第4発

いざ王都へ

「おはよ、よく眠れた?」


 そう言って朝から俺の泊まってる部屋に侵入してくるのはもはや見慣れた金髪の美少女のルルだ。

 泊まった宿が思ったよりも部屋が空いていたから男の俺とルルとシャリアで部屋を二つに分けたはずなのだけど。それに鍵は俺が持ってるから、部屋には普通入れないはずなのだけど。

 その事をルルに伝えると、


「え?女将さんに開けてもらったよ?それにあとちょっとで朝ごはんだから呼びに来たの」


 なるほどね、朝飯か……って今何時!?


 急いでベッド脇を見てもそこには何も無い。

 そうだった……ここは異世界。目覚まし時計なんてある訳ないんだよな。もう十年近くいるのに何やってるんだ?


「ヤマト、どうしたの?どこか体調悪い?」


「いや、大丈夫だよ。寝過ごしたかと思っちゃったよ。起こしてくれてありがとな」


 そう言って俺はモソモソと布団から這い出る。

 ルルはもう食堂に戻っているはずだから急いで着替える。ルルが起きているということはシャリアもとっくに起きているだろうからな。寝坊助なのは確定だけど俺はなるべく早く行く寝坊助なのだ。


 


 小物の入った袋を背負って食堂に行くと、既にルルとシャリアは席について朝食を摂っていた。


「あ、ヤマトさん。おはようございます」


「ああ、おはよう。それにしてもシャリア、そろそろタメ口で話して欲しいって思っちゃうんだけど」


「えっと……この口調は癖なので……えっと、こうかな?」


 かわいい。

 今の「こうかな?」はとってもかわいかった。

 ただやっぱり難しいようでペタンと耳が倒れ両手デ顔を覆ってしまった。ちらりと見える頬は赤くなっていてかなり恥ずかしいのだろう。


「うう〜!やっぱり苦手です。今まで通りの方が話しやすいのでこっちで話しますね」


 無理強いする訳じゃないから別に問題はない。敬語美少女ってのもなかなか乙なものが……

 そんなことを思っていると呆れた様子のルルが急かしてくる。


「ほらほらー、早くしないと船が行っちゃうから。準備は出来ててもお腹になにか入れないと持たないよ」


 正直、船に乗らなきゃ行けないのはわかってるのだけどまたあの気持ち悪い時間がいつまでも続くと考えると嫌になるが……まあ王都に着けば何とかなるだろう。なるといいなぁ……


「ねぇヤマト、昨日買ってきてくれたサンドイッチ、美味しかったから船乗る前にまた買っていかない?」


 ルルの口調が一気に変わった。食事の話題で機嫌がいいんだろう。

 どうやら彼女は昨日俺が食って、買って帰ったサンドイッチが気に入ったようだ。確かに美味かったからな、あれ。


「ん?良いけど空いてるかな」


「あそこならこの時間なら空いてるはずですよ。朝は学生のために開けてるって聞きましたから」


「そうなんだ。じゃあヤマト、買っていくので決定ね?」


 俺は頷いて答える。

 お、今日のスープも美味いな。


 今俺たちが泊まっている宿は少しいい所で、庶民よりの中流のところだ。しかも、昨日俺が立ち寄った喫茶店を運営していたのがこの宿の元従業員だったらしく料理の味も似通っているのだとか。



「じゃあそろそろ出発しましょうか」


 俺たちは朝食を終え、宿から出る。船が出る時間まではまだあるからルルがお望みのサンドイッチを買っても余裕があるだろう……ってルルが走って行っちゃったよ。さっき食ったばっかりなのにどんだけ食いたいんだ。


「ふふっ、ルルちゃんも子供っぽいとこあるんですね」


「まあな、ルルは昔っから飯には煩かったしな。貴族の食うような物ばっかりじゃなくて猪の肉を香草と焼いたようなものとか山に入ったら木の実とかもバンバン食ってたし」


「えっと、それは食べ物に煩いと言うよりは食い意地が張ってるような気がするのですけど」


「実際そうなんだけどな。食い意地が張ってるって言うと怒るんだよ」


「そうなんですね」


「ヤマト、シャリア!買ってきたよー!」


 ルルが紙袋を手にこちらへ戻ってくる。思ったより早かったな。店のすぐ近くだったとはいえ空いてたのかな。というか、もう一個食ってるし。


 ルルの手には食べかけのサンドイッチがあった。


「だって美味しいんだもの」


「ルルちゃんってこんな人だったんですね……」


「ああ。人前じゃずっと隠してたんだがな。完全に信用した相手の前だとこうなる」


 最近は周囲の環境の関係で収まっていたが、シャリアも加わったことにより色々と食べるようになり始めている。さすがにいきなり野草を食べ出すことは無いはずだけど……昔あったんだよ、野草食ってお腹壊したこと。こっぴどく叱られてたのは今でも笑ってしまうのだ。





「あ、見えましたね。あの船です」


 シャリアが指さした先にはここに来る時に乗った船と似たような形状の船があった。


「……はい。この船で正解のようです。まだ多少時間がありますけど、乗って待ってましょうか」


 港にある掲示板で王都行きの船かどうかを確認する。


「じゃあそっちは任せるよ。俺は甲板に居るから」


「わかったわ」

「任せてください」


 さてと、そろそろ昨日ルルが買ってきてくれた船酔いに効く薬とやらを飲んでおくかね。でもこれ、完全に見た目が正○丸なんだけど。見た目どころか臭いまでそっくりだからこれ酔いとかよりは腹痛に効くやつじゃないの?


「うーん、口に残る臭いまで同じだ。これって薬草……いや漢方かな?確か正○丸って漢方薬だった気がするし」


 薬草と漢方の違いなんて知らないからどっちでもいいのだけど。


「お待たせ。シャリアは先に部屋に行ってるよ」


 ルルが呼びに来た。それと同時くらいに船も動き出す。


 さてと、俺は部屋に戻らなきゃ。早くしないと酔いが来ちゃうからな。

 はぁ……王都に向かう時の川の景色は綺麗だって聞いてるんだけど見れないかな。



 俺は憂鬱になりながらもルルに連れられ部屋へと向かうのだった。

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