているわね。実は高度経済成長期、東京湾を埋め立てて2億坪もの土地を確保する計画があったのよ。当時は用地不足が問題になっていたの。さすがに無茶な計画だったから実現はしなかったけれど、その時に盛り込まれていた、川崎と木更津を結ぶ大堤防だけが、アクアラインとして実現したのよ。埋め立ての土砂は、これから向かう鋸山をふっ飛ばして用意する計画だったみたい。それから、用地を確保してできる予定だった新都市は、」
「ネオ・トーキョー!」
「そう。AKIRAに出てくる、あのネオ・トーキョーよ。あの作品でも東京湾に新都市ができる設定だったわね。」
アニメが好きなのでAKIRAは何度も見ている。まさか現実の計画があの作品に影響しているとは思わなかった。あと、パトレイバーの劇場版にも東京湾の大堤防が出てきていたと思う。公開当時、まだアクアラインは開通していなかったはずだ。
そんな話をしていると海ほたるが見えてきたため、昼食にする。「OCEAN KITCHEN」というレストランに入り、僕と莉羅はロコモコ、くろまさんとテンテンはあさりうどんにした。
「七夕ちゃんと莉羅ちゃんお揃い♪」
「もう、何言ってんの。」
テンテンがからかうが、莉羅は関心がない様子だ。
アクアラインを渡り終えた後はそのまま館山自動車道に入り、鋸山へと向かう。富津金谷ICで降り、しばらく走ると海沿いの道に出た。窓を開けると心地よい海風が入ってくる。そのまま海沿いに進み、小道に入ると小高い丘に神社が見えてきた。
「ここが合宿所よ。」
「そういえばくろまさん、井の頭公園にある神社の巫女さんもやっているんでしたっけ。」
莉羅が聞く。実家が神社だけに記憶に残っていたのだろうか。
「そうよ、うちは一般的な神社じゃなくて、新宗教だけどね。ひいおばあちゃんが開いたの。ここは分社で、合宿所が併設されているのよ。」
くろまさんの言う通り、神社の隣に合宿所が併設されていた。周囲を山に囲まれており、海も見渡せる。いわゆるパワースポットの雰囲気があった。建物には宿泊施設や食堂、瞑想室、体操室が完備されていて思ったより大きく、敷地は三千坪あるとのことだった。まず神社に参拝した後で宿泊室に荷物を置き、瞑想室で瞑想に励むことになった。
「ここなら瞑想の効果も高まるというものよ。裏技的なんだけれど、始める前にまず、パワーを頂きましょう。皆、この電話番号に掛けてみて。」
くろまさんに勧められるままに052から始まる電話番号に発信したところ、昔聞いたことのあるような声が聞こえてきた。
「宇宙のパワーを送ります。はあああああああああ!」
うおおおお、おあああああ、と男性の叫ぶような声が聞こえた後、「終わります。」と言って電話は切れた。子供の頃噂になっていた電話番号だ。まだあったのか……。
「えっ、これクロマティー道場の番号だったんですか!?」
「いえ、これは以前お世話になった先生のサービスよ。意外と効果があって侮れないの。それでは早速瞑想に入りましょう。」
宇宙のパワーに首をかしげながらも瞑想に入る。くろまさんによれば、とにかく昨日習った左右の鼻孔を切り替える呼吸法を進めれば良いらしい。
10分ごとに休憩を入れ、瞑想を繰り返していく。能力を研ぎ澄ますチャンスということもあり、莉羅もテンテンも真面目に取り組んでいる。僕の方はというと、少しずつではありながらも体の底からエネルギーが登っていくイメージを具体化できていた。これでも上達としてはなかなか早いほうらしい。
訓練を行いながら、僕はある格闘ゲームのキャラクターを思い出していた。ダルシムというキャラクターで、ヨガと言いながら炎を吐いたりテレポートする技が特徴だった。ずっとヨガと関係ないじゃないかと思っていたけれど、開発当時はヨガ≒超能力のイメージもあったのだろう。僕も能力をコントロールできるようにならなければ。
瞑想に励むうち、眉間から光がほとばしる感覚を長く持続できるようになった。くろまさんにお願いし、10分の合図を1時間にしてもらい、さらに瞑想が深まるか試す。30分ほど経った頃だろうか、体内をエネルギーが上昇し、眉間から白い光が発射される感覚を明確に持つことができた。気づくと目を閉じているのに景色が見えている状態になっていた。あの夜と同じだ。
「あっ、天眼開いてる!」
「おめでとう!」
チャクラと共に第三の眼が開いたようだ。宇宙のパワーが意外に効いたのかもしれない。祝福されながら、次はビームの練習をしなければと思ったその時。
―― ウー、ウー、ウー、敵襲!敵襲!
突然サイレンが鳴り、瞑想室の上から巨大スクリーンが降りてきた。合宿所の全景が映し出されている。
「えっ、これ何ですか!?」
「奴らが来たようね。戦闘態勢に入るわよ!」
スクリーンには、合宿所から職員達が出てくる様子が映し出されている。
職員達が相対しているのは……ミリタリーロリータを着た少女だった。
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