後日談③

 ルルがガラクタと思いきやお宝だった本を買ってきてくれた日から四日が経った。昨日まで何やらいきなり顔を赤くしたり、ゴニョゴニョ言っていたが何も聞かないでおこう。彼女にもプライバシーはあるからな。


 俺は何をしていたかと言うと、この数日は片腕は当然使えないから本を読んだりしていた。幸い、翌日から立てるようにはなったから外の市場を見て回ったりしていた。

 あとはギルドで聴取を受けたりな。長々と話し込んだわけじゃないから内容は薄い。

 結論から言うと、あの雷虎戦で得た物は全てが俺たち、正確にはマナの所有物となった。前に貰ったリュック型の魔法袋に全て入れてある。

 あと報奨金。四人合計で六十万程の稼ぎだ。


 おかげさまで本当にしばらく何もしなくても過ごせてしまう。

 生活資金のことを考えなくていいって言うのは素晴らしいな。ちなみに、フィルグレアの一件の報酬とかが無くても貿易都市にいた頃にコツコツ貯めていた資金もあるから四人程度怪我の療養している間食っていくのに困ることは無い。


 それでもやらなきゃいけないことはいくつかある。ギルドに行くのもその一つだったからまずはやる事は一つ減った。それでもまだたった一つだけだ。

 最優先は王都への帰還だけど、次点で武装調達、その次に雷虎と戦闘する前に調査拠点で会ったシールレッド卿より渡された紙片に書いてあったこと。バタバタしててろくに準備出来てないが、まあなんとかなるだろう。


 と、いうわけで今やるべきは荷作りだ。急遽明日帰ることになったからな。

 理由は竜車だ。俺たちが乗ってきたのとは別だが、定期便が出るのが明日なのだ。これを逃すとまた一週間くらい待つことになるからそれは避けたい。


 だから荷作りしているわけだけど、こっちに持ってきていたのも少なかったから俺たち自身の荷物は少ない。

 一番多いのは食料で、帰りの一月分の食料を買い込まなきゃいけない。それは既に荷作りを終わらせているルルとシャリアが昼飯後に行っているから問題無し。


 マナの荷作りはいつの間にか終わっていた。早くも起き上がれる程度には回復したみたいで、地球の医療が基準になっている俺には驚きだ。だから今は水浴びに行っているのだけど、大丈夫なのだろうか?

 でもここまで動けるまでに回復したのはキュアル草の効能に感謝するべきか?わからないが、見かけた時は採取しておこう。


 問題は俺だ。ベッドの周りに紙が散乱しているのだ。書いてあるのは全て図面。

 過去に描いたものだが、それを全て引っ張り出して使えそうなものを選別していたらその束を全てひっくり返してしまったわけだ。


「はああぁぁぁ………」


 クソデカため息をつきながら左手だけで紙を集める。片手しか使えないのがここまで不便だとは。

 それにせっかくまとめたものが全部パーになったのだからクソデカため息も許して欲しい。


 描いてあるのは図面と言ったが、そこにはある程度の一貫性がある。拳銃やガス圧装填式の銃の二種かどうかだ。

 久々に引っ張り出した図面たちだが、その理由は簡単だ。

 この前見つけた蒸気機関の原型とも言える図。

 あれは圧力で物を動かすという原点にして究極形だと俺は考えている。

 銃も火薬に点火して発生する燃焼ガスが銃身内に押し込められる圧力で弾丸を押し出す、という点では似ているのだ。だが、重要なのはそこではない。

 銃を扱う者にとっての一番の隙とは?


 答えはリロード、つまり装填だ。

 現在俺の使うこのライフルはボルトアクション方式で一発撃つごとにボルトを引かなければならない。

 しかし、多くの人間が知る銃はフルオートだったりセミオートだったりする。そのどちらも反動または燃焼ガスによって装填されるのだが、それが登場したのはかなり最近だ。


 二十世紀初頭頃のライフルをモデルとしている俺の銃とは時代が少しズレているのだ。それにこの世界には圧力とかの概念が無いから作れないと思っていた。

だが、今回蒸気機関の図を手に入れたことで作成者に圧力の概念が説明しやすくなるのだ!

 これで俺が目指すべきことの「手数」に少し近づいた。金属工作に関する精度を確認しないと作れないのもいくつかあるのだが……今はまあいいだろう。別にサブマシンガンみたいな物を作るわけじゃないし。


 話を戻そう。とりあえず圧力に関する概念がわかった以上、今後作る銃の大半はセミオートに出来る。

 分かりやすく言うならドラグノフ狙撃銃だ。あれは銃身の上にある細いパイプで装填機構まで発射時のガスを送り、その圧力で装填を行うというものだからだ。

 でも現状近しいものを作ろうとしたらかなり細い金属製の管が作れないといけないからこの世界における金属工作に関する精度が懸念されるわけだ。それなりに高い圧力が掛かるから鋳型だと割れそうだし。

 悩みどころは多いわけだ。

 で、作れるかもしれないものと多分作れないものの図面を分けていた訳だ。それもごっちゃになってるけど。


「仕方がない、纏めるのは帰ってからだな……」


 とりあえず固まって落ちてる部分は紐でまとめて、完全にごっちゃになってる所はそのまま俺の魔法袋に突っ込む。

 あと服とか色々魔法袋に突っ込む。

 この袋も長く使って表面が少し汚れているから洗わなきゃな今度。でも魔法袋って洗えるのか?


