40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・40   


『風雲急を告げる視聴覚教室!』




 ガッシャーン!


 その時、木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。


 タギっていたものが、一気に沸点に達した!


「ジャンケンで決めましょう!」

 全員がズッコケた……。


「青春を賭けて、三本勝負! わたしが勝ったら演劇部を存続させる! 先輩が勝ったら演劇部は解散!」

「ようし、受けて立とうじゃないか!」

 風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!

 それを取り巻く群衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!


「いきますよぉ……!」

「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」

 木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……

 

 機は熟した!


「最初はグー……ジャンケン、ポン!」

 わたしはチョキ、先輩はパーでわたしの勝ち!

「二本目……!」

 峰岸先輩が叫ぶ!


「最初はグー……ジャンケン……ポン!」

 わたしも先輩もチョキのあいこ……。

「最初はグー……ジャンケン……ポン!!」

 わたしはチョキ、先輩は痛恨のパー……。

「勝った!!」

 バンザイのわたし。

「む……無念!」

 くずおれる山埼先輩。


 と、かくして演劇部は存続……の、はずだった。


「クラブへの残留は個人の自由意思……ですよね、柚木先生」

 ポーカーフェイスの峰岸先輩。

「え……ちょっと生徒手帳貸して」

 イトちゃんの生徒手帳をふんだくる柚木先生。

「三十二ページ、クラブ活動の第二章、第二項。乃木坂学院高校生はクラブ活動を行うことが望ましい。望ましいとは、自由意思と解することが自然でしょう」

「そ、そうね……じゃ、クラブに残る者はこれから部室に移動。抜ける者はここに留まり割れたガラスを片づけて、掃除。せめて、そのくらいはしてあげようよ。わたしは事務所に内線かけてガラスを入れてもらうように手配するわ。じゃ……かかって!」

 わたしは先頭を切って部屋を出た。着いてくる気配は意外に少ない……。



「ジャンケン大久保流……と、見た」



 すれ違いざまに峰岸先輩がつぶやいた。



 狭い部室が、広く感じられた。

 わたしと行動を共にした者は、たった二人。

 言わずと知れた、南夏鈴。武藤里沙。


 タヨリナ三人組の、乃木坂学院高校演劇部再生の物語はここに始まりました。

 木枯らしに波乱の兆しを感じつつ、奇しくも、その日は浅草酉の市、三の酉の良き日でありました……。

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