41『竜頭蛇尾』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・41
『竜頭蛇尾』
竜頭蛇尾という言葉がある。
小学校六年の時に覚えた言葉。
最初は、やる気十分なんだけど、後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。
担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだった。
「意味分かんな~い」
クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが投げ出す。
「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は、八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部って三十年連続の一回戦敗退。それで悩んでたらさ、バレー部のマネージャーのかわいい子に誘われっちまってさ……」
島田先生は、これで自分が野球選手になり損ねたことをもって『竜頭蛇尾』の説明をしようとした。
でも、これで言葉の意味は分かったけど、大失敗。『お里が知れる』という言葉も同時に子ども達に教えることになった。
それまで、先生は――維新この方五代続いた、チャキチャキの江戸っ子よ!――というのが売りだった。実際住所は神田のど真ん中だった。
でも聖徳学園高校もY高校も大阪の学校。神田生まれで阪神ファンなんて、もんじゃ焼きが得意料理ですってフランス人を捜すよりむつかしいし、東京の人間の九十パーセントを敵に回すのと同じこと。それに自分自身がデモシカ教師であると言ったのといっしょ。野球の腕だって、PTAの親睦野球でショ-トフライを顔面で受けたことでおおよその見当はついていた。
五代続いた江戸っ子だってことが怪しいのも、わたしは早くから気づいていたんだ。
島田先生は、五年生の時からの持ち上がり。
「先生は、神田の生まれで、五代続いた江戸っ子なんだぜ」
と、カマしたもんだから、家に帰って言ったのよ。
「ね、今度の担任の島田先生は神田生まれの五代続いた江戸っ子なんだよ!」
すると、おじいちゃんが前の年に亡くなったひい祖父ちゃんを片手拝みにして言ったのよね。
「ほんとの江戸っ子は、そんなにひけらかすもんじゃねえんだぜ」
「だって、先生そう言ったもん」
すると、おじいちゃんは紙に二つの言葉を書いた。
――山手線と朝日新聞が書いてあった。
純真だった(今だってそうだけど)まどかは、その紙を先生に見せて読んでもらった。
「ん、これ?」
「はい、読んでください」
「ヤマテセン、アサヒシンブン」
と……発音した。ショックだった!
「ヤマノテセン、アサシシンブン」
と……わたしの家族は発音する。
前置きが長い……これは、わたしがいかに『竜頭蛇尾』という言葉に悩んでいるかということと、シマッタン先生を始め小学校生活に愛着を持っていたかということを示している。
ちなみに、はるかちゃんは体育だけこのシマッタン先生に習っていたけど嫌い。
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