33『今年の秋も終わりが近い……』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・33   

『今年の秋も終わりが近い……』




 一斉送信しおえて、ヨーグルトを半分食べて気がついた。


 クラブのことに触れたメールが一つもなかった。そいで、潤香先輩のこともなかった。


 気になって、もう一度メールをチェックした……やはり無い。



 一つだけ発見があった。マリ先生のメールを読み落としていた。


 先生は、メールを寄こしてくるときは、いつも「貴崎」と苗字で打ってくる。今回のは「MARI」と書かれていて気づかなかったんだ。

――早く元気になって、乃木坂ダッシュの新記録を作ってね……と、書き出して、過不足のない、お見舞いの心温まる言葉が並んでいた。 


 さすがマリ先生。


 時間は、ちょうど五時間目が終わったところ。里沙にメールを送った。


 二三分で返事が返ってきた。

――クラブ、潤香先輩も順調に回復中。心配無用。

 横で見ていたおじいちゃんが呟いた。

「なんだか、昔の電報みたいだな」

 里沙のメールって、いつもこんなだけど、おじいちゃんの一言がひっかかり、思い切って潤香先輩にメールしてみた。

 これも二三分で返事が返ってきた!

――潤香の意識は、まだ戻らないけど。体調に異常はありません。まどかさんこそ大変でしたね。お大事になさってくださいね。紀香

 返事はお姉さんからだった……潤香先輩、大丈夫なんだろうか……。



 はるかちゃんの大阪でのあらましは、さっき伍代のおじさんから聞いた。


 なんと、転校した大阪の高校で演劇部に入ったそうだ!

『すみれの花さくころ』って、タイトルだけでもカワユゲなお芝居やって、地区のコンクールで最優秀(乃木坂が取り損ねたやつ!)

 で、大阪の中央発表会に出たんだけど、惜しくも落っこちたそうなのよね。南千住の駅で、いっしょになったとき、伍代のおじさんにかかってきた電話がその知らせであったらしい……と、時間だ。電話、電話……携帯代をケチってお家電話を使う。


 プルル~ プルル~ ポシャ


――はい、はるか……もしもし……もしもし(わたしってば五ヶ月ぶりの幼なじみの声に感激がウルってきちゃって、言葉も出ないのよ)

「……はるかちゃん……はるかちゃんなんだ」

――……て、その声。もしかして、まどかちゃん!?

「そう、まどかだわよ! どうして、黙って行っちゃうのよ!」

「おひさ~」

 お気楽に言うつもりがこうなっちゃった。

――……ごめんね、いろいろ事情あってさ。わたしも、それなりの覚悟してお母さんと家出てきちゃったから、携帯の番号も変えちゃったし、大阪のことは誰にも言ってなくて。


「夏に、一回戻ってきたんだって?」



――うん。生意気にも、お父さんとお母さんのヨリもどそうなんてね……タクランじゃったんだけど、大人の世界ってフクザツカイキでさ。そんときゃ、頭の中スクランブルエッグだったけど、今はきれいにオムレツになってるよ。

「そうなんだ。で、はるかちゃん演劇部なんだって!?」

――イチオーね。まだ正式部員にはさせてもらえないの。

「どうして。地区予選で一等賞だったんでしょ?」

――わたし、最初は東京に未練たっぷりだったから、わたしの方から保留にしちゃったんだけどね。今は修行のためだって、顧問の先生とコーチから保留にされてんの。まどかちゃん、あんた演劇部なんでしょ?

「いいえ。ちがいます」

――だって、まどか、四月に入学早々、演劇部に入ったんじゃなかったっけ?

「そんじょそこらの演劇部じゃないの。この仲まどかは栄えある乃木坂学院高校演劇部の部員なのよ!」

――ハハ、そうだったわね。演劇部のスター芹沢潤香に憧れて入ったんだもんね。

「その潤香先輩がね……」


 潤香先輩のことには、はるかちゃんもビックリしたようだ。

 最後に、なにか話したげだったんだけど部活が始まっちゃうみたい。

「またゆっくり話そうね」

 ということで電話を切った。と、同時に……。

「よ、南千山!」

 びっくりした!……おじいちゃんが地元出身の力士に声をかけた。

 テレビが、幕内力士の取り組みになった九州場所を映していた。



 今年の秋も終わりが近い……。

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