舞台は一九六七年以降の歴史が異なるパラレルワールドであり、米帝・欧州連合・大東亜共同体の三極冷戦状態となった二十一世紀。過去最大かつ最悪の核実験が引き金となり、発生した時空の歪みは我々の暮らす現代社会と「異世界」を結び付けることになります。しかしそこから起こるのは融和と併合ではなく、米帝による一方的な搾取と蹂躙……かなりハードな世界観が舞台背景です。
すなわち多くの人種いや種族と文化が混沌とする時代であり、オーガやゴブリンやエルフにサイボーグ、そして生身の人間が混在する社会の中で、テロリズムの抑止・検挙・殺人・禁輸品の流入などの犯罪を取り締まる「大日本帝国公安庁」の捜査官たちの活動を中心に描かれた本作、はじめの数話だけでこの世界観の虜になりました。
社会的正義の実現のためには武力をもって成し遂げることも辞さない、攻性色の強い組織である大日本帝国公安庁に所属する主人公の一人、捜査官・桐生夏目。
そして夏目が事件現場にて見つけた異世界の鉱石「変異石(オルタイト)」を追ってやってきたグラディア王国の女騎士、もう一人の主人公でもあるエルフのユリス・ゲンティアナ。
この二人こそが、タイトルにもある「猟犬」と「忠犬」。
「猟犬」は「猟犬」なりに、覚悟と矜持をもちながらも「誰かに飼われている」不自由さがあります。そして「忠犬」は「忠犬」なりに、遂行すべき任務と義侠心をもちながらも「見ないふりをする」自分自身への矛盾を抱えています。
一見すれば相反する主義・主張を持つ二人ではありますが、とても良く似ている。そこが上手く表現されていると感心しました。
これは「異世界物」なのでしょうか?
いえいえ、これは「異種族バディ」の良質な「クライム・サスペンス」と呼ぶべき満足感。この先の展開が非常に楽しみな一作です。みなさまにも是非ご一読いただきたいと思います。
【物語は】
雨の日に乗り合いで目的地に向かう、途中の車内での会話から始まる。内容はもっぱら、街コンの話だ。街コンが何かについては補足参照。
この話題を通し、各登場人物の特徴が明かされていく。明るい話から一転、着いた先はホラー映画にでも出てきそうな建物であった。
これから何が起きるというのだろうか?
補足*街コンとは?
街コンは、2004年に宇都宮で行われた「宮コン」というものが発祥とされている。出会い系のイベント。大規模型とアットホームな小規模性、大手イベント会社が運営する街コンとローカル地域限定の地域密着型街コンなど、様々なパターンのイベントがあるようです。(web調べ)
【世界観・舞台】
度々出てくる新世界とは。
作中に”親父とお袋が新世界(あっち)の生まれだから”(引用)という一文が出てくるので、何らかの形で行ったり来たりできる場所なのではないかと想像する。
この物語ではゴブリンやオークなどが出てくる。そして、主人公と一緒に職務をこなしており、それなりの階級のものいるようだ。つまり、人間以外の種族が人間と共存しており、差別などされたりもしない世界観という事だ。
しかしながら、街コンの話の流れでは異種族間での付き合いは、そんなに好ましいわけでもないように思える。
この部分から思うのは、異種族であっても”個人として扱われたい”という気持ちがあるという事。肩書や職業ではなく、人柄や容姿も含めた個性などをちゃんと見て判断して欲しいという事である。それは人間も同じであるので、気持ちが理解できる。種族が違い見た目などが違うというだけで、彼らは人間と変わらないという事だ。そんな彼らだからこそ、一緒に任務をこなせるのではないだろうか。
しかしながら、この後の話では新世界との戦争について語られている。それを踏まえると、彼らは特別な境遇にいるのかも知れない。
【登場人物・物語の魅力】
二話ではニュースを通して、この世界にどのようなことが起きたのか、現状がどうなのかについて詳しく語られている。その中で、新世界で暮らしていた者たちとの共存の仕方や、共存できないものとの付き合い方などが明かされていく。しかしながら、全体的に人間が好き勝手している印象が強く、ニュースの中でもそのやり方に反対している者もいるという事が見えて来る。
主人公がこのことについて、どっち派の考え方なのかは、この時点では明確にされてはいないが、彼らとのやり取りを見る限りでは異種族差別をしていないように感じる。
物語を読み進めていくと、少なくとも主人公の周りでは種族間でいがみ合う問題が起きるというよりは、組織の体制によるという方がしっくりする。
あるテロリスト集団を摘発した折に出てきた”異世界の鉱石”、これが飛んでもなく危険なものだった。当然入手経路や、密売者を特定しなければならないわけだが。そこに鉱石の入手元となる国の女騎士が訪れる。
二人のやり取りはとても興味深い。全体的に冷静に感じる主人公の、感情が露わになるシーンでもある。客観的に見ると到底うまくやっていけそうにないように感じてしまうが、果たして密売組織を捕まえることはできるのであろうか?
【物語の見どころ】
世界観設定が細かく、その説明の仕方は色んな方法を交えているように感じた。歴史を辿るような流れであり、それについての主人公の考えも述べられている。
主人公はやり手のキャリアウーマンという印象。冷静でとても強い。しかし、時にはカッとなることもある。(態度は冷静なままに見えるが)そこが魅力の一つでもあると感じた。常に冷静な人には人間らしさを感じないからである。
回想の中では、過去の彼女も垣間見える。こういう職業は悪を取り締まると言っても、やはり人と人との関わり合いで成り立っているんだなと、改めて感じた。
そんな彼女はある任務において、非協力的な者と一緒に仕事をすることとなってしまう。(正確には目的地に同行)この部分の駆け引きは、とてもハラハラする。一筋縄ではいかないという事だ。
果たして、主人公は無事に目的を果たすことが出来るのであろうか?
あなたもお手に取られてみませんか?
アクションシーンがとても巧く、世界観がしっかりとした物語です。警察もの刑事ものが好きな方にお奨めしたい物語です。
ぜひ、読まれてみてくださいね。