第2話 オカルトブームなき時代に
ワルプルギスの夜が忙しいといっても、僕は魔女でも魔法使いでもない。
今夜は渋谷に仮装した人々が集まるため、普段からコスプレをしている僕がはじけられる格好のチャンスなのだ。
仮装はハロウィンじゃないかって?去年のハロウィンでニワカ仮装が車を横転させたり暴力沙汰を起こしたおかげで、今年のハロウィンではかなり厳しい規制が掛かるだろうと見られている。
―― 僕にとってはこれくらいじゃ全然大事件じゃないけれど。
もっとこう、地下から化け物が現れて人混みを血の海にしたり、100万人の仮装集団が集まって集団ヒステリーを起こして全員自殺したりしないとね。
とにかく、ハロウィン規制論を受けて若者が目を付けたのがワルプルギスの夜というわけだ。
実は2,3年前からワルプルギスの夜に仮装イベントを行う人達はそれなりにいた。
それが今回の規制論を受けて一気に活性化し、SNSにはどんな仮装をするかつぶやく人が溢れている。
僕はハロウィン並の混雑になると予想している。
思ったよりも広まっちゃって規制が心配だけど、お役所のすることだし、すぐに全力の規制にはならないだろう。
今日は天皇が退位する日で、従って大学も休みだ。
つまり、絶好のコスプレ日和...!
とりあえず寝て、夜に備えよう。
◆
その後僕は眠りにつき、昼過ぎに目覚めるとコスプレ衣装を引っ張り出したり、平成について振り返る番組を見たり、平成の思い出についてつぶやいたりして時間を潰した。
平成が、終わる。
僕が生まれたのは平成11年7月7日。
つまり1999年7月7日で、今30代以上の人達はノストラダムスの大予言の日として覚えているらしい。
そんな凄い日に生まれた僕だったが、僕が生きている通り世界は終わらず、同じ年に生まれた友達も予言のことはなんとなくしか知らない。
僕たちは、オカルトブームなき時代に育った。
1960年代の秘境ブームを祖先とするオカルトブームは、70年代、80年代、90年代と断続的に起こった。
秘境ブームというのは、当時まだ未知の世界に近かったアフリカやポリネシア、アマゾンなどに住む部族の風習をいかがわしく取り上げたものだ。
「アフリカにゴリラ人間現る!」とか、「文化の果てる南洋に食人族を探る!」とか、今からするとかなり危ない路線の特集が人気を博していたらしい。
未開の地に現代文明では知りえない何かがある、というロマンがオカルトと通じるのは、仮面ライダーの俳優がUMAや人食い人種を求めて探検する番組を見れば理解できるだろう。
その後70年代-90年代にかけてオカルトブームが起き、スプーンを曲げる外人や少年、ネス湖や池田湖に現れる大型爬虫類、ツチノコ、空飛ぶ円盤、オーパーツ、超古代文明など様々なネタが人々の心をわし掴みにした。
ところが1995年にオカルト色の強い宗教団体が首都圏の地下鉄にサリンをばらまき、1999年の予言も外れたことでオカルトブームは収束に向かった。
それでも僕が幼稚園児の頃はアポロ月面着陸虚構説や9.11陰謀論が世間を賑わせていたらしいが、僕が物心ついた頃には都市伝説のネタとしてたまに語られるくらい。2012年のマヤ暦による人類滅亡説もほとんどの人が信じずに終わった...
どうしてこんなに詳しいかというと、それは僕が時代外れのオカルトマニアだからだ。
子供の頃、親が何となく見せてくれた妖怪アニメにハマったおかげで妖怪に興味を持ったところから、子供向けのオカルト大百科に手を出し、気付けば40年以上の歴史を持つオカルト雑誌の読者になっていた。
リアルタイムのオカルトブーム世代と僕が違うのは、オカルト話の裏をインターネットで簡単に知れるということだ。
かつて人々を信じさせたオカルト話も、2010年代にはほとんど真相が分かっていた。
ミステリーサークルは人間が作っていたし、宇宙人解剖ビデオは作り物、スプーン曲げ師はマジシャンだった。
それでも僕はオカルトが好きだった。
オカルトは、引きこもりがちで友達も少なく、スクールカースト最底辺だった僕に、辛い現実を超えた「今ここではないどこか」を感じさせてくれた。
ああ、早く人類が滅亡しないか...
こんなことを考えているうちにもう夕方だ。
魔法少女になって街に繰り出そう。
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