第27話 くさった死体 が仲間になりたそうにこちらを見ている!


「―――それじゃあもう一度聞くが、どこに行くのかは決まってんのか?」

 

 「たった今、目的地にしてた場所に行く理由がなくなったところだよ!ちくしょう!俺は何の為にわざわざこんなところまで来て、命張ってあんな化け物と戦ったんだよ……」

 

 俺はやけくそ気味にそう言いながらガックリと膝をついた。

 orzのポーズで落ち込むそんな俺に。

 

 「命張って戦ったのは主に俺だけどな」

 

 オッサンから即座に的確な切り返しが返ってくる。

 顔を上げ何か言おうとするが、オッサンの言った事はひとつも間違ってない。

 所謂ぐうの音も出ない正論というものを叩きつけられた俺は、下唇を噛んでぐぬぬと唸るしかない。

 

 ……いかにも悔しがっているような仕草をしてはみたが、別にオッサンの手柄を独り占めにしたかったとか助けてもらったことを感謝していない、というわけではない。

 むしろ見ず知らずの俺にこれだけ手を貸してくれて、感謝こそすれ恨む理由など一つもないからな。

 

 では、今の俺の行動は何に向かってなのか。

 それは『命張って戦ったのはオッサンだけ』という事実に対してだ。

 

 今オッサンが言ったように、命を張って戦ったのは俺ではない。オッサン一人だけだ。

 

 ……絶体絶命のあの状況で俺は、オッサンにおんぶに抱っこにならざるを得ない状態だったわけだ。

 けどさ、俺は思うんだよ。

 本来そういう場面って勇者ポジかそれに準ずる立場の奴が戦うところじゃないかって。

 なのに勇者である当の俺がやった事といえば、10円で買ったガムの食いかけを道に仕掛けて、それに引っかかったドラゴンゾンビにランプ投げつけたぐらいだ。

 

 ドッデ村の時だってそうだ。

 あの時だって俺は結局なんにもしてない。周りの人達がドラグノフと戦ってるのを横で見てるか、ドラグノフに罵声を浴びせることしか出来なかった。

 

 ……そりゃそうだ!

 だって俺、魔法も特別な力も持ってないから!

 前の世界だと俺は普通のサラリーマンだったし、現時点でも俺は普通の人間だから!

 爆風で意識失ってるような奴が、人一人簡単に殺せる化け物と互角に戦えるわけないじゃん!

 

 そろそろ勇者ってなんだっけと自分自身に真剣に問い詰めたい。

 

 ……なんだか事あるごとに同じ疑問を繰り返しているような気がするが、思わずそんな事を考えてしまう状況が何度も何度も起こっているのが全ての原因だ。

 この異世界の方がおかしいだけなんだと、声高に主張したい衝動に駆られる。

 

 もし、この世界にもファンタジーらしく神とやらがいるんだったら「異世界召喚にチートを忘れるとは何たる事か!」と説教しながら1発ぶん殴ってやりたい。

 マジで職務怠慢にも程があるぞ。

 

 そんなわけで、さっきのぐぬぬは言ってしまえばこの世界そのものに対してのぐぬぬだったわけだ。

 

 まぁ、そんなわけで俺にだけやたらと厳しい完全アウェーのこの異世界の事だから、こんなに調子よく物事が進んでくれないだろうとは心のどっかで分かってた。

 ……なんだろう、完全アウェーどころか異世界自体が俺を殺しに来てるような気がしてきた。

 いくら何でもそれはないと思いたいが、その可能性を完全に否定出来ない自分がいる。

 嗚呼、恐ろしや。

 

 俺がそうやって頭の中でぶつくさ嘆いていると。

 

 「―――これから先、どこに行くかは決まってるのか?」

 

 オッサンの問いかけではっと我に返る。

 そうだよ、いつまでも過去のことを嘆いてないでそろそろ次のことを考えないと。

 そうして気持ちを切り替え、オッサンからの問いかけに正直に返答する。

 

 「いや、特に決まってない。……けどな、勇者ってものはな、そこらへんの町を歩き回ってればそのうち強制的にイベントに巻き込まれるようになってるから。大丈夫大丈夫」

 

