武具完成
「ヤマト、早く起きて!行くよ!」
ゆさゆさと身体を揺すられ目が覚める。窓の方を見るとまだ少し暗めだ。冬が近いことを考えるとそこまで早い時間じゃないんだろうけど。
「まだ早いだろ……しかも昨日は遅かったんだからもう少し寝かせて……」
「む〜っ!」
昨日の夜、ルルが髪がなんかゴワゴワするとか言ってきてその手入れをしてあげていたのだ。彼女が満足するまでブラシで梳いたりしていたから寝たのはかなり遅かった。それをわかっているからか彼女は何も言えない。
「まあヤマトさんも疲れてるみたいですしもう少し寝かせてあげましょう?それにこんなに早く行っても工房も開いてないですよ」
頬を膨らませるルルをシャリアが宥める。
「じゃあ十時!十時には行くからね!」
りょ〜かい……じゃあもう少し寝るかな……
「……ん?そろそろかな?」
窓の外を見ると陽も上がり明るくなっている。今日は少し暖かそうだ。
俺は起き上がるといつも通りに着替え、外套を羽織って階下の食堂へ向かう。
「あ、起きてきた」
「おはようございます。さっき九時の鐘がなったので時間はちょうど良さそうですね」
「そうなのか。じゃあもう少ししたら工房に行くか」
「そうですね」
俺は朝食を摂ることで時間を潰すことにした。
所変わってここは工房。時刻は昼前だ。
「よう!来たなヤマト。全部出来上がってるぜ!」
到着するやいなや現れた親方に連れられたのは大工房だ。何やら布が被せられた台があるからそこにあるのだろう。
そしてその場に居る工房の面々はみんな疲れた様子ながらもやり切ったという清々しい表情を浮かべていた。
「ここまで大変だった仕事はそうそう無えな。まあ全て硬いのなんのって……」
「あの……お疲れ様です」
俺はそう言ってここに来る前に買っていた冷やした果実水を箱ごと取り出す。
「お!ありがとよ!」
親方含め大勢が箱に群がり瓶に入った果実水を飲み干していく。この果実水はさっぱりとした柑橘系の物で王都に来て初めて飲んだ時は衝撃を受けた。今までもいくつか飲んできたがほとんどがぶどうとかの風味でワインを薄めてんじゃないのかって思ったこともある。
「さて、皆さんも揃ったことですし完成品をお見せしましょうか」
目の下に濃い隈を作ったエヴトさんが促す。
そうして、布が取り払われるとそこには赤い装備がいくつも並んでいた。
赤黒い皮の鞘に入った長剣や短剣。数本のナイフやいくつもの防具などだ。
「あれ?親方、俺の機械弓は?」
そこにはなぜか俺の銃は並んでいなかったのだ。
「おおそうだ。そこに乗らなかったからな。こっちに置いていた。だがな、一つだけ不可解な事が起こったのもあって離していたのもある」
「何があった?」
「見た方が早いだろう。ほれ」
そう言って親方は細長い布の包みを渡してきた。
うん。この時点でなんかおかしい。長さがこの前見た時と明らかに違う。140セールが160セール程にまで伸びている。今の俺の身長が170セールに届くか届かないかくらいだからかなり長い。あと数週間で成人の身だが思ったよりも身長が伸びてないことにショックを感じたのもこの瞬間だ。
布を解いてみると見た目はあまり変わっていないことに驚く。主に変わったのが龍骨の銃身だ。長さが明らかに違う。それに凍檀のストックだ。そこも少し長さが伸びている。そしてその分肉抜きがされたような中央に穴が空いた見た目になっている。イメージとしてはドラグノフ狙撃銃のストックだ。
そしてもう一つ気になるのが何故かストックや銃身長が伸びたことによって加えられたミクト結晶の部分に龍の鱗の様なものがついてる事だ。親方、どういう事だ?
「いやよ、いわゆる装飾だな。あとは多少の補強と言ったところか。ミクト結晶の部分は勘弁してくれよ。こうしないと変なところに融合しちまうからな」
凍檀の部分に小さな楕円形にされた鱗が貼られて表面を覆っている。ストックの上半分を覆うように貼られていて結構かっこいい。ミクト結晶の部分は全体的に貼られている。やはり結晶の特性のせいで手には持てないようだ。
「まあ長さが変わった以外で変化してる部分は特に無かった。龍骨の部分も中の溝は伸びた分も彫り加えられて俺が彫った時よりも綺麗になっている気がするほどでな」
ライフリングがさらに綺麗になったと……。異世界特有の不思議現象だな。未だに謎の〈初典・
「でだ。完成品はこれなんだがな、ウチの連中が興が乗ったのかこんなケースまで作っちまってよ。貰ってやってくれや」
そう言ってさらに渡されたのは俺の銃がすっぽりと入りそうな細長い黒色の革製のケースだ。見た目はまさにライフルをしまう為のケースといった見た目だ。
まあ多少銃身の入る辺りに布詰めがしてある程度で特に工夫はされていない。ただ肩に背負えるようにベルトが付けてある。
「さて、次はお待ちかねの防具とかだぜ」
そう促されさっきの台に戻ってみると既に二人は自分の防具を身につけていた。
「見て見て!かっこいいでしょ!」
ルルは龍の鱗で作られた軽鎧を付けて胸を張る。防具は彼女の胸全体を覆っているが、胸を張ったせいでその大きさが強調された。
「あの……似合ってますか?」
シャリアは少し恥ずかしいのかモジモジしているが、彼女の尻尾はブンブン振られているので自分の鎧に喜んでいるのだろう。
シャリアとルルは防具のデザインは基本的には同じのようだ。ただ各部の動かしやすさが違うようだ。
彼女たちが付けているのは胸部と腕部、それに足部分だ。胸部と腕部は全体が鱗で覆われているが、足だけは太ももの部分に鱗による装甲が付いて残りは皮で出来ている。シャリアはそれに加えて腰部にも簡単な鎧をつけている。
俺のものは鎧としての装甲は薄めにしてもらってある。理由はコートの中に着るからだ。せめてもの装甲として細かく加工された鱗が貼り付けてある。
動きやすさという点では俺もルルたちが着ているのとコンセプトは同じだ。ただ俺のが少し違う点は右手と左手で少しだけデザインが違うのと足の鎧に小物を引っ掛けられるようにした点だ。まず腕だが、これは利き手である右手は特に変化は無いのだけど左手は利き手を守るために使うかもしれないので少し分厚めに作って貰っている。それだけだ。
足の鎧は弾を入れた箱型クリップを付けようとしているところだ。ベルトでも良いのだけどポーチとか付けると場所が無くなりそうだったから念の為に付けてもらった訳だ。
とまあ、防具のデザインを話してきたわけだけど色合いは全て赤黒いのだ。だから少し禍々しいような気もしなくはないのだけど男としては結構かっこいいと思う。
俺は防具を全て身につけてみてジャンプだったりと一通りの動きを試して異常が無いことを確認する。
「異常は無いようですね。では次はこちらの剣にいきましょう」
エヴトさんはナイフの一本を手に取ってどんなに硬かったかを語り始めるのだった。
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