忍び寄る不穏はまず子供たちに 7

 昼食で呼ぶ母さんの声がこれほどありがたく思えたことはなかった。僕はいそいそとダイニングへ向かった。

 全員もうテーブルに着いていた。グミがじろじろと僕を見た。父さんは普段どおり見向きはしない。

 母さんが僕を見上げ言った。「なにか言うことは?」

「ごめん……なさい」ばつが悪そうに僕は一言だけ謝った。


 そこから食事にありつくには多少のお説教を覚悟していたけれど、意外と母さんは、座りなさい、と促しただけだった。

 椅子を引いて席に着く。母さんと父さんの顔をうかがった。ふたりともなにも言おうとはしない。僕は遠慮がちに、でももどかしくオムレツにナイフを入れる。朝は中途半端にしか食べられなかったからお腹が空いていた。食が進む。


 昼食の席は静かだった。食器の音だけが鳴っている。

 そのなかで一番騒々しいはずのグミがおとなしい。朝に比べていくらかましな行儀のよさを見せていた。母さんも細かいところは目をつぶっている。フライドポテトを切り分けながら僕は想像した。

 みんな今朝の騒動で慎重になっているのかもしれない。無用の衝突を招かないようにと。

 今の状況でそれは賢明な判断なんだろう。とかく僕たちは神経質になっている。今、穏やかにコーンスープを飲んでいる父さんが、あれほどの剣幕を見せたのは久しぶりだ。冷静沈着で、家のことには口出ししない主義なのに。母さんだって、口やかましい一面はあっても、声を荒らげて叱ることはあまりしない。みんな平常心を失いやすい状態にある。

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