「異種族バディ」の良質な「クライム・サスペンス」
- ★★★ Excellent!!!
- 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
舞台は一九六七年以降の歴史が異なるパラレルワールドであり、米帝・欧州連合・大東亜共同体の三極冷戦状態となった二十一世紀。過去最大かつ最悪の核実験が引き金となり、発生した時空の歪みは我々の暮らす現代社会と「異世界」を結び付けることになります。しかしそこから起こるのは融和と併合ではなく、米帝による一方的な搾取と蹂躙……かなりハードな世界観が舞台背景です。
すなわち多くの人種いや種族と文化が混沌とする時代であり、オーガやゴブリンやエルフにサイボーグ、そして生身の人間が混在する社会の中で、テロリズムの抑止・検挙・殺人・禁輸品の流入などの犯罪を取り締まる「大日本帝国公安庁」の捜査官たちの活動を中心に描かれた本作、はじめの数話だけでこの世界観の虜になりました。
社会的正義の実現のためには武力をもって成し遂げることも辞さない、攻性色の強い組織である大日本帝国公安庁に所属する主人公の一人、捜査官・桐生夏目。
そして夏目が事件現場にて見つけた異世界の鉱石「変異石(オルタイト)」を追ってやってきたグラディア王国の女騎士、もう一人の主人公でもあるエルフのユリス・ゲンティアナ。
この二人こそが、タイトルにもある「猟犬」と「忠犬」。
「猟犬」は「猟犬」なりに、覚悟と矜持をもちながらも「誰かに飼われている」不自由さがあります。そして「忠犬」は「忠犬」なりに、遂行すべき任務と義侠心をもちながらも「見ないふりをする」自分自身への矛盾を抱えています。
一見すれば相反する主義・主張を持つ二人ではありますが、とても良く似ている。そこが上手く表現されていると感心しました。
これは「異世界物」なのでしょうか?
いえいえ、これは「異種族バディ」の良質な「クライム・サスペンス」と呼ぶべき満足感。この先の展開が非常に楽しみな一作です。みなさまにも是非ご一読いただきたいと思います。