マリーの異変 4
次の日もマリーの調子は同じだった。
ぼんやりと、常になにか考え込んでいるようだ。僕や友達との会話もうわの空。授業にも身が入っておらず、何度かソフィア先生に注意された。
放課後、サッカー部の練習をよけてグラウンドのわきをマリーと歩く。相談ごとがあればなんでも聞く、と彼女に水を向けた。大丈夫、と首を横に振る彼女の表情はさえない。
この前行ったカフェに行ってみないかと誘ってみた。彼女は、お母さんに裁縫を教えてもらう予定だから、と校外に出るなりログアウトで消えた。僕はひとり学校のフェンス前に取り残される。
車の走行音がむなしく尾を引いた。
マリーと別れたあと駅前のほうへ向かった。
夕方、さまざまの制服にまぎれて街を歩く。今日はいやに蒸す。日差しを避けてビル陰や街路樹の下を通っても脇から汗が流れた。
おととい、訪れたマンションを見上げた。
エレベーターで上階に上がり、ドア横のインターホンを押す。すぐに白髪頭のエマさんが出てきて部屋にあげてくれた。エアコンがきいていて瞬く間に汗が引く。
よく来てくれたわね、暑かったでしょう、と作り置きのアイスティーを出してくれた。ダイニングテーブルに着くなり僕はひと息でグラスを空にした。みっともなかったけど喉の渇きには勝てなかった。エマさんはほほえんでおかわりをついだ。
僕とエマさんはチェス盤を挟んで向かいあった。勝とうという肩の力が抜けて、エマさんと話が弾んだ。
エマさんは、映画が好きでよく見に行く、料理も趣味でいろいろと試している、先日の花火大会を屋上から見物した――そんなことをいろいろと語った。
僕も打ち解けてきて、詳しくは言えないが少し特殊な環境で暮らしている、隣の子と三カ月間、学校を休んでいた、その子の様子が昨日から不可解だ、と話した。船団以外の誰かに状況を聞いてもらいたかった。
「言おうとしないことをしゃべらせようとは考えないことね。時がくれば話せることもあるわ」穏やかにエマさんは僕のルークを取った。
彼女も母さんと同じことを言う。やはり今は尋ねるべきではないのか。
二局指して二局とも完敗だった。とても僕の太刀打ちできるレベルじゃなかった。本当に勉強になるし、ため込んでいることも吐き出せていくらか楽になれた。門限の罰がなければまだ指せるのに。
僕は惜しみつつ、遅くならないうちにエマさんの部屋を辞去した。
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