遺跡への誘い

「遺跡?」


「ええ、一緒に行かない?本来ならもう少し後にギルドでも張り出されるはずのものだけど、私は学院の伝手で少し早くに依頼受けれるのよ。遺跡は結構早い者勝ちだからね」


 今はエルフィッカと再会し、家で少しのんびりし始めた所だった。みんなと仲直りみたいなこともして、関係は良好。シャリアは同郷ってこともあってか既にどこかに遊びに行く約束をしている。

 で、現在。彼女から俺たちは遺跡の依頼について聞いていた。


「遺跡か。行ったことないな。エルフィッカ、その遺跡はどこにあるんだ?」


「エルでいいわ。そうね、東に馬車で三日か四日かの森の中ね。危険な魔物が居たみたいで、遺跡自体は発見されてたみたいだけど調査出来なかったの。でもようやく討伐されたから……」


「調査出来ると。なるほどね。名前が知られてるなら早い者勝ちになりそうだな」


「元から遺跡は早い者勝ちよ。……で、受けてくれる?というか、一緒に来て欲しいかな」


 エルフィッカ……エルはこちらに頼み込んでくる。


「私は構わない。けど、あなたは戦えるの?」


「ルル、当たり前よ。これでも私は次席卒、戦える」


 すると、エルは腰から一つの短剣を取り出す。ただその短剣は柄の先端からとても細い金の鎖が伸びていた。


「これが私の武器の一つ。これともう一つ組み合わせることで普段の戦闘が出来るわ」


 彼女が指さすのは横に置いた荷物の中にある細長い棒。鎖と短剣と棒でどう戦うのだろう?


「学院ではそういうの習わないと思ってた。戦闘技術もあるのね」


 エルはルルの質問に答えることが少し難しかったのか、少し考えてから答える。


「戦闘技術ではあるけど……人によるかな。貴族なら儀礼的剣術、私たちみたいな平民出は実践的なものになるの。ハンターとして生きていく人もいるから。私もその一人ね」


「あれ、学院出たら勝手に将来決定みたいな感じじゃなかったのか?」


「それは貴族だけ。私たちみたいなのは確かに実力があれば登用されることもあるけど、大半は元の生活か、ハンターよ。学院出というだけで大して変わることは無いのよ」


「そうか……」


 地球ではよくいい大学でたら将来安泰みたいな話を聞く。学歴はもちろん、優良企業への就職だったりと様々な箔が付くからだ。ただ、俺が大学に通っていた頃にはそれはもはや都市伝説みたいな扱いで、最高学府を出たからと言っていい給料が貰えるとは限らない状態になっていた。

 この世界の学校も同じような道を辿ったわけでは無いだろうけど、行き着くところは同じのようだ。ただ、単純に給料の低い職に付くなどしか道がない地球に対してこちらはハンターという一攫千金の逆転が可能な職がある。もちろん生活環境そのものが違うから一概には言えないが、もしかしたら幸せになれるのはこちらなのかもしれない。


 俺とルルは何も無ければエルと同じ学院に行っていたはずだ。俺たち……いやルルは貴族としての立場があったが、俺に至っては単なる従者。それにルルは望まぬとはいえ婚姻が決まっていた。それを考えると俺がハンターになる道は元から決まっていたのかもしれない。


「さてと、それじゃあ話を戻すわ。これが依頼書よ。軽くでいいから目を通して」


 彼女から皆に一枚紙が渡される。そこには情報と言うにはあまりに拙い物が書かれていた。


・この調査は学院主導である。

・遺跡内部は最低三層構造。

・洞窟と一体化している。

・簡易調査により罠として石像より槍が飛び出てくる物があり。

・魔物はゴブリンを主に小型が多い。


 だけ。最近見つかって、ほぼ未調査とはいえ情報が少なすぎる。依頼にするならもう少し内容を……いや、そういうことか。


「エル、これってもしかして半分捨て駒だろ」


「そうね。それは否定しないわ」


「ちょっとあなた!」


「ルル、怒るのはわかるけど、話は最後まで聞いて」


 激怒仕掛けたルルをエルはやけに慣れた手つきで諌める。そして説明を始める。


「と、言っても確かにこれは捨て駒に近い。でも、対価として遺跡で得た収穫物の全所持権があるわ。それに、上手くやれば私たちが捨て駒にならなくて済む」


「その、上手くやるってのは?」


 俺が聞くと、エルは策があるような顔で順に話し始めた。


「まず勘違いしないで欲しいのは、私が持ってきた依頼書はギルド発行で、ほんの数日分先に依頼が受けられるってだけだと言うことを覚えておいて。それでみんなはこれがハンターだけに依頼されると思う?」


「ハンターだけに?」


「……ああ、そういう事ね」


「お姉ちゃん?」


「簡単なことよマナ。国家も手を出すのね?」


 そういう事だ。これは国家に所属する学院主導で行われるが、あくまでも主導は学院であって仮に調査に参加するならば国家もハンターも同立場だ。ハンターだけを先行させて国家が兵士を送り込んだのならばハンターは文字通りの捨て駒。それでは面子が立たないし、支持も得られなくなるだろう。だからせめて最初だけは建前だとしても兵を送り込まなければならない。つまりエルはそれを利用すると言っているのだ。


「私たちはハンターだもの。利用出来るものはなんだって使う……それとも嫌いかしらこういうのは」


 彼女は少し不安そうだ。まあいきなり人を実験台代わりにすると言っているのだから。でもそのスタイル、嫌いじゃない。単純な方法だけど身の安全はある程度守れるからな。


「エル、俺は乗った。いつ出発だ?」


「ちょっとヤマト!」


「まあルル落ち着け。これはあくまでも先行してもらうだけだ。死ぬも死なぬもそいつら次第……近場で遺跡と言っても何も無ければのんびり探検するだけで良い。それに、ロマンがある」


「ロマン?」


 皆首を傾げる。あれ、ロマンはこの世界の言葉じゃないか。ならば説明しよう!


