やはり……筋肉
筋肉。英語だとmuscle。
動物の持つ組織の一つであり、収縮させることにより力を発生させる代表的な運動器官だ。
語源はラテン語の小さなネズミを意味する言葉、musculusから来ている。皮膚の下で筋肉が動く様子がネズミのように見えたことから来ているらしい。
鍛えることで筋繊維を破壊し、修復させることでより発達させる。その際タンパク質を取り込むことでより強固な発達が見込める……
タンパク質が多い食事として有名なのは鶏肉、豚肉など。動物性タンパク質はこの辺りだろう。大豆などはタンパク質こそ含まれるが、植物性タンパク質になりアミノ酸などに違いがある。双方ともに良い効果があるのでどちらも適量摂取が必要である。
筋肉の発達にはまず筋繊維の破壊が必要だ。筋肉痛、あれが起こる運動を行なうのが必須だと俺は考えている。それが鍛えることだと。
シンプルな腹筋や腕立て、ランニングから機械を使ったものまで駆使することでその肉体は高まっていくのだと。
そこに科学まで導入すれば短期間での肉体改造も可能だ。
立つから始まり、走る、投げる、打つ、蹴るなどの肉体動作に必須な筋肉を我がものにすることは古代よりも前から行われてきた。古代ギリシアのオリンピックがその最たる例と言えるだろう。奉納が元であるが、定められた競技を通して己の肉体を他者と競う。女人禁制であるが故のさらけ出された肉体美……
そう、筋肉とは美しいのだ。生物を動かすために必須でありながら無駄など存在していない。
その力を十全に引き出すためには我々はあまりにも足りていないが、鍛錬により引き出すことが出来る。
食らい、壊し、また食らう。その繰り返しにより生まれる美しさを手にするには道は遠い。だが、行かねばならぬのだ。己が求め続ける限りは……
「で、何が言いたいの?一ヶ月ずっと一人でいろいろやり続けた結果がこれ?」
俺はその言葉に肉体で答える。
フンッ!
「あーうん。頑張ったのはわかるわよ。触発されたんでしょ?一ヶ月でよく頑張ったと思うわ」
身体の向きを変えてもう一度、フンッ!
「はいはい、すごいすごい」
片腕の指先までピンと伸ばし、膝を曲げボル○のポーズ。そのまま流れるように前傾姿勢になって肩を張り、両腕の拳を腹の前に持ってきてフンッ!続けて両足を合わせ両手を握り、身体を捻るようにして力を込めてフンッ!そのまま一旦リラックスし、握りこぶしを腰に当てフンッ!さらに────
─────背中を向けて腰に手を当て張るようにしてフンッ!
「あーもう、鬱陶しいわね!わかったから、褒めてあげるから!よく頑張ったわね!」
「うん。頑張ったんだ。ありがとう」
オマケにもう一度フンッ!
さて、俺がなんてルルから半ギレされるまでポージングしていたのかを説明しよう。マナも訳を知りたそうに見ているし。
あれは一月前の事だった……
「ヤマトー、準備出来てる?」
「おう。二人はどうなんだ?」
「私も大丈夫。さてさて、ルルと二人で作り上げた魔法、ご覧あれ!」
俺たちがいるのはまた王都の外。数日前にエルを向かい入れてからルルたちは何やらずっと魔法について話していてな。魔法の詠唱とか聞こえてきたし、ユンも見かけたな。俺たちとの模擬戦だと不公平だからってことで呼び出さなかったそうだ。
普段俺は魔法陣を介した魔法を使うが、ルルは魔法陣は使わないし、エルも使わない。どうしても魔法の研究の割合は言語魔法の方が高くなるのだが、エルは魔法陣研究もやってくれると言っている。今日は魔法陣では無い方の魔法のお披露目という訳。なぜか俺が相手役なんだけど……
「それじゃあー、行くよー!」
エルがカウントして、ルルが杖をこちらに向けて構える。万一に備えてこのために購入した盾を構える。
盾なんて持つのは何年ぶりだろう。戦闘スタイルの関係で盾は持たないからな。
ルルが詠唱して杖の先に光が灯る。詠唱が長くなっていくとどんどんその光が大きくなっていく。
すると、魔法陣まで一緒に展開される。何を媒介しているんだ?
「いっくよー!」
ルルがそうこちらに叫んだ直後、
ゴウッ!!
