第十六章…「夢の終着点。」
悪魔の体の右半身の大半が弾け飛んだ…。
彼女…フラウの体を残して、悪魔の体部分が…。
最初は左半身…次は右半身…。
残ったのは頭から下…首を少し超える部分、ここから見るに鎖骨付近までを残して、悪魔の体は無くなった。
トフラが言っていた…、体が魔力量に耐えきれなくなって…という話、その結末だ。
その決定打を与えたエルンは、安全を考えてか、すぐにその場から離れる。
フラウの体は、状態…そしてそのアンバランスさから、ふらっ…とよろめき、そして倒れた。
ビチャッ…という、倒れた瞬間に、悪魔の体と繋がってしまっていた部分から、大量の血を、地面にまき散らして…。
---[01]---
悪魔と繋がっていた時と違い、その血は蒸発していく事は無い。
それはつまり、さっきまでとは違うれっきとした血だ。
繋がっていた部分は、肉を引き千切った時のように、歪で醜くて、その血まみれの肉を露わにしていた。
見る見るうちに溜まっていく血溜まりに、思わず胸元で握りこぶしを作り、その手の手首をもう片方の手で掴む。
鋭利な爪が自身の手首の、皮に肉に食い込んでいくのを感じながら、沸き上がってくる感情を押さえ込んだ。
今、自分の中で暴れんとする感情を爆発させてもしょうがない、怒り…憎しみ…その人の弱みにつけ込んだやり方に対しての胸糞悪さ…、この感情は今発散していいモノなんかじゃない。
---[02]---
これは来る時…、いつかぶつけるに値する相手が出てくるはずだ。
『佐奈…』
「さな?」
自分の後ろで零れるように聞こえてきた言葉に、思わず反応する。
後ろに私が放り投げたヴァージットが、フラフラと立ち上がっていた。
「さなって…、フラウの…現実での名前? あなた、利永さん?」
「う、うん」
私の質問に空返事のように反応しながら、横を抜け、おぼつかない足取りで、倒れた彼女の方へと歩いて行く。
「どうして…。昼間に意識を失って目が覚めたんじゃないの?」
その足取りに不安を感じ、駆け寄って手を貸す。
「うん。色々あってね。目が覚めたら家にいたから…疲れもあってそのまま…」
---[03]---
「そう…」
貸した手を握る彼の手は震え、借りた手を握るには少々強い。
トフラに何を言われて彼がここに来たのかは知らないけど、その思いは本物なのか…?
悪夢…恐怖の元凶が取り除かれるのを見届けるため?
それとも、フラウの心配から?
フラウ…とか、お前とかあなたといった曖昧な呼称ではなく、現実での本当の名前を口にした事、それを含めて最愛の相手のために来たと…私は信じたい。
そんな時、彼の足が止まる。
私もそれに合わせて足を止め、彼が視線を向けている方向…、倒れたフラウの方を見た。
気のせいか…その倒れた体が動くのが…。
---[04]---
「佐奈? …佐奈ッ!」
そして、倒れていたその体が、体を起こそうと動くのが見えた時、ヴァージットは私の手を借りていた事を忘れ、彼女の下へと行こうとするが、そんな彼を引き留めるように、私は彼の手を強く握る。
胸騒ぎがした。
単純な恐怖がそこにはあったのかもしれない。
悪魔の体が弾けた時、エルンはすぐにその場を離れた…、問題の解決をまだ確認していなくて…、その状態で動くフラウの体に…、鳥肌の立つ嫌な感じがした。
それを私は知っている。
何時だって、自分の身に危険が及ぼうとする時、そんな時に限って襲う危機感のようなモノ。
気のせい…自分の気のせいであってほしいけど、それを否定するように、彼女の体は動いた。
---[05]---
肉の抉れた右側から、黒い魔力が溢れ、膝立ちではあるけど立ち上がった彼女、こちらを見るのは彼女ではなく、僅かに残った悪魔の頭…そして目だ。
咄嗟に、ヴァージットの手を後ろへと引き、私は彼の前へと出る。
その時、フラウの体から溢れた魔力は申し訳程度に右半身の怪我を覆い、彼女のモノではない複数の触手のようにうねる手を作り出す。