「ロマンってのはな、浪漫なんだよ。未知のものにワクワクしたり、自分がその最初の人間になれるんじゃないかと夢想したり。おそらく男女問わずで皆持っている感情であり、夢だ。たとえ未知の探求でなくとも、魔法の武器が欲しいだったり、凄い魔法を使ってみたいだったり。なんなら女性に囲まれてみたいでもいい。それがロマンなんだ」


「へぇ……ロマンね。ならヤマトは最後のやつは達成してるんじゃない?私たち居るし」


「あ、そうですね。それもヤマトさんの夢ですか?」


 え、シャリア。それは夢じゃないぞ。不可抗力なんだ。


「お兄ちゃん、そうなの?えっと……私とルルお姉ちゃんとシャリアお姉ちゃん、カルナにこのエルフィッカさんで五人だね。確かに囲まれてるね」


「ふーん、モテモテじゃない。……私の計画台無しよ」


 くそう、否定できない。エルも何を言ったんだ?


「みんな、それは自然に出来たんだ。俺が望んだわけでは……」


「ヤマト、大丈夫よ。それくらいはわかってるわ」


「ルル……」


 おお天使だ。やはりルルは天使だったか?


 このとき俺の目にはルルは完全に天使に見えていた。この状況を終わらせようとしてくれているのだ。これを天使と言わずしてなんと言うか。


「当然、私が正妻よね?」


「うん?」


「私もみんなと一緒に旅するのは楽しいし、これからもみんなと一緒に旅がしたいわ。でもね男女比に差があるパーティー、私たちなら男性を入れたらよくパーティーが崩壊するというのはよく聞く話よ」


 へぇー、この世界にもサークルクラッシャーみたいなのって居るんだな。でも実際、ここまで男女比崩れてると不健全に見えないか?


「だからこそ私たちの長のヤマトにはハッキリして欲しいのよ」


「は、ハッキリとは……」


 ルルの圧に押され俺は少し後ずさる。


「私が見るに、少なくともシャリアとマナはヤマトに好意を抱いてるわね。多分カルナもね。でもあれは師匠としてかも。だからね、……ああそうだエルフィッカ、あなたはわからない。でも彼への口調で何となく察しはつくわ。だってなんの感情も無ければ二年経って追ってきて、さらにあの依頼を渡すなんてありえないわ。私を、ずっと一緒に居た幼なじみを舐めないで」


 あれ、これ元から俺に向けて話してなかったのか?それにコウイ?好意?好意ってあれですか。仲間を思う気持ちとかそういうあれですか。みんな仲間として思い合う気持ちは大切だな。ルルとシャリアは仲が良いのは一目瞭然だし、マナもカルナと仲が良かった。カルナが戻ってきたら二人はいいコンビで活躍出来るかもしれない。仲間を思い合う好意。大事だな。


「話を戻すと、将来的に彼の横に居る人が増えるのには賛成よ。和を乱しにくい人物に限るけどね。つまり下心をもって近づかない人物……」


 ルルはエルに指をビシッと突きつけるとやけにハッキリと、まるで犯人のわかった探偵のように問いかけた。


「エルフィッカ、あなたはどうかしらね」


 それに対しエルフィッカはと言うと少し俯いたまま動かない。

 シンとした中、ルルが問いかけてから数分。ようやく彼女が口を開いた。


「ふふ、下心が無かったとは言わないわ。元々彼と二人旅を計画していたんだからね。仲間が居た事に一切気を向けなかったのは私の傲慢ね」


 え、二人旅ってどういうことですか。俺の知らん間に色々あったのか?


「けどそれも止めたわ。面白い事が出来そうだし。ルル、あなた魔法士よね」


「ええ。それが?」


「私、これでも学院卒業時は魔法に関してならば首席なのよ。総合だと次席だけどね。だから、私は魔法士と剣士……いえ弓も使えるから遠中近と戦えるわ。だから私はみんなに私という戦力を与えるわ。それにルルにの魔法研究も手伝う。だから私を此処に置いてくれない?」


 なんとまあ随分と図々しい願いもあったものだな。でも顔つきからしてなんか上手い言い方出来なかった感じだ。言葉に迷ったというか。


「戦えると言っていたけど、そこまで言うってことは余程自信あるのね。……いいわ。後でマナと戦ってみてちょうだい。遺跡に行くかどうかもそれで決めるわ」


「わかった。それで色々と決めましょう。ああ、あなたの立場を私は侵さないことは誓うわ。彼の周りから皆を蹴落とすことはしないけど……順位はわからないわよ?」


「覚悟の上です。これはカルナちゃんにも伝えなければいけませんね」


「いいよ。お姉ちゃんたちには負けない」


 壁を通してそんな声が聞こえてくる。もう、何を言っているのかわからないよ。


 俺がなにをしているのかって?ウィオラもそうだけど、モルガナたちって鱗ひんやりしてて気持ちいいよな。最近大きくなってきたから枕くらいにはなれるんだ。いつもモルガナが率先してなってくれるし、そうでない時は喧嘩になるけど……みんな優しいよ。

 女性はわからないけど、モルガナたちはこうして行動で伝えてくれるから応えやすいんだ。

 そうそう、翼膜も徐々に発達してきてハントさんは後半年もしたら飛行訓練を始めるって言っていた。だからそれまでしか毎日一緒には居られないんだ。だからこうして、俺は皆に囲まれながらモフるのであった。

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