「うおっ!?」
いつの間にか俺は宙を舞っていた。
魔法名は聞こえなかった。
ただ自分が死にものぐるいで地面を蹴ったことはわかっていた。あとは……
「うげっ!……痛て……どこのギャ○ック砲だよ……」
閃光と一緒に紫電が迸り、衝撃が俺に襲いかかった。光った瞬間にヤバいと直感し、すぐに右へ向かわんと地面を蹴ったが、閃光はそれすら捉え、掠った程度でも盾を粉砕。幸い盾を掠ったおかげで俺が弾き飛ばされる形になり結果として俺は空中に持ち上げられた後そのまま地面に落っこちたのだ。変な声出ちゃったじゃんか。
「だ、大丈夫!?」
「ヤマト、怪我は!」
二人が近寄ってきて、ルルはすぐに治癒術を掛けてくれるが、重い怪我はしてないと感覚的にわかっていたからそのまま起き上がる。
「いや、怪我もな、い……」
顔を上げると二人がこちらを覗き込んでいたいたのだけど、俺の目の前にはあるものが。男女問わずで存在しているが、女性のものはより美しくなりうるそれ。
「どうしたの?」
「な、何でもない」
やけに恥ずかしくなり顔を逸らしてしまったが、瞼の裏に張り付いたようにその光景は離れなかった。
「ほら立って。家に帰って本当に傷がないのか確かめないと」
うでを引っ張られてそれにつられて立ち上がる。
「大丈夫だよもう引っ張らなくても」
「どうだか。ふらついてるじゃない」
「一月後にはマシになってるさ」
なんとかしてこの一月が要だな。
いざ参らん、己の肉体のために!!
「……というわけなんだ」
「要するにエルお姉ちゃんの筋肉に魅せられたってこと?」
マナは呆れ顔で自分の身体と見比べる。
あれからまた時間が経って、ルルは部屋に戻りマナにリビングでこの一月の理由を話していた。
「有り体に言えばそうだな。ほら彼女の服って軽装でお腹の当たり普段は出てるじゃん。だからな」
「確かに腹筋とかすごい綺麗だなって思うけど……それでそこまでなれるお兄ちゃんもすごいと思う」
「どうたどうだ?俗に言う締まってる段階から細マッチョの少し手前くらいまでなったぞ。野菜だけじゃなくて肉とかもちゃんと摂取してな」
フンッ!
「だからお兄ちゃん朝早くから走り込みしてたんだね。全部装備背負って」
今日も行ってきたが、毎朝ドーラを除いた全ての銃と少しの錘を担いで王都を走り回っているのだ。理由として昔から走り込みはやっていたから同年代に比べたら筋肉も体力もある方だとは思っているが、今年で十七歳だから鍛える段階を上げたことにある。
フンッ!
人間の成長は個人差こそあるがだいたい十七歳当たりで終了し、二十歳からは老化がゆっくりと始まるそうだ。つまり今の俺は肉体の成長が終わりかけの状態。肉体を鍛えるならば今しか無いのだ。
そこでバナークさん直伝の身体をいじめ抜く方法を行ったわけだな。
「どんなことやってたの?庭に色々置いてあったのは見たけど」
フンッ!
「良くぞ聞いてくれた。あ、マナも使っていいからな?」
「あはは……」
とりあえずどんなメニューがあるかお教えしよう。
まずはスクワット。シンプルだが結構キツいトレーニングだな。次にベンチプレス。わざわざ依頼して機械を作ってもらった。職人によるものだから重量も問題無い。他にはダンベルなどを用いたトレーニング各種。いちいちやってたらキリないからな。
フンッ!
食事に関しては俺は豆類と野菜、鶏肉などタンパク質を多く取れる食べ物をこまめに摂取し汗をかいて鍛えていく。おすすめは自家製サラダチキン。野菜と食うと美味いぞ。
フンッ!
基本外でやっていたが雨の日だってトレーニングは出来るぞ。簡単な腹筋からスクワット、背筋などのアウターマッスル、息を吐くなど簡単なことで鍛えられるインナーマッスルだってやることはたくさんある。
「頑張ってたんだね。でもお兄ちゃん他にも色々やってなかった?」
「そうだな。弾も作ったし、エルと一緒に開発もしたな」
フンッ!
