もの憂げな翌朝 6

 その後、父さんと叔父さんは電話でハッチの件を話しあった。手元のタブレット端末を操作しながら意見を交わしていたけれど、はたで聞いている限りいっさいの原因は判然としないようだ。


 母さんの指示で、僕は昼まで家で待機し、昼食をとって午後から学校に出ることになった。昨日の件で疲れているだろうから少し休んでからのほうがいいと。たぶん母さん自身が、戻ったばかりの僕をそばに置いておきたいのもあるんだろう。


 リビングでは父さんが電話をしながら壁の大型モニターを見ていた。船体の図面や各種のグラフ、よくわからない数値の羅列が画面上でひしめきあっている。専門的な会話を交わしているところから相手は叔父さんだろう。後ろで聞き耳をたててみたものの、まるで違う星の言語を聞いているようだった。僕の理解の範疇なんか軽々と越えてしまっている。話についていくのを早々にあきらめて、僕は足の低いテーブルの前に座った。


 父さんがさっきまで使っていたタブレット端末がテーブル上に置かれている。僕は空いているそれを手に取った。船内にある各種端末は、船の基幹を担うシステム、ウラヌスが提供する膨大な量のデータにアクセス可能だ。船の状況はもちろん、学問、料理、ゲーム、文学と幅広い情報やサービスをえることができる。


 僕は端末の画面を操って、船の管理者を育成するカリキュラムを呼び出した。父さんや叔父さんたちが修めたもので、船のメンテナンスに携わるには必須の課程だ。電気工学、電子工学、電磁気学、機械工学、宇宙工学、制御工学、通信工学、情報工学。広範な分野にめまいがしそうだ。でも今度の問題に対処するにはこれらは必要最低限の知識だ。昼までの空き時間に僕は巨大な情報群と格闘した。

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