第43話 捨て猫な気分とは、こんな感じだろうか

私が白馬の地を初めて踏んで3年目になろうとしていた。

春さんとの微妙な距離は、埋まる事なくただ日々過ごしていた。


岡田君の件以来、かずくんとは続いていたが、

特定の相手を決めず、フラフラとつまみ食いばかりしていた春さんだったが

唐突に、意中のお相手が現れたのだ。

よりにもよって、私をご贔屓にしている、私の苦手なお客様が連れて来た人だった。


『私の苦手なお客様が連れて来た』という、フィルターを外しても

『胡散臭い』『関わらない方がいい』と私の直感は言っていた。

そう忠告する私に、春さんは『ふふふ』と笑うだけで取り合わなかった。

春さんは、日に日に帰って来る日が減り、仕事の時間以外には

あまり顔を合わせることがなくなって来た。

その仕事の時間さえ、その男『坂本さん』がいるので

ろくに話もしなくなった。


元々、私を気に入っているお客様の席ではあるので

何度も席には呼ばれたが、適当な理由をつけては新人を回した。

春さんは、私と坂本さんを仲良くさせたかったようだが

私よりも優先されている坂本さんと、仲良くなる気も起きなかった。

ただの子供じみた嫉妬だったのだろうが、

冬から続く春さんとの距離感が私をこじらせていたのだろう。


私は、春さんの家を出て行くことにした。

一応、店の寮があるので行く場所には困らなかった。

あらかたの荷物を運び、掃除のために春さんの家に戻った時、

そこにはすでに坂本さんがいて、私の残骸を

春さんと坂本さんが、すべて家の外に出していた。

それは、なんともいえない光景で・・・

なんとも言いようのない感情が押し寄せて来て

私は泣いてしまうかと思った。


戻って来た私を見て春さんは

『片付けるのも掃除もメンドウがって来ないかと思ってた』と

笑いながら言った。

坂本さんは

『雨月は片付けに戻ってこないって春がいうから片付けたのに』と

文句を言っていた。

あぁ、そうなのだろうな。と思った。

普段の私なら、戻らなかっただろうと、私も思った。

戻らなければ良かった、とも思った。

私は、春さんが作ってくれた『帰れる家を出て行ったのだ』と

その時に、始めて気付いたのだ。

それは、泣きたくもなるな、と思った。


片付けてくれたお礼として、3人で食事に行った。

坂本さんと話したがらない私と食事に行ったことに

春さんは、素直に喜んでいる感じだった。


そして、寮に住処を移した私は、

またアキラ君に振られるのだ。

今度のアキラ君は本気だった。

あまりに放置しすぎたせいで、女に、寝とられたのだ。

なんともマヌケすぎる話に、こちらも泣きそうになった。

女に寝とられるなんてマヌケな話は生まれて初めてで

衝撃すぎて、もう何も言えなかった。


そんな嵐のような3年目の幕開けだった。

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