青い花とエメラルドの花
エドワードを仲間に引き入れたルクアたちは、蔓だらけの中庭へ突入しようとした。しかし、中庭と廊下を繋ぐ扉が押しても引いても、全く開く気配がない。
「……向こうの扉にも、蔓が巻き付いてしまっているのかもしれないな」
トゥルーが腕組みをしながら冷静な声で言う。
「仕方がない。我輩が物理でなんとかしてしんぜよう」
エドワードが腰の剣の鞘から剣を抜こうとする。しかし、ベンジャミンが止めた。
「何バカなこと言ってるんすか。向こうの蔓がここから見えないのに、斬れるわけがないじゃないっすか」
「それもそうだった」
ベンジャミンの言葉に、エドワードがぽんと手を打つ。呆れた顔をしたルクアが言葉を発する。
「蔓が巻き付いて、扉が開かない状態になっているなら、蔓がうまいこと燃えてなくなりますように」
そう言った後で、彼女はもう一度扉を強く押した。すると今度は、ゆっくりと扉が開き始める。トゥルーがため息をついて言った。
「……なんでもありだな、この物語は」
一行が中庭に足を踏み入れると、一帯は蔓に囲まれてしまっていた。たくさん咲いていたであろう花は全て、蔓に飲み込まれてしまっている。
「この蔓は、一体どこから伸びてるんだろうねぇ」
ラトゥールが首をかしげる。すると、元祖ルクアが中庭の中心側を指さして言った。
『アレを見て』
一行が見上げると、そこには一輪の美しい青い花が浮かんでいた。そしてその花を中心として、蔓が伸びていることが分かる。
『アレが元祖フィアの願いを叶えた、願いを叶えてくれる青い花だよ。私は間違ってあの花じゃなくて、隣にあったエメラルドの花にお願いしちゃったんだけどね』
『ちなみに、あの青い花と、ルクアが願い事をしたエメラルドの花は姉妹なんだ』
ファクトは言った後、少し心配そうな顔をする。
『そういえば、エメラルドの花の姿が見えないね。他の花たちも、蔓に埋もれて見えなくなってしまっている』
その時、蔓の何本かが、侵入者に気づいたのかルクアたちに襲い掛かってくる。ルクアたちは、蔓からの攻撃をよけながら、エメラルドの花を探し始める。
『エメラルドの花が失われても、元々は物語修正師候補生ではないあなたたたち全てがゲームオーバーになっても、私たちにとっては終わりよ、全力で逃げて。エメラルドの花がなくなってしまったら、物語修正師候補生でもない一般人をこの世界に送り込み、物語を修正させるという私の願い自体が消えてしまって、あなたたちは元の世界に強制送還される。そうなれば、ここでの記憶は全て奪われることになる』
元祖ルクアの言葉に、ルクアの表情が一変する。一行の目前には、エメラルドグリーンの美しい花があった。そこにも、蔓が広がり始めている。ルクアは言った。
「エメラルドの花を蔓から守る壁があればいいのに」
ルクアの声に呼応するように、土が盛り上がってエメラルドの花を守るように囲う。それを見届けてから、彼女は強い意志を含んだ声で宣言する。
「今私が強制送還されてしまったら、トゥルーと再会できたことも何もかも忘れてしまう。トゥルーを連れて帰れなくなる。他の人たちが聞いたら怒るかもしれないけれど、私は最後までここで戦い抜きたい!」
『わたしも同意見です、ルクアさん』
フィアの声が通信機越しに聞こえた。
『わたしはここに来たことで、たくさんのことを学びました。今強制送還させられてしまったら、わたしの成長も、ティアシオンさんたちとの出会いも、なかったことになります。そんなの、絶対嫌です。だから、一緒に最後まで戦いましょう!』
『水くさいですわ、ルクアさん。あたしも、フィアさんもルクアさんと同じ気持ちですわ。怒るはずがありませんわ。あたしだってランベイルさんたちとの出会いを忘れるなんて嫌ですわ。そして、この物語もちゃんと平和にしたいのですわ。戦うからには、ちゃんと勝って、帰りましょう』
「二人の答えを聞いて安心した。こっちは任せて。そっちは任せたよ』
ルクアはそう言って、エメラルドの花に近づく。蔓の攻撃は止まないが、エメラルドの花を守るために作った土の壁、そしてトゥルーやラトゥール、ベンジャミンやエドワードが蔓を薙ぎ払ってくれているため、直接攻撃を受けることはなかった。彼女は、エメラルドの花の前まで進むと、そっと声をかけた。
「エメラルドのお花さん。初めてお目にかかります。私、ルクアといいます。そこにいる元祖ルクアさんの意志を継いで、この世界を元通りにするためにやってきました。青い花さんの姉妹であるあなたに、力を貸してほしいのです」
ルクアの言葉に反応してか、エメラルド色の花が微かに光を放ち始めたように感じた。
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