 何が大丈夫なのかの根拠が全くない暴論を無造作に言い放つ俺。

 どこかのRPGゲームのように淡々と進むとは限らないんじゃないか、という至極真っ当な自分の本音を押さえつけて俺は言った。

 それを聞いたオッサンは困惑しているのが丸分かりの表情になり、そのまま再び俺に問いを投げかける。

 

 「……お前は一人で冒険すんのか?」

 

 おっと、俺の心を抉る一言が来ました。

 だが、ここは冷静に対応しなければ。

 俺はひとつ息を吸い込み、呼吸を整えてこう言った。

 

 「は、はあ!?そんなわけないだろ!今は俺一人だけだが、ここから美少女達を集め(られたらいいなぁ)てハーレム(なんてものが本当に存在するのなら)パーティをつくってウハウハになる(未来が見えない)んだよ!」

 

 「コイツ……!ちょこちょこ心の声が漏れてて何言ってっか分かりにくくて仕方ねぇよ!」

 

 しまった!

 冷静に言うどころか動揺しすぎて自分でも何言ってるか分からなくなっちゃった!

 この尋常じゃない動揺はしっかりとオッサンにも伝わってしまったようだ。

 

 「はっ!願望が強すぎるあまり抑えきれず漏れ出ていたか!俺としたことが!」

 

 「いや、その割には漏れ出た補足情報が全部消極的なものばっかりなんだけど……」

 

 「おっと、それ以上言うのはやめてもらおうか」

 

 しかし、俺の制止を振り切ってオッサンは尚も俺の心をズタズタに引き裂く言葉を放ち続ける。

 

 「それによ、魔法も使えねぇお前の仲間になんぞ誰がなるんだ?」

 

 俺の心に会心の一撃が決まった。

 

 ズガシャァと会心の一撃時のサウンドエフェクトまで聞こえて来たような気がする。

 

 しばしの沈黙のあと、俺は空を見上げて絞り出すようにポツリと呟く。

 

 「………痛いところ突くねェ、君ィ」

 

 いやぁ、本当に痛いところを突かれた。

 もし今の俺のメンタル耐久値を視覚化するとすれば、ギュュュュュンッッッッッッ!!!!くらいの勢いでごっそりやられた気分だ。

 恐らく残り耐久値は全体の8分の1位だろうな。

 

 ショックのあまり思わず天を仰ぎ見る俺に、

 

 「そこで、だ。俺からお前に1つ提案がある」

 

 そう言ったオッサンは、次の言葉との間に数瞬の間を溜めて、次にこう言い放った。

 

 「―――俺を仲間にしてくれないか?」

 

 「は?」

 

 素で聞き返す俺にオッサンはその理由を語り始めた。

 

 「どうせこの先、お前に仲間なんて出来ないだろう。ましてハーレムなんて到底不可能だ」

 

 おっ、そうだな。

 白目を剥きながら相槌を打つ俺の事など気にするつもりはサラサラないようで、さらに話を続ける。

 

 「そんな訳でよ、仲間もなしで魔王討伐の旅なんて出来ねぇだろ?さっきみたいにいきなり敵と遭遇した時、お前一人だったら逃げるしかないだろうし。だから、俺が手ぇ貸してやるって言ってんだよ」

 

 「……本音は?」

 

 「なんか楽しそうだから」

 

 「よしそれじゃあ俺はそろそろ行かないと。またどこかで会う事もあるだろういでででででででででで!!!」

 

 くるりと墓地の出口の方向を向いて、歩き出そうとする俺の左腕をオッサンが凄まじい握力で握り締めた。

 やばいやばいやばい骨が軋んでる、腕からミキミキ鳴っちゃいけない音が鳴ってる!

 やはり腐ってもアンデッド、力は常人のそれを遥かに超えている。やっぱり、1度死んだから肉体に掛かったリミッターが外れたとかそんな感じだろうなと、左腕の生死が掛かったこの状況で冷静に分析している俺は真性のドアホなんだと改めて理解する。

 今は落ち着いて考えてる場合じゃない。ちょっ……マジで骨折れるって!

