弾丸作り 後編
「おかえり〜」
ベッドに寝転んで魔法陣の本を読んでいたルルが迎えてくれた。
あれ、シャリアは?
「あ、ヤマトさん。おかえりなさい」
シャリアが玄関から入ってきた。手に袋を持ってるけどどこかに出かけてたのか?
「おお、シャリアもおかえり。どっか出かけてたのか?」
「ちょっとこれを買いに」
そう言って彼女が持ってる袋から出てきたのはいくつかの果物と葉っぱ、それに小瓶に入った蜜のようなものだ。見た感じハーブっぽいけど。
「これお茶の材料なんです。そろそろ無くなってきてしまって」
お茶……あ!前に飲ませてくれたやつか!
「お茶?シャリア、お茶なんて入れられたの?」
「はい……ってあれ?ルルちゃん私の入れたこのお茶飲んだことありませんでした?」
「うん」
あ、これルルの機嫌がちょっと悪い時だ。返事が短くてムッとしてる感じの時。これは怒ってるという意味の機嫌が悪い訳じゃなくて一種の嫉妬だ。
昔に貴族として参加したパーティーで確か……ああ、そうだ。王女殿下に嫉妬したんだったな。
あの時はルルがガルマさんと挨拶に行ってる間に偶然近くにいた王女殿下が話しかけてきたところで対応していたときに戻ってきて頬をぷっくり膨らませて嫉妬していたのだ。これが大人だったら問題だが子供ということで微笑ましいものと取られて、不問となったことがあった。
「じゃあルルちゃん。少し待っててください。今から入れるので」
「あれ?まだ残ってるのか?」
「あと二、三回は大丈夫ですね。この茶葉は仕込みが大変なので早めに作らないと」
「むぅ……わかった。待ってる」
おお、珍しくルルがすぐに落ち着いた。
「あ、そうだ。今からしばらく細かな作業に入るから悪いけど邪魔しないでな。だから後で美味いもんでも食いに行こうぜ」
「わかった〜。じゃあ何食べたいか考えとく。あ、そうだ。ヤマト、壊れちゃったっていう銃まだ持ってるよね。ちょっと貸して」
「ん?構わないけど一応気をつけてな」
「うん」
俺はルルに魔法袋から出した少し曲がっている銃を渡す。
「わかりました。それじゃあ後でお茶持っていきますね」
シャリアもお茶を持ってきてくれるようだ。この前と同じ味なのかな?あれは美味しかったからな。今回も期待たっぷりだ。
さて、俺たちが泊まっている宿は俺とルル、シャリアで二部屋取っている。今は俺の部屋なので、ルルたちが泊まっている部屋に移る。
普通逆な気もするがまあ良いだろう。部屋に備え付けの机の上にこの前買った天秤と小分けして瓶に入れてある火薬に乳鉢と乳棒、そして雷管の入った小箱とそれに付属していたペンチみたいなものをを置く。
床にはさっき持ってきた弾と薬莢の入った箱に水と燃石の入ったバケツを置く。まだ弾を嵌める工具は出さない。
「さてと……まずは鉛弾五十発くらいから始めるかな」
俺はまず空の薬莢と雷管、ペンチを持つ。
このペンチは挟む部分の片方が大きく抉られていて、断面になる部分が少し薄いレールのようになっている。そこに薬莢のリムという部分を通すのだ。
……とまあここまでやっておいてもまだ弾丸作りは始まらない。今のはあくまで薬莢とペンチの大きさが合っているかのテストみたいなものだ。まずは雷管を作らなくては。
「お、割れた。燃石って思ったよりも脆いのな」
俺は燃石を別の水を張ったバケツに移して、一個ずつ割っていた。割る方法は簡単で適当にナイフを押し付けるだけ。水の中だから燃石が爆発する心配は全くないのだ。だからこぼすことだけに気をつける。
「だいぶ細かくなったな。じゃあ雷管にこいつを貼り付けて……ってどうやって貼り付けんだよ」
トラブル発生である。
どうやって燃石を雷管内に固定するかの方法を考えていなかった!銃を作れるということに浮かれていた……失敗。
むむむ……簡単に加工、または変形が出来て物を貼り付けられるだけの粘着力を持っている何か。
うーん、思いつかん……ってそういや、紙も買い忘れてる!……ほんとに浮かれてるな、俺。粘土と一緒に買ってこなきゃ……って、あ。
「そうか!粘土だ!粘付きがあって柔らかく、加工も容易で細かくちぎれる!」
全く、なんで気づかなかったんだ。粘土ならこの前売ってるところを見た気がする。
「よし、こうなったらまた買い物だ!」