私が短剣を構えた時には、その手は射られた矢のように、こちらへと襲い掛かってきた。
一本二本と迫る手を短剣で斬る。
斬られた手は何も無かったかのように、悪魔の体から切り離され、魔力へと帰り、そして新たに手が生えてはこちらを襲う。
その勢いは、徐々に増していき、エルンが動くのが見えるが、彼女へも数本の手が襲い掛かった。
---[06]---
「リ…リータ君…」
徐々に短剣だけで防ぎきる事が難しくなっていき、捌き切れなかった手が自分の横を抜け、ヴァージットを襲う寸での所で掴み斬り落とす。
足りない…。
私は短剣を左手に持ち替えて、右手を後ろの方へと持っていく。
手に取るのは全てが白い、折れた剣…。
フェリスの持つもう1本の剣…、私はそれを抜き、襲い掛かる手を斬り落とした。
短剣の方は元々斬る事に重点を置いていないためか、そこまでの鋭さを持っていないが、こちらの剣はメインで使っている両手剣のそれよりもだいぶ鋭い。
この剣を使おうとすると、いやに胸が苦しくなる。
正直、それを見るだけでも息苦しさを感じる程だ。
これを受け取った時の事もあり、フェリスにとって特別なモノである事は容易に想像がつく。
---[07]---
できる事なら使わずに済ませたいがそうもいかない。
短剣1本で足りないなら、もう1本…と安易な考えだが、もどかしさは消えた。
見逃しはない、確実に飛んでくる手を斬り落とす。
相手が観念するまで、その攻撃が打ち止めになるまで、私は…。
何本も襲い掛かる手、でもその中の1本に私の剣の刃は届かなかった。
「…ッ!?」
顔に何かがぶつかる衝撃が襲う。
右目が何かに覆われて視界が奪われる中、その邪魔なモノを斬り落とし、それが…悪魔の手が地面に落ちる。
そして、悪魔の体が宙を舞った。
いや、正確にはエルンが作った太い氷の柱によって叩き飛ばされたのだ。
何とか立ち上がったトフラが、エルンを襲う手を封じ、その隙に行った攻撃…。
---[08]---
叩き上げられた悪魔は、こちらへと飛ばされてくる。
両手に持つ剣を握る手に力が籠った。
結局攻めが終わるのが先か、それとも防ぎきれずに潰れるのが先か…の根気比べでしかなく、こちらが攻めに転じられなかった泥沼へと投じられた一投。
終わる…そんな希望や願いではなく、終わらせるという意思…意気を持って、私は剣を振るった。
まだ飛んできていた悪魔の手を斬り落とし、目前まで迫ったフラウの体。
その体に寄生するように存在を保っている悪魔へと、往生際の悪い手を短剣が斬り続け、その頭へと白い一閃が光った。
迫りくる相手の攻撃を防ぐリータ君の姿。
手で頭を覆っていた隙間からその戦いを覗き見て、僕は、その最後の一撃を見届ける。
---[09]---
一閃は、妻の…佐奈の右半身、怪物の体を縦に一刀両断した。
「…ッ!」
その時、飛んできた佐奈の体が地面に落ちるその刹那、僕の体は不思議と恐怖も緊張もなく、そもそも頭の中には何の考えもなく、がむしゃらに彼女を受け止めていた。
力なんて無い僕は、彼女の飛んできた勢いに勝つ事ができずに、地面へと倒れる。
痛みが襲い掛かってきたが、それを労わる考えもなく、体を起こした僕は、自分の手に収まる妻の姿を見た。
真っ当な人間の姿とは離れてしまった姿、右半身は人のソレよりもだいぶ変形したモノへと変わり、怪物の影響…その体の繋がっていた部分は、抉れるように、何か別のモノがはめ込まれていたように、窪みをいくつも見せている。
諸悪の根源と言えばいいのか、その怪物のなれ果ては、模っていた灰が崩れ去る様に、その形を崩壊させていく。
---[10]---
怪物がいなくなる…その事に対して、幾ばくかの安堵があった。
でも、同時にぽっかりと穴が空いたような感覚が胸にある…。
手に伝う粘り気のある液体の感触のせい…?
手に乗る重み、その重みから熱を感じなくなっていくせい…?