 

 「はっ……離そうっ!いっか……いでででで1回!1回その手を離そうかッ!はなっ……離せええぇぇぇぇ!!!」

 

 涙目になりながら必死に叫ぶ。

 これにオッサンは渋々応じて、掴んでいた俺の腕をゆっくりと離した。

 自由を取り戻した自分の左腕を抱き寄せ、ムツゴロウさんが動物に愛情を注ぐ時のように、よしよしと慈愛の気持ちを持って優しく擦る。見ると掴まれた部分に真っ赤な手形がクッキリと残っていた。

 これにはさすがの俺も怒鳴り声を上げる。

 

 「おいてめぇ!!なにすんだ!危うく俺のかわいい左腕が天に召されるところだったぞ!言いたいことがあるんなら口で言えよ!全てを力で解決しようとする奴にはもれなく【脳筋】の称号を授けるぞコラ!」

 

 「いや……別にお前に危害を加えたかったわけじゃねぇ。ただ、未だに力の使い方がイマイチ制御しきれなくてよ……じゃなくて!なんで仲間に入れてくれねぇんだよ!」

 

 「ったりめーだろうが!!お前が俺に向かって言ったことはな、例えば就職試験の面接で志望動機を聞かれたとする!その時にだ!『給料が高くて楽そうだから』って答えるのと同じ事を言ったんだよ!そんなクッソ適当なふざけた返答もらったこっちは『はい採用です』ってなると思うか!?……ならねぇよなぁ?ならねぇんだよ、普通は!」

 

 そう言い切った俺は荒く息継ぎをして、乱れた呼吸を整える。怒涛の勢いでベラベラと喋ったから流石に俺の肺活量も限界に達していた。

 オッサンは一瞬だけ目を伏せて、若干下がり気味のテンションでブツブツ呟く。 

 

 「どうせ俺は行くところなんてねぇんだ。………だったら、勇者のお前についてってあちこち旅すんのも悪くねぇかなと思ってよ。それに……魔王討伐なんて燃える展開なんぞ、そうそうお目にかかれねぇだろ?だったらこのチャンスに参加しない手はないだろうさ!」

 

 「おっと、どうやらオッサンは自分がアンデッドで、その討伐しようとしてる魔王軍側だという事をすっかりお忘れのようですね」

 

 俺の軽口を聞いたオッサンは一瞬俯いて黙り込む。そして次に顔を上げた時、そこにさっきまでのふざけた様子のオッサンはなく、そのまま真剣な表情で俺の目を見つめながら徐に口を開いた。

 

 「……たとえ今の俺がアンデッドだったとしても、会った事もねぇ魔王の仲間になるなんざ絶対に御免だ。俺は、俺が認めた奴以外の仲間になるつもりはねぇよ」

 

 ………あれ?今、遠回しに俺のことを認めたって言ったのか?

 

 「ふっ……やはり俺の隠された真の実力に気付いていたか……」

 

 なんだか照れくさいので適当なセリフを語って誤魔化す事にする。もちろん真の実力なんて隠し持ってるわけないし、そんなものがあるんだったらとっくに使ってるが。

 

 「いや別にお前の真の実力とやらに気付いたわけでもないし、お前の実力を認めたわけじゃないぞ。爆風で死にかける奴に戦闘で何かを期待するだけ無駄だろ」

 

 「辛辣なコメントが俺の心に突き刺さっていくゥ!しかも、全部事実なだけに何も言い返せないのが尚更きっつい!」

 

 胸を押さえて後ろに仰け反る俺の事などガン無視のオッサンは、ビシィ!と俺の顔に向かって人差し指を向けた。

 

 「……ってなわけで!戦闘は全部俺に任せて、お前は俺が魔王を倒す瞬間を体育座りで見学でもしてるんだな!わっはっは!」

 

 一体この自信はどこから湧いてくるのだろうか。さっきドラゴンゾンビに殺されかけたってのにもう忘れているのだろうか。

 

 ………まぁ、けど。

 人数は多い方が俺一人で旅するよりも断然面白くなりそうだな。

 

 「……フッ、ここまで言われちゃあ俺も黙っていられないな!いいぜ、オッサンが仲間になりたいのなら仲間にでも何でもしてやるよ!精々俺の足を引っ張らないように頑張るんだなぁ!」

 

 それを聞いたオッサンは俺の顔を見てニヤリと笑い、俺もニカァ……と汚い笑顔で笑い返した。

 

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