ベンジャミンの決意

 ところ変わって、トゥルーとファクトの城。ベンジャミンは、通信機で会話しているフィアたちから離れて1人、立っていた。ジャバウォックとの邂逅からずっと考えていたことが、再び彼の頭を悩ませていた。


 ジャバウォックは、オリジン・アリスを常日頃から監視下に置いていた。いわば、あの塔の番人のような役割を果たしていたのだと。それなら。


「ベンジャミンくん、どうしたの? 顔色が悪いけれど」


 ルクアが急に彼の顔を覗き込むので、ベンジャミンは驚いて後ろに飛びのいた。


「わわっ、何にもないっすよ、大丈夫っすよ」

「……大丈夫じゃないだろう? 話してみろ」


 トゥルーの言葉に促されるようにして、ベンジャミンは話し始めた。


「もともと、あっしがオリジナル・アリスさんの居場所をお伝えしたっすよね。あれの情報源なんすけど……。酒場で飲んでたあっしの前に、エドワードが現れたんす。そしてアリスさんがそこにいること、警備が手薄なことを教えてくれたっすよ。けどふたを開けてみれば、確かにアリスさんはいましたけど、警備は手薄どころか……」


「むしろ、厳重だった。なんて言ったって、最強の番人がいたからね」


 ルクアが考え込むように言った。ラトゥールは言う。


「そうかぁ、ベンジャミン、ずぅーっと最近元気ないと思ってた。それが原因だったんだねぇ」


「だって、あっしが持ってきた情報のせいでみんなを危険にさらしてしまったっす。あっしは、本当に申し訳なくて……っ」


 ルクアは小さな身長を精いっぱい伸ばし、そんなベンジャミンの頭をそっと撫でた。驚いて俯いていた顔を上げるベンジャミン。ルクアは笑って言った。


「大丈夫、誰もベンジャミンのこと責めたりしないよ。私が保証する。100パーセント信じられる情報なんて、多分どこにもない。何かの情報を信じて行動するのなら、その情報が間違っていることも念頭に動く必要があるのは、当然のこと。私たちがその確認を怠ったんだから、気にする必要なんてないよ。それに結果的にアリスは見つかったわけだから、お手柄だったんだよ」


 おとなしく頭を撫でられながら、ベンジャミンはべそをかいている。ルクアは、撫で続けながらトゥルーを見た。トゥルーは静かな声の中に、怒りをにじませる。


「……今度、エドワードに会ったら容赦しない」

「正直者がバカを見るなんて、それこそ馬鹿げてる。エドワードにどんな理由があったにせよ、ジャバウォックとあの時まともに戦ってたら、私たち全員死んでたかもしれない。ちゃんと彼と話し合わないとね」


 そう言いながら、ルクアは拳を握りしめている。そして、ベンジャミンの顔を再び覗き込んで言った。


「いい、ベンジャミン。今度エドワードに会ったら、一発殴っちゃえ。そして言い訳があるなら言ってみろって言えばいい。その言い訳や理由が気に入らなかったら、彼との縁を切るのよ。確かに、彼との縁は物語修正師から定められた設定だったかもしれない。でも、今のあなたには意志がある。そして、エドワードにも。だからこそ、彼は私たちに情報を渡すという選択をした。設定だけで生きていたなら、そんなことはせずにあの街で暮らし続けてたはず。だから、あなたも好きに生きていいんだよ」


「分かったっす。ありがとうっす! これで吹っ切れたっす! あっし、今度エドワードに会ったらとりあえず、一発殴るっす」


 ベンジャミンが元気を取り戻したのをルクア、トゥルーだけでなく他の人々も温かい目で見つめていた。

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