わからない…わからないけど、わかってる事もある…。
諸悪の根源、大本の悪は…あの怪物ではなく僕の方…。
怪物はその悪に寄ってきた…糧を求めるハイエナだ。
自分が求めて負った責任から、僕は逃げて、その結果がこれ。
「こんな事になるとわかっていたら、望まなかった。あの時、取り戻した幸せに胸を躍らせていた自分を殴ってやりたいよ…。」
妻の体を抱き寄せて、僕は強く抱きしめる。
---[11]---
自分へ抱き返してくれるモノはなく、そこに居るという重みだけが残り続けた。
『気が早いねぇ~。まぁ無理はないか』
そこにリータ君と一緒に戦っていた…と思う女性が歩み寄り、僕の前に膝を付く。
「私の名前はエルン・ファルガ。医療術士だ」
「医者…ですか?」
「当たらずとも遠からずだねぇ~」
「なら、妻を…妻を…どうか…」
僕の言葉にファルガさんは表情を曇らせる。
そこに驚く事はない、自分でもわかってる、そんな事無理だって。
瞬間的に焦りを見せ、すがる様に彼女を見た僕だったけど、希望のような何かは一瞬にして消え、手の中で眠るその人へと視線が落ちる。
「人の命を守る側に立つ人間としてねぇ、あまり言いたくはないけど、もうこの人は生き死にの問題をとうに超えている」
---[12]---
「・・・」
「でも、今ならまだほんの少しだけ、意識を回復させられる程度の助力はできるよ」
「…え?」
「彼女は特殊な存在だ。その体にあの悪魔の残滓も、まだ残っているはず。その力を使えば、動く事はできなくても、ほんの少しだけ会話をする程度には持っていける」
「ほんとう…ですか?」
「気休め程度の荒療治だけどねぇ~」
「それでも…彼女に僕の言葉を届ける事ができるなら…」
「そうか」
僕の願いが、結局自分のわがままで、押し付け的なモノだったとしても…それでも僕は…。
---[13]---
ファルガさんは、佐奈の額に手を当てる。
すると、その手が淡く青色の光を放ち、それが頭部を中心に包む。
「できる会話は、長話なんて到底無理な程、すれ違い様にちょっとした話をする程度の量だと思う。彼女が目を覚ましてから、その短い時間を無駄にしない様にねぇ。」
彼女が手を離してすぐ、虫の息と言っていい程に弱っていた佐奈が、力強く息をはじめ、その眼がうっすらと開いた。
「佐奈?」
「・・・とし…くん…」
「ああ」
「よかった…」
「え?」
「なんか怯えてないから…。怖い事…なくなった?」
---[14]---
「…うん。うん」
「泣いちゃダメだって。・・・ごめんね。私、なんか体が動かせなくて…、その涙をふいてあげられない…」
「いい…いいよ。そんな事。それよりもごめん…ごめんなさい…。僕、きみに酷い事をいっぱい…」
「…いいよ。許してあげる…」
「いや…そこは許さないっていう所じゃ…ないか?」
「…いいの。私は…、君にまた会えただけで…うれしかった…から…」
「佐奈?」
「…あな…た…が、怖がって…私に…した事…全部…許して…あげる…」
「・・・」
---[15]---
「き…みが…こうか…して…るな……、お…がい。…のとき…いって……たこと…、もういっかい……ってほし…な…」
「あの時?」
「たいちょ…が……くなっ…ら…ふたりで…」
「…ッ!? んぐ…。う…うぅ…。…帰ろう…。頑張って…頑張って元気になって…、2人で一緒に…、いっしょに……。いっじょに…がえろう…」
「…うん…」
彼女は目元に笑みを浮かべて、眠りについた。
深い…深い…とても深い…二度と起きる事のない…眠りの中へと…。
そして、僕はようやく理解できた。
この夢がどういうモノなのかを…。
大の大人の…大きな泣き声が耳へと響く。
私にできる事は何もない。
---[16]---
そして私は、その目の前で起きた事を、ずっと自分に重ねて見続けていた。
ヴァージットの腕に抱かれた女性は、苦のない安らかな…眠っているかのような顔をしている。
彼女とヴァージット、その2人がどういう人生を歩んだのか、それを私は知らない。
話に出てこなかった事は、きっと星の数ほどあるはずだ。
