もの憂げな翌朝 5

「叔父さん、叔母さん、それじゃあ」


 別れを告げる僕に「ああ」「ええ」とふたりは首を振った。僕はダクトのなかに身を投じた。重さから解放された体が宙に浮かぶ。居住区画とは異質の、重力が存在しない空間。普段ならつかの間の無重力を楽しんでいただろう。今は違う。いつもとまったく状況が異なる。もし今、ハッチが閉じてしまったら。船と船を行き来できないどころの騒ぎではない。早く、早く向こうにたどり着かなければ。僕は恐ろしい想像を振りきるように急いでダクトをくぐり抜けた。


「クコ!」


 帰り着いた僕を母さんが抱き締めた。父さんも僕の頭を強くなでつけた。両親からこんな扱いを受けるなんて小学生以来だ。照れくさい。まるで何年も会っていなかったかのようだった。心配をかけたことを実感する。しばらく僕はされるがままに立ちつくした。


 やがて抱擁から解放された僕はダクトの向こう側を見た。ハッチはまだ開いていて、叔父さん夫婦がこちらを見守っていた。


 ハッチがまた開かなくなるおそれがあるなら、開放したままにしておけばいいように思えるけど、そうもいかない。なんらかの理由でダクトが破損すれば船内の気密性が急速に失われる。そんな異常事態には、ハッチの自動閉鎖によって対処される仕組みになっているはずだけど、今回の件で信頼性は揺らいだ。不用意に開けっ放しになどできない。父さんたちはダクト越しに話して、早急にハッチを閉じることで一致した。


 少しの間、僕たちは見つめあったのち、父さんがおもむろに開閉ボタンを押した。ハッチは正常に動作し、閉じた。

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