開発したのはエルの特技を使った薬物弾……と言うと聞こえが悪いが、要は毒弾だ。現状試作段階ではあるが、俺のメガネにも使われているトウの樹液を用いている。火薬の威力に耐える必要があるため開発は難航したが、なんとか半月で形にはなったのだ。
そしてもう一つ。俺は銃開発の関係で色々と後回しにしていたこと。銃の相手としてはゲームなんかじゃよく相手にするし、有効打である。
つまり
不死には魔法的対処と物理的対処の二種があるが、物理的対処の中でもいくつか種類がある。順に剣で切り刻む、聖職者の祝福を受けた聖水を付けた武器で殴る、銀製の武器で殴る、だな。
聖水はわかるし、剣で切り刻んでも有効打なのもわかるが、なぜ銀なのか。調べてみると胡散臭いことばかりだし、何やら神話とかまで絡んできて明確な証拠が無いのだ。神話だと、「我らの主神が悪しき不死を司る神を銀の武器で殺したからである」みたいな事だ。何が言いたいのかよく分からん。まだプリ○ュアの方がわかりやすいぞ。
あほらしいし、神殺してるなら不死居ないはずじゃねえの?どうなんですかね俺を転生させてくれた神様。
まあ銀が不死に効くのは確かなのだ。不死が発生した場合に備えて街では聖水が売られているし、銀製の武器も見かける。そのどれを振るうにも筋肉は必要だ。だけど銃でも使えるようにしなければならない。
「そういえばお兄ちゃん金属の塊も買って背負って帰ってきてたね」
「工房寄って金属買って、色々担いだがいい負荷になったな」
親方達に加工してもらったのがほとんどだが弾の組み立ては俺の手作業だからな。負荷のために空気椅子でできる部分はそれでやった。
作ったのは鉛と銀を使った銀弾、純度の高い銀を使った純銀弾、麻痺系の液体毒を仕込んだ麻痺弾、神経毒系の毒弾、出血毒系の毒弾だ。毒弾に関しては対人使用厳禁、持ち出し厳禁、管理徹底とヤバいのがわかるだろう。特注のケースを作ってもらってその中に保管している。他にも数種類作ったから一緒に収めてあるぞ。
どの弾も大きさと構造の関係でどれも一部を除いてトライアー専用だ。ライフル弾もいつかは作りたいな。が、次の目標はショットガンでスラッグ弾のような弾として発砲できるようにする事だ。
フンッ!
「あのカバンだね?」
「そうだな」
ケースの見た目はドーラを収めている箱をアタッシュケースサイズまで小さくしたような見た目。見た目は普通のカバンだけど中身はヤバい。お約束だよな。
フンッ!
「びっくりしたわよ。『数発分打ち込めば昏倒させられる毒はないか』って聞かれたんだから。……で、何してるのよ。暑苦しいわ」
すると、エルが何か布に包まれたものを抱えてやってきた。
「エルお姉ちゃん、私が言いたかったことを言ってくれてありがとう」
「いいえ。何か話す事にそんなのやられたらいくらあなたでも引くわ」
え?フンッ!
「それよ。ここ一月で随分と変わったけど」
「頑張ったからな。そういえばどうしたんだ?この時間に何もなしにここまで来るのは無いだろ?」
「なによ、何もなきゃ来ちゃいけないの?」
「いやそういう訳じゃ……」
だってさっき部屋覗いたら色々作業中だったし……
「まあ用があったのだけどね。これの表面に書かれてる文字、なんて読むのか教えて欲しいのよ」
「ああ、それか」
彼女が抱えていたのはニュクスとパンドラだ。そこに書かれている文字と言えば……
「読みはSi Vis Pacem, Para Bellum。意味合いとしては『汝平和を欲さば戦への備えをせよ』だ」
「それは、戒めかしら?」
おお、それだけで意味をそう予想するか。エルって頭いいんだな。
「当たりだ。正確には、敵から攻撃されることの無い強い社会を目指すことだな。要は準備をちゃんとして、偶然には頼ってはならないという意味だ。偶然では無く技量によって戦うべきであると」
「深いわね。誰の言葉?」
「わからん。昔古い本で見た言葉だからな。意味合いとかはわかっても誰の言葉かまではわからなかった」
嘘だ。覚えている。人物名はあやふやだが、古代ローマの軍事学者の言葉ということはハッキリと覚えている。
隠す必要もないが、混乱を招かないために俺が地球からの転生者というのは伏せるべきだろうな。まあ聡いルルのことだから何かしら感づいているかもしれないし、たまにこの世界に存在しない言葉を発してしまっているかもしれないが。
「そうなのね……でもありがたい言葉ね。私も覚えておくわ」
「そうしてくれ。その方がその言葉を生み出した人も喜ぶだろ」
「そうね。あと、早く服を着て。やっぱり暑苦しいわ」
そうか……
エルに二度も言われては仕方がない。
名残惜しいが……最後にもう一度だけ、フンッ!!モストマスキュラー!!
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