クコの暴力 3

「うあああ!」


 半身が飛ぶ。


 僕は床に横転した。

 突き飛ばしてきたグミが続けざまに僕を殴りつける。


「このっ、このっ」

「うっ、やめっ……」


 腕に、肩に、胸に痛みが走る。赤い顔のグミは手加減なしで拳を振るう。奴はもうある程度体が大きく、本気で暴れるとかなりの力だ。

 僕はグミを振り払い、突き飛ばし返した。尻もちをついたグミはすぐに立ち上がった。間髪入れず向かってくる。僕も体勢をたてなおし正面から組みあった。


 中学生と小学生だ。力の差は歴然だった。僕はグミを押し倒し馬乗りになった。

 弟はじたばたともがく。離すもんか。よくも叩いてくれたな。

 拳を振り上げる。それまで怒りに染まっていたグミの顔が怯えた色に一変した。このときいったい、僕はどんな形相をしていたのだろう。


「母さん、助けて! 兄ちゃんが!」


 騒動を聞きつけたのだろう。グミが叫ぶと同時に通路から母さんが現れた。


「なにをしているの!」母さんの鋭い声が飛んだ。「グミを離しなさい!」


 猛烈な顔つきで僕たちに迫ってくる。


「だってこいつがっ」「離しなさい!」


 僕の言い分に目もくれず、母さんは、掲げた僕の手首をつかんで乱暴に引いた。

 目をむいてにらみつける母さんに、僕は不承不承起き上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る