 それはさておき、ベッド脇の椅子に積み上げてある本を魔法袋に突っ込む。

 立てかけてある剣もしばらく使わないから魔法袋に突っ込む。ついでに片手しか使えないから銃も突っ込む。重いだけなので最低限必要な物を入れたポーチ以外はみんな突っ込む。


「よし、荷作り終わり!」


 異世界公式チートの魔法袋がある以上荷作りには困らないのである。

 俺自身チートは持ってないのに世界規模で汎用的なチートと言うのもどうかと思うが、そもそも理屈すらもよく分からない魔法で容量が広げられた袋に何も思わない時点で何も言えない。


  

 グウウゥゥ……



 腹減ったな。

 ここまであからさまに鳴るのは初めてだけど、これは聞かれたら確かに恥ずかしい……今まで聞かれた程度でって笑ってたけどごめんなさい。

 手元に何か食い物持ってたかな……


 四人共用の食料を入れるための魔法袋を開け、中身を色々と出していく。

 硬い焼きしめられたパンがいくつか、干された肉がたくさん、干した果物、保存のきく豆類など……


「豆って気分じゃ無いしなぁ……それに時間的にガッツリ食いたい」


 そう、今はおやつの時間。というよりもあと少しで夕方だ。

 ルルたちの飯作りも兼ねて何かつくるとしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねえシャリア、行きの時どれくらいパン食べた?」

「そうですね……買っていたよりもかなり少なく済んだはずですから。それに残りがあるはずですし結構少なめで良いんじゃないですか?」

「そうね。なら……パンは……」


 私たちは今帰りの時に食べる食料を買いに来ています。

 行きの時は何度か宿場町に泊まりましたから予想よりも消費は少なく済みました。帰りも同じかどうかはわかりませんが、行きの残りがそれなりにあるので大丈夫でしょう。

 あ、そうです。この辺りでしか採れない木の実なんかを買っていくのもいいですね。パンと一緒に食べるのも良さそうです。


「ルルちゃん、少し向こうの市場の方に行ってみませんか?」


 私たちがいるのはハンター向けの品々が集まる市場で、旅に向いた食料品などが扱われています。

 そしてもう一つがこの街に住まう人向けの市場。偶に来る商隊が店を開く広場と直結していて商隊が居る時はなかなか面白かったです。この前ルルちゃんがヤマトさんに渡す本を買ったのもそこですね。


「良いけど、何か買うものあったっけ?」

「木の実買いたいんです。この辺りでしか採れないものですね。王都でも探せばあるんでしょうけどこっちの方が安いと思いまして」

「そうね、治療院にいる時も何度か食べたけどあれは美味しかったわ。いいわね、そうしましょ」


 前に食べた中で一番美味しかったのは小さな紫色の木の実でした。酸味があって、とても美味しかったです。

 どこに売ってるんでしょうか……


 私たちはパンを買った市場から少し移動して、その市場をしばらく探してみました。

 すると、果物と一緒に売られている赤と薄黄色の木の実は見つかりました。でも紫色のだけが見つかりません。

 他にもいくつか果物を売っているお店はありますが、そのどこにも無いんです。


「無いわねぇ……」

「そうですね、果物とかの所にないのならどこにあるんでしょう」

「実は木の実じゃないなんて事は無いわよね?」

「さすがにそれは無いんじゃないですか?」


 私とルルちゃんは店を見て回りながらそんなことを話します。ルルちゃんの言うように実は木の実じゃないって事があるならあれは何なんでしょう。


「ねえおばさん、紫色の木の実、知ってる?酸味があって美味しいやつなんだけど」

「あー、あれかい?ははは!あれは木の実じゃないよ!あれはこいつの種さ」


 ルルちゃんがいきなり話しかけた果物屋のおばさんは笑って一つの果物を見せてきました。これは確か……


「こいつはポイドって言う物なんだけどね、まともに食べられるのが中身の種だけなのさ。あんたらが食べたのはそれだろうね。中身は白いんだが、苦くて食べれたもんじゃあ無い。でも種だけにするとすぐに傷んじゃうからこのまま売ってるのさ」


 苦くて食べれない物の種を食べようとした人に話を聞いてみたいですね。確かに美味しかったですけど、最初に食べようと言った人はどんな気持ちだったのでしょうか。


「うわっ!なにこれすっごく苦い!」

「ははは!言っただろう?苦くて食べれたもんじゃ無いのさ。ほら、こいつを食べな。いくらかは収まる」

「……あむ……あ、本当だ。苦くなくなってく」

「面白いだろう?ところでこいつ、買ってくのかい?」

「うん、そうだね……四つちょうだい!」

「毎度あり!種だけにしなきゃそれなりに日持ちするからね」

「ありがとね、おばさん」


 ほとんどルルちゃんが終わらせましたね。ところでそんなに苦かったんですか?


「食べてみる?」

「あ、貰います」


 ルルちゃんが皮をむいて匙で果肉を掬っただけのさっきの食べかけを出してきました。わたしもルルちゃんと同じように匙で掬って食べてみます……っ!?


「な、なんですかこれ!?」

「あははっ!シャリアがそうなるの珍しいわね」


 だってこれものすごく苦いですよ!なんというか子供が苦手な薬湯を何度も煮詰めて残った一番効果のある固まりを一度に口の中に放りこんだかのようなものすごい苦味が……


「ふふっ、じゃああとはヤマトたちにも食べさせないとね」

「そ、そうですね。私たちだけ食べるというのもなんか変ですし」


 私たちは今だに舌に残る苦味を感じながら日も傾いた夕方の街を宿に向けて進んでいきます。


 ここからあったことと言えば、ヤマトさんが夕食として行きの残りの食料を使ってパンと肉、あと豆のスープを作っていた事に対してルルちゃんがお仕置と称してさっきの果物を食べさせたり、昼寝をしていたマナちゃんの口の中に同じように入れたりしていました。


 


 ……平和でした。はい。

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