動物園の死闘 3
プライだ。彼女は「あ、クコ先輩、詰めてもらっていいですか」と当然のように僕の席へ座ろうとする。しかたなく僕は窓ぎわにずれた。
まずい。マリーの顔がこわばっている。
「友達と来てるんですけどー、はぐれちゃって。ここ広いじゃないですかー。SNSで場所聞いても見つからなくてー」
メニューを眺めながらプライは不自然な話をした。友達を探さずにひとりで食事をするか?
見つからないと言うけど、このレストランでもゲートでもわかりやすい場所はいくらでもある。いや、そんなことより。
そもそもどうして彼女がここにいるんだ?
地元の駅近くならともかく、ふたつ隣の市だぞ。スカイハイタワーの周辺をはじめ、手軽な遊び場なんて近場にいくらでもある。同じ日にこんなところで出くわすだろうか。
僕の疑念をよそに、彼女は明るい調子で勝手にしゃべる。
「先輩たちデートですか? ラブラブでいいなー。クコ先輩は否定してましたけど、ほんとは行ったんじゃないですか? 新婚旅行」
「いつ?」蒸し返す新婚旅行説を僕がとがめるより早く、マリーがプライにただした。「いつ、クコとそんな話、したの?」
「こないだの生徒会の日ですよ。一緒にごみの仕分けをしたときに」
「その話、聞いてないよ」マリーは不穏な声色で僕をにらんだ。「どうして隠してたの?」
「隠すもなにもわざわざ話すことじゃないし」
言いながら後ろめたさがあった。妙な疑いをかけられたくなくて意図的に黙っていたのは事実だ。
雨が窓を叩きはじめた。窓ぎわの客がそろって外を見上げた。
「クコの浮気者っ」
「君だってフリングスとなにかあるんじゃないのかっ?」高ぶった彼女に、売り言葉に買い言葉で思わず口走る。
しまった、と思ったときには遅かった。
興奮で紅潮した彼女の顔がより赤くなり激怒する――と構えたけど、彼女はみるみるうちに表情を失う。
突然立ち上がり、店の外へ飛び出していった。
彼女の名を呼び追おうとする僕の左腕をプライがつかんだ。いやにまじめな顔で見上げる。
「マリー先輩がこのごろ変なのはその指輪のせいです。外してください」
指輪? 薬指のそれを指さし意味のわからないことを言う。この前も、指輪について彼女がなにか言ったような――
今はそんなものに構っていられなかった。
伝票をひったくり、無理やりプライの椅子を押し込んで通路に出て、レジに並ぶ数人の列を見て、財布から紙幣を取り出し、代わりに払っといて、とテーブルに叩きつけて、僕は走りだした。
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