外は少しずつ寒くなってきているが、まあしょうがない。
「どこ行くの〜?」
出かけようとした矢先、ルルが入ってきた。
「ちょっと買い忘れたのがあったから買ってくる」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
俺はルルに手を振ると宿から出て粘土と紙を買いに行った。
まあ、特に言うべきこともないので割愛するが、無事に紙も粘土も書くことが出来た。
粘土は陶芸用もあるが、他の使い方として建物の仮組みする時の固定材として粘土が使われているからか普通に売られていた。二キグラくらい購入したな。
紙は出来れば軽いくて薄いものが最適なのだが、まさかそこまでの物は無いだろうと思いながら探していたら見つけたのだ。まるで和紙のような触り心地で、薄くて軽い紙を。聞いてみたら、どうやら北のノーク大陸から百年ほど前にこの大陸へ伝わって、今では王都の西の方ではこの紙が大量生産されているのだとか。色合いが少しくすんだ白みたいな感じなので麻紙に近いのかもしれない。
これで準備のし忘れとかは無いはずだからようやくだが弾丸作りを始められそうだな。
俺は宿に戻ると、帰りがけに買っていた小麦粉をルルたちに預けると、さっき準備したままの部屋に戻る。小麦粉は例によってパンの材料として小麦粉玉だ。
剛体蜥蜴みたいに倒せるとは思えないけどな。作っておいて損は無いだろう。
「さてと、今度こそ始めるかな」
まずは雷管作りからだ。
俺は買ってきた粘土をほんの三ミールあるかどうかくらいの大きさにちぎっていく。
粘土が千切れたら、今度は雷管となるパーツを粘土と同じ数だけ箱から取り出す。
「あとは燃石だな」
細かく砕かれ、大きさが一ミールからそれ以下くらいになった物を選別する。
あとは雷管の凹んだ部分に粘土を貼り付け、そこに燃石を乗せるだけである。
一時間半ほどで雷管作りは終了だ。
次はようやく作った雷管を薬莢に嵌める作業だ。
カチャ……ギュ
カチャ……ギュ
ペンチの抉れた部分に薬莢のリムを当てて、反対側の少しだけ出っ張った部分に雷管を乗せてあとは挟むだけだ。
上手く嵌らなかったら薬莢、または雷管を変えてみると嵌る。
雷管を嵌める作業は一時間掛かるか掛からないかくらいで終了だ。日もだいぶ暮れてきて、ルルたちと一緒に飯食いに行く予定だけどそれまでに終わるだろうか……
次は中に火薬を入れる作業だ。
ここで乳鉢と乳棒が役に立つ。
手順としてはまず先に少しだけ火薬を細かくしておく。細かく出来たらそれは一旦放置だ。
次にさっき買った紙を五セール四方できっちりと切る。ここの寸法が違うとかなりやっかいだな。
切った紙を天秤の両方の皿の上に乗せ、片方に三グラム……三.五グラ分の分銅を載せる。次に瓶の中に入れてある火薬を木匙で少しずつ乗せていく。同じく三.五グラ分だ。
「…………あと少しだけ……」
三.五グラぴったりにするのはとても難しいから多少の誤差はしょうがないと割り切る。
集中すること一分弱。何とか三.五グラ分の火薬を紙に乗せることに成功する。あとはこれを零さないように薬莢の中に注ぎ込むのだ。これは漏斗を使う。前から持っていた弾作りに使っていたやつだな。
まあそんなことをずっと繰り返して疲れてきた頃、シャリアが入ってきた。手にはカップを持っている。
「ヤマトさん。お茶が入りましたよ。一旦休んだらどうです?ルルちゃんはいつ行くのか楽しみにして待ってますけど」
うん。いい香りだな。前に飲んだ時と少しだけ香りが違う気がするけどこの香りも心地いい感じだ。
外を見てみると、もう日も暮れて酒場なんかが騒がしくなる頃だろう。
「うーん、一応一段落はしたからそろそろ飯食いに行くか」
俺はそう言ってシャリアが入れてくれたお茶を一口飲むと、一回火薬入りの薬莢を片付ける。と言っても箱に縦に並べて入れるだけだが。
カチャカチャと小箱に薬莢を詰め、魔法袋にしまう。
「じゃあ行くか。どこ行きたいか聞いてる?」
「まだですね。わたし的には魚が食べたいですけど」
「魚ね。了解」
結局、ルルも魚が食べたいということで昨日行った食堂にまた行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます