古代遺物

 うぅ、耳がキーンとする……


 自分でやったこととはいえ、さすがに閉所での爆発は危険だな。改めてわかったよ。

 鼓膜とかがやられないように口開けたりして防ぎはしたけどみんな大丈夫か?


「みんな、どうだ?声、聞こえてるか?」


「ええ……ちゃんと聞こえるわ。それにしてもヤマト、この状況になることわかってた?」


「すまん。さすがにここまでなるとは良そうしてなかった。最初はそれなりに広さあるから大丈夫だと思ったんだ。ちょっとヤバかったな」


「ちょっとじゃないわよ!」


「はいはい、お兄ちゃんもお姉ちゃんもその辺にして。みんな大丈夫だから。で、どうするの?」


 こればっかりは俺とルルが衝突しそうになったが、それをマナが治める。遺跡で喧嘩なんてしても仕方ないか。

 さて、爆弾を投げた理由は例の魔法陣破壊のため。上手く破壊できてれば……って爆発で色々動いたのに罠が機能してないってことは成功か。


「エル、どうなんだ?」


「うん、ちゃんと罠は無効化されてるよ。あんな方法でやるとは思わなかったけど」


 地面の罠の部分を触って何を調べているのかはわからないがどうやら問題ないようだ。

 ならば早速奥へ行ってみるか。


「あちゃー、古代遺物アーティファクトは地面に散らばっちゃってるね」


 少し先にいるエルが地面に散らばる結晶みたいなものを指さす。それが古代遺物?宝石商とかに売れば高値になりそうだが……


「古代遺物はもっと道具みたいな物と思っていた?まあそれも多いけど、墓地とかにはこういった結晶なんかが多いんだよ。魔法関係の物ってことだね」


「みたいね。魔力の塊があるみたい。ちょっと調べてみるわね」


 へぇ、見た目は赤とか白とかのカラフルな石なのに。魔法が扱える二人には違って見えるんだろうな。ちょっと羨ましい。

 そうして二人が古代遺物について調べたりしている間は暇になるわけだ。敵は出てくるとは思えない空間だし、罠も潰したけどまだ他にもある可能性が有り得るから下手に動けない。……任せるしかないってのもなんか情けないけどな。


「ねえねえお兄ちゃん、なんでさっき口開けたりしたの?」


「あ、それ私も気になってました。なんの意味があったのか」


 そんなことを考えていると同じように暇なマナとシャリアがさっきの行為について聞いてくる。

 まあ確かに意味は分からないよな。俺も昔なんかで聞いた話なだけだし。


「詳しい理屈とかは俺も分からないんだけど……簡単に言えば眼球とかが飛び出ないためだな。口開けて大声出すことで飛び出るのを防ぐんだ。耳塞ぐのはわかるよな?」


「うん。耳がやられないようにするためだよね?」


「その通り。耳の奥には鼓膜ってのがあるんだが、爆発とかで破れることがある。それを防ぐために耳を塞ぐんだが、完全に防ぎきれるわけじゃない。そのために口開けたりするんだが、ちょっとその辺曖昧だ。許してくれ」


 何分十年以上前の記憶だからな。細かな理由までは覚えていない。どっかで調べれば出てきそうな事だし、自由研究みたいな感じで調べて見ても面白そうだ。


「なら、お兄ちゃんはニュクスとパンドラで耳は押さえなくて大丈夫なの?大きな音してるけど」


「それは大丈夫だ。消音の魔法を発動させているからな。修行のころは耳栓とか付けてたけど、最近は余程の場合じゃないと付けないな。それだけ魔法の機能が良いって事なんだ」


「お姉ちゃんのだっけ?さすがだね」


 ああ、まったくだ。感謝してるよ。


「ヤマト、とりあえず今日はあの古代遺物を持ち帰ることになった。国とかには報告しない方針だからそのつもりで」


「そうなのか?俺には宝石にしか見えないからその辺は任せるけど」


「あれは間違いなく古代遺物だよ。ルルが中に魔法陣の刻印を確認した。細すぎて読めはしなかったけど、それはこれから調べればいい……目玉はここから。あの古代遺物たち、私が前に見た文献だと何かを封印していることもあるんだ。例えば魔物とか」


「魔物……危険じゃないのか?」


「その可能性もある。でも、従魔として扱える可能性もある。可能性は五分五分。出てくるのはもしかしたらただのゴブリンかもしれないしもっとヤバいのかも。ワクワクしないかい?」


 そういう彼女の顔はニヤニヤしてとても面白そうだ。俺も実は自分で分かるくらいには口角が上がっていた。

 基本的に俺はルルに危害が及ぶかもしれない危険は避ける方針だが、これは例外。だってルルもニヤニヤしてるからな。これならば踏み込んでみても良いだろう。


「ならばとりあえずみんなで分配しよう。一人に持たせるのは危ないからね。全部で七つある。とりあえず一人一つずつ持って、私がもう一つ、ヤマトにもう一つ任せてもいいかい?」


「ああ、構わない」


 俺はエルから赤と白の宝石のような古代遺物を受け取る。ゴツゴツした荒削りな拳大の大きさでとてもひんやりとしている。同時に何か不思議な感覚。本物のパワーストーンってこんな感じなのかもしれない。

 なんかこう微かに身体の中に何かが入ってきて、それで自分の力が湧き出てくるような感覚。地球で生きてたら一生味わうことがない感覚だ。


「お姉ちゃん、これ本当に持って大丈夫なの?変な感覚するんだけど」


 マナも同じようだ。シャリアも口にこそ出てないが違和感は感じているらしい……

 ただ、エルとルルが持ち帰ると言ったし、既にこの感覚のことについては気がついてるだろうからな。従うべきか。


「大丈夫よ。魔法袋の中にしまってしまいなさい。テントに戻ったらちゃんと調べるから」


「わかったよ」


 ルルの言葉に倣い、二つの古代遺物を魔法袋の中にしまう。さてと、後は戻るだけだ。





 というわけで戻ってきました。

 来た道を戻るだけだったし、敵とは一度も遭遇しなかった。あ、でも洞窟から出た時に国の兵士が大量に並んでるのを見た。数で遺跡を調べていくんだろうな。あの大量の棺桶の空間にも行くんだろうけど、そこにはもう何も無い。俺たちが持ってるからね。何か言われないと良いが……


「じゃあ私たちはあの古代遺物の調査をするわ。みんなは休んでて」


「わかった。エルもルルもほどほどにな」


 回収した古代遺物を渡すとエルはテントに入り小さなルーペやヤスリ、彫刻刀や小瓶なんかを色々取り出しながら俺たちにそう言う。

 ルルも魔法袋から同じように色々取り出していてもうこちらを気にする余裕は無さそうだ。邪魔しないように外で待つとしよう。

 あ、ならちょっと作業するか。



「お兄ちゃん、いきなり何かし始めたとおもったけど何してるの?」


「これから役に立つ物」


 そう答えて俺は手元の弾を弄る。見た目はかなり特殊だ。金属の薬莢に包まれているが、露出している弾頭は半透明の物質。中には液体みたいなもの。

 ヒント、撃ち込んで傷つければ大抵は倒せる。


「……毒?」


「よくわかったな。もっと悩むものだと思ってた」


「お兄ちゃんが作ってた弾でまだ使おうとしてないの毒弾だけだもの。でもどうして使わないの?」


「うーん、危険すぎるからってのが一番正しい」


 手持ちには出血毒弾頭と神経毒弾頭の二種がある。実際に使ってみる訳にもいかないから正確な効果は分からないが日本のヒグマ程度なら昏倒できる……はず。まあこんなんじゃ使う機会も限られるし、万一誤射なんてあった時には目も当てられない。だからこそ威力低めな弾が必要なんだが、エルの手持ちには材料が無かった。確かに襲われて、命の危機な時に効果が弱い物を使うかと聞かれたら使わないだろう?エルも同じ気分だったみたいで、矢に使う毒薬は強力な物を用意していた。


「例えばこれ。毒弾の中でも一番新しい睡眠弾。鎮痛効果のある薬草を潰して煮詰めて抽出した液体を五倍に薄めてる。原液をゴブリンに使った時は数秒で眠ったからこれくらい薄めればいいんじゃないかっていう考えだ」


「すぐ眠っちゃダメなの?」


「ダメって訳じゃないが、あくまでも試作品だ。どれだけ薄めたら効果はどのくらい弱まるのかって言う実験でもある。今回の遺跡の依頼はそういうのにも使えるからな」


 大森海の時のように緊張感じたっぷりな訳でもなくて、気をつけていれば危険も少ない。弾の実験には最適だ。弾はどうしても特殊な素材を用いる関係ですぐに実戦投入というわけにもいかない。ゆっくりではあるが、しっかりと効果の確認が必要ってわけだな。


 魔物の素材も使えばもっとバリエーションのある弾が作れるんだろうけど、俺たちの手持ちにはそんな都合のいい魔物の素材はない。調べた限りではある程度目星は付いてるからいつかそれらの確保に行きたいな。


「ふーん、大変なんだね」


「大変だぞ。良ければ弾の製作を手伝ってくれても……」


「それは工房のフレアちゃんとかフリーゼちゃんに任せるよ。私は自分の準備してくるね」


 あ、逃げたな。別に今から弾作りやるわけじゃないのに。でももう時間もだいぶ経った。実はここに帰ってきた頃からちらほらとハンターたちのテントが並び始めていたのだけど、今じゃ狭い訳でもない広場がテントで埋まっている。俺たちのテントは快適かつ邪魔にならないような場所を取っているから変なやつに絡まれる心配も無い。彼女たちの安全も考慮した位置なのだ。


 そうこうしているうちにだいぶ暗くなったので焚き火を付けて持ってきた干し肉を炙っているとテントの中から疲れた様子のエルが出てきた。彼女は身体をポキポキ鳴らしながら伸びをしてこちらへ歩いてくる。


「お、エルか。食うか?」


 俺は炙った干し肉の刺さった串を差し出す。


「後で貰うよ。それより、さっき収穫のこと」


「何か進展あったのか?」


 彼女は小声で続ける。


「ある程度だけどね。なんの古代遺物かがわかったよ。後でテントに集まって欲しい」


「了解だ。今からでも構わないが……もしかしてルルとか寝てるか?」


「はは……正解。だいぶ疲れちゃったみたいでね。すぐに寝ちゃったよ」


「そうか、ならば明日にしよう。今日は休んでくれ。不寝番はやっとくから」


 いくら周りに人がいると言ってもハンターだからな。不寝番は立てておいた方が良いって聞いた。


「ありがとう、なら今日は寝かせて貰うよ……」


 欠伸をしながら彼女はテントに戻る。すぐに中の灯りが消えて静かになる。もう寝てしまったようだ。

 エルは遺跡に来ると決まってからずっと気を張っていた。こっちに来てからは尚更だ。せめて夜寝ている時くらいはゆっくりと休ませてあげたい。

 ま、それを邪魔するふつつか者が現れない訳でもないのだけど……



 幸い、ここの広場に泊まっているハンターたちは善良な人が多いみたいで、OHANASHIしたらちゃんと静かにしてくれた。

 そういえば数名額が赤く腫れてる人が居るんだけど大丈夫かな。何かにぶつけたんだろうか。具体的には高速で飛んでくる木材とかに。


 至極平和に過ぎた夜は平和なまま朝を迎え、俺は夜明けと共に通算十枚目の干し肉を炙ることに専念するのだった。テントの中では忙しそうだからね。邪魔はしない。

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