彼の泣く声は、全てを受け入れているようで、この世界を夢ではなく現実として受け止めていると思う。
目の前で妻との二度目の別れ。
そして、文字通り二度と会う事のない最愛の存在との別れ。
深い関係を築いていない、知り合ったばかりの2人のやり取りを、私は他人事として見る事ができなかった。
---[17]---
全てが、自分の事としてのしかかる。
2人の望んでいない終わり…。
目の前に広がる胸糞の悪くも、解決と言う二文字が踊るこの空間で、私はただひたすら苦虫を噛み潰していた。
次は私か。
それとも、私の知らない第三者か。
この世界に私以外に現実の人間が居たんだ、1人や2人、いや自分以外に他人が何人いたって、もう驚けない。
『大丈夫かい、フェリ君?』
大の大人が泣き崩れる姿を、ただ見る事しかできていない私の下へ、歩み寄ってくるエルン。
「魔力の強化のおかげで今の所は…。疲れは溜まっていきますが、苦はありません」
---[18]---
「そこじゃない。・・・手、震えてるよ」
「え?」
彼女に言われるがまま手を見ると、自覚できない程小刻みに、確かにその手は震えていた。
「・・・」
「強化で痛みとかを軽減できていても、蓄積された負債に耐えられなくなったのか…、それろも、また別の理由か」
「別?」
「精神的なモノだねぇ。まぁ今目の前で起きている事を考えれば、精神的な影響は少なからず出ると思うけど…、話をしている感じそっち方面でもなさそうだなぁ~」
「そう…」
精神的なモノなら、かなりのダメージを受けていると思うが…。
---[19]---
会話でそこまでわかるものなのかな?
「まぁその辺は詳しく調べてみない事にはわからないかな。今はとりあえず治療をしよう」
「ここで? 治療用のパロトーネとか、私持っていないけど」
「その辺は軍の人達がすぐに持ってきてくれるさ~。トフラさんが終わった事を説明しに行ってくれているはず。その間に簡単な治療をねぇ~。フェリ君はおあつらえ向きな服を着ているみたいだし」
「服? あ~この事」
自分の着ている上着をつまんで見せる。
確かにフィアが、回復がどうのこうのと言っていたような気がするな。
「という訳で座った座った。そこの子供みたいに泣いている子の前にでも腰を下ろそうじゃないか」
---[20]---
「いや、ここはそっとしておいてあげるべきじゃ…」
「時にソレも必要だろうけど、同時に他人の温もりも必要だ。フェリ君は、私が知らず知らずのうちに彼と仲良くなっていたみたいだしねぇ~。その辺の事も後で聞かせてもらうよ」
「そんな話すような事でもないと…」
「いいから。問題は、全容を把握してこそ解決を見る事ができるんだから」
「・・・そう。わかった」
「じゃあ決まりだ。さ、座った座った」
エルンに言われるがまま、私はヴァージットの前に腰を下ろす。
そんな私の後ろにエルンが膝を付き、何かをする気配を感じながら、彼に視線を向ける。
---[21]---
「・・・」
といっても、何を話せばいいのか、全く頭に浮かんでこない。
こういう経験がないからとかそういう訳じゃ…、いやソレも確かにあると思うけど…。
「リータ君…、ありがとう…」
どう言葉をかけてやればいいのか、頭を捻りに捻っていた所で、ヴァージットの方が先に口を開いた。
「私はあなたに礼を言われるような事、何一つしていないと思うけど。結局、私があなたに接触したのは手伝わせるためだし」
「いや、そこじゃ…ないよ」
ヴァージットは、自身の目から溢れる涙を拭いながらこちらを見る。
「妻を…止めてくれたから、お礼を言いたいんだ」
---[22]---
「止めるって…、それは…」
暴走だとかそういう類の話じゃ無いし、この場合は助けられなくて責められるのが妥当だと思うけど。
「あの怪物は、僕の未練が作ったようなものだ…。アレがどういう存在だとしても、僕の身勝手が無ければ、こんな事にはならなかった。外敵要因で妻がこんな事になってしまったとしても、僕の身勝手が怪物を生んでしまったんだ。その怪物を止めてくれた…僕はそこにお礼を言いたい。ありがとう。僕の身勝手が生んだ怪物を止めてくれて…」
「・・・」
私は言葉が出て来ず、頷くだけで返す。
身勝手が生んだ怪物か…。
手から零れ落ちるモノに落ちないでくれと願った、同時にそんな願い事など叶うはずがないとも思っていた。
---[23]---
この世界はあり得ないが形を成したモノ。
最初はあり得ない願いでしかなかったモノでも、それが叶うと知った瞬間に、確かに俺も願ったのかもしれない…。
返してくれ…と願ったのかも…。
それを身勝手と言うなら、そうなのだろう。
「・・・いずれ、私の願いも…」
誰の耳にも届かない程、吐かれる息と同じような小さな不安が零れた。
視線が、自分に乗る責任によって、ヴァージットを見続けられずに、下へと落ちる。
「あ…」
そんな時、前から何かが零れ落ちてくるのが見えた。
灰のように白い何か…。
---[24]---
胸騒ぎがして、恐る恐る視線を上げると、ヴァージットの手に抱かれた女性の…フラウの体が変化し始めていた。
体の節々が灰のように…、色を失い、その形も失い始める。
悪魔の体が消えていった時と同じように、彼女の体もまた、失われ始めていた。
積もった白い灰のような山は、風に吹かれた訳でもなく、空気にその存在を溶かすように、その山の高さを減らす。
「女性は、この「世界の住人」ではなかったか」
その現象を最後とし、全てを受け入れようと、私もヴァージットも、感情を押し殺し、歯を食いしばっている所で、アルブスがトフラに連れられて建物から出てきた。
「そこの君、彼女は、君にとってかけがえのない存在だったと見受ける。この基地の代表の1人として、ご冥福を祈らせてくれ」
「・・・はい…」
アルブスが頭を下げ、ヴァージットも堪えきれなかった涙を流しながら、頭を下げた。
---[25]---
「リータ、ブループの一件に引き続き、此度の悪魔の問題への対処、ご苦労だった」
「…ええ」
「君にとってもつらい部分があるだろうが、今日はゆっくり休み、今後の関連問題に当たってくれ」
「はい…」
アルブスは、話を終え、建物内へと戻っていく。
「・・・関連問題って?」
「そりゃぁ~、色々だよ、フェリ君。他悪魔の有無を調べるのもそうだし、さっき話した問題の全容を知るための聴取もある」
「なかなかに大変そうだ…」
---[26]---
「そうだねぇ~、簡単な事じゃない。まぁ今日は休んで…、いや、上には私が話を通しておくから、問題の話は「明後日」に話す事にしよう。フェリ君も、その方が話しやすいだろ~」
「それはどうして…」
「いいから、そこの君もだ。心中は察するに余りあるけど、今日は休んだ方がいい」
「僕は…、・・・いえ…はい…」
「君もフェリ君と話をする時にきてねぇ~。・・・今日は、さっさと休めるように基地内の部屋を貸し出すから、そこで休むといい。頭の中を整理するのもそこで。この場は、私達が預からせてもらうよ」
「…エルンは何かまだやる事が?」
---[27]---
「ちょっとね」
「なら、私も手伝うわ」
「いいからいいから、苦労人はもう休みなさい」
「それはエルンも一緒でしょ」
「それはそうかもねぇ。むしろ頑張ったと褒めてほしいぐらいなんだけど…。いいんだよ私は。今後の事を考えた結果だ。という訳で、トフラさん、この子たちを連れて行ってあげて」
「はい。ですが、あなたもあまり無理をしてはいけませんよ?」
「わかってるさ。医療術士が患者を残して潰れるなんて失態は犯さないよ」
「わかりました」
エルンにポンッと背中を叩かれ、休んだ休んだ…と治療の応急処置の終わりを告げられると、私はトフラに連れられて、建物の中へと誘われた。
そんな中でチラリと後ろを振り返ると、建物から出てきた軍人たちに指示を出すエルンが…。
とても真剣な表情を浮かべた彼女、その姿に、まだ戦いは終わっていないんじゃないか…と思える。
手伝えない事、自分の領分でない事に悔しさを感じながら、その日は終わった。
長い長い1日…。
ベッドに横たわる私は、ゆっくり目を瞑り、深い闇の中へと進んでいった。
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