夏と花火と初めてのキッス 4
グミとミリーは意外にも、というほどでもないが、きちんとおもちゃの屋台で待っていた。母さんたちに釘を刺されているのがきいてるらしい。
ふたりは光るヘアバンドや腕輪を買っていた。また無駄づかいをして。
「じゃーん。見て見て、クコに買ってもらっちゃった。おそろいなんだよ」
マリーはうれしそうに妹たちへ左手を見せびらかした。薬指の小さな輪が銀色に光る。
「あーっ、ペアリングなの、それ? いいなー」ミリーが、後ろに隠していた僕の左手を引っぱって確認する。「クコもこういうのするんだ」
僕は照れたようにむすっとして、薬指の指輪を再び隠した。
買うつもりなんてなかったんだ。こんなのつけてるなんて恥ずかしいし。
祭の浮わついた空気が、浴衣をまとって髪を結ったマリーの立ち姿が、僕を迷わせたんだ。僕に落ち度はない。
「グミ、あたしにも買ってよー」
「は? なんで? ぜってー買わねー」
ミリーのおねだりをグミは一蹴する。僕は弟の潔さをうらやんだ。
いや、それでも。
かざした左手を見つめながらひらひらと舞う彼女を眺めていると、買ってあげてよかったかなと思えてくる。こんなにも幸福に満ちた彼女の面持ちを見られるのだから。
無数の電球と、ところどころに設置された投光器の落とす淡い光のなか、浴衣を身に着け指輪をはめた彼女は大人びて見えた。
彼女を見ていたいけど見るのがつらい、そんなわけのわからない感情が僕をいたぶった。
「あそこに金魚すくいがあるよ。やろうよ。ペアリングのお礼に私がお金出すから」
ぼやっとしている僕の袖を彼女が引く。からころと姉妹の下駄が音を奏でた。後ろを追うと彼女たちの帯が蝶のように揺れる。辺りはもうとっぷりと日が暮れていた。屋台の発電機の低い駆動音さえも、なにもかもが幻